第14話 くっころガチ勢、演武を見る
(いよいよ開催式か……)
ゾーラコロシアム内でα組に用意された控室では生徒たちが楽しそうに話をしている。
こういった場面は前世の体育祭に繋がる部分があると思う。
やはりスポーツは世界を繋ぐんだね。
武器を使う競技をスポーツと訳してもいいかは疑問だけれども。
「お前ら全員揃ってる?一応点呼とるぞー」
ショーン先生が入ってきて点呼を取り始める。
しかし……
「ん?まだフローラは来ていないのか?」
言われてみればまだ今日フローラの姿を見ていない。
エセルはもうすぐ来ると思うと言っていたけれどまだ来てないのか?
もしかして迷ってるとか?
「仕方ない。それじゃあ──」
「せ、先生!遅れてすみません!」
ショーン先生が次の指示を出そうとするとタイミングが良いのか悪いのか、息を切らしたフローラが入ってくる。
まさか本当に寝坊したのか?
「遅刻とは珍しいな」
「す、すみません……少し準備に手間取ってしまいまして……」
「そうか。まあいいさ。一応今日は遅刻にはしないでおくから次からは気をつけて。せっかくの祭りにわざわざ水を差したくないしね」
「はい。本当にすみません」
フローラは深く頭を下げてこちらの方に歩いてくる。
クラスメイトたちは珍しそうにフローラを見ていたけど先生が再び話し始めたので視線は離れていった。
「はぁ……やっちゃいました……」
「何かあったのか?」
「いえ、先程も言った通り準備に手間取ってしまっただけなんです。なので完全に私の自業自得ですよ」
「そういうものか」
でも髪型とかいつもと変わらないし何に手間取ったんだろう……
まあ女子は男子以上に気をつかうんだろうな。
そういうことにしよう。
いくら女性との交際経験が無い俺が考えてもわかるはずないし、そこまで興味もない。
わざわざ掘り返す必要も無いしな。
「それじゃあもうそろそろ時間だし行くか。他の人の目もあるんだからしゃっきりしろよ」
そう言ってショーン先生を筆頭に控室を出る。
他のクラスも同様に徐々に部屋から出てきており広々とした廊下は生徒たちで埋め尽くされる。
そして光が見えてきてようやく外に出ると全面を取り囲む観客席に埋め尽くされた人々の歓声が聞こえてきた。
「へぇ……これはすごいな……」
「ふふ、驚きましたか?」
横にいるフローラが楽しそうに笑う。
だがこれは本当に想像以上だ。
「まだ始まる前なのにすごい熱気だな」
「年に一度のお祭ですから。一般の方々も楽しみにしていてくださるんですよ」
「そのようだな。アルバー王国にはこういった祭りは無い。これほどの熱気は新鮮だ」
アルバー王国にだって当然祭りが無いわけじゃない。
だけど精々屋台が道にたくさん並ぶくらいでこういったイベント事は少ない。
ベトラウでも今度何か試してみようかな。
経済を回すのは良いことだしみんなが楽しめるならドレイク家主催で大きい祭りを開くのは吝かでない。
もしそれが伝統となって受け継がれていくとしたらなんだか嬉しいよな。
『あ、あー……皆さん、おはようございます。ゾーラ高等学校の校長、ニールと申します。今年もこの季節を迎えられたことを大変嬉しく──』
校長の話は長かったので割愛。
もう校長の話が長いのはこの世の理であり自明。
諦めて聞き流すしか道はない。
俺達は荷物を控室に置いて生徒用の応援席に移動する。
観客席の最前列なので中々見やすいし悪くないな。
「最初の種目はなんだったか?」
「最初は演武ですね」
「演武か……面白いのか?」
「出場者の力量によるとしか。ですが実力者が出てくると毎年かなり盛り上がりますよ」
大演武会というこの行事の命名のきっかけになった演武は一番最初にやるらしい。
こういう戦いじゃなくて型を魅せる競技って面白いのかな?
見取り稽古くらいならしたことあるけど娯楽として見たことはないかもしれない。
「あ。アルバー王国の方々も何人か出場なさるようですよ」
そう言ってフローラが指を差した先にいたのは見慣れた士官学校の訓練用軍服を
身にまとった二人の姿。
あれは……
「ヴィクター王子とトムだな。あの二人演武に出るのか……」
多分誰かと戦うのが嫌で演武にしたんだろうな。
ちょっと演武を観るのも楽しみになってきたかも。
何人かが演武を披露しようやくトムの順番が回ってくる。
そして剣を振るい始めるが見ているこちらがヒヤヒヤとしてくる足さばき。
完全に腰が引けてしまっていて足腰がフラフラしている。
面白くて笑ってしまうというよりも敵もいないのに怪我をしてしまわないか不安になってくる始末である。
(が、頑張れ……!あとちょっとだからやり切るんだ……!)
そして制限時間が来るとトムが頭を下げ、端にはけていく。
するとパチパチと拍手がトムへと寄せられていた。
うん、頑張ったもんな……お前の頑張りは十分に伝わってきたよ……
「彼はもう少し軽い剣を使ってもいいかもしれませんね」
「そう言ってやるな。多分あれが一番軽いやつだぞ」
「……ヴィクター王子はどんな演武をするんでしょうね」
おい、話題を逸らすんじゃないよ。
でもトムの運動音痴は俺のくっころ好きと同じくらい筋金入りだからなぁ……
人には得手不得手があるしトムは頭が良いんだから無理しなくてもいいとは思う。
今回は行事だから仕方ないさ。
◇◆◇
「中々良い演武でしたね」
「ああ、悪くなかった」
見るだけってどうなんだ?と最初は思ったけど意外に面白かった。
多分お祭り気分なのと知り合いと一緒に見てるからだろうな。
1人だったら見ようと思わない。
ちなみにヴィクター王子は先ほどの武術への自信のなさはなんだったのかと聞きたくなるくらい手堅い演武をしていた。
大失敗したときに慰めるかからかうかどっちにしようか迷ってたのに無駄になった。
「よし、それでは行ってきますね」
「出番か?」
「はい、次の種目です」
次は確か1対1だったっけ。
この演武会でもトップを争う人気種目だって聞いたな。
確かにフローラは実力があるし個人戦はその実力を遺憾なく発揮できるだろう。
「頑張れよ」
「はい、もちろんです」
「肩の力を抜けばウォルシュ嬢なら大丈夫だ」
「……………な」
「え?」
「なんでもありません。いってきますね」
フローラは席を離れ歩いていく。
その前に見せた微笑みはいつも通り美しく可愛らしかった、はずなのに。
その表情がどこか陰ったように見えてしまったのはなぜなんだろうか。
今はなんとも判断できない。
わからないことを考え続けるよりは出場者たちをよく見てくっころで輝く人物を探せほうが有益だ。
だけど俺はなんとなく感じ取っていた。
まだ確信があるわけじゃない。
推測の域を出ないがくっころの気配はじわじわと近づいていると。
俺はその時が来るまで釣り人のように忍耐強く待ち、チャンスが来たら一切の躊躇いなく狩人のようにアグレッシブに獲物を狩る。
ただそれだけだ。




