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第8話 くっころガチ勢、女の戦いを目の当たりにする

「はじめまして、アルバー王国からお越しくださった皆様方。私はこのα組で学級長を務めさせていただいています、ウォルシュ男爵家が長女フローラ=ウォルシュと申します」


フローラと名乗る美少女はそれに見合うとても綺麗な所作で頭を下げる。

既に俺と一緒にこのクラスに入ることになった男子2人は見惚れていて、女子も羨望やら尊敬やらが詰まった視線を彼女に送っていた。

魅了の魔道具を使わずともここまで人を惹きつけるとはすごいな。

まあ俺はくっころ以外に心奪われることなんてないから無傷だがな。


「はじめまして。ジェラルト=ドレイクだ。よろしく頼む」


「まあ、あなたがドレイク家のご子息だったのですね。エセルは何か粗相をしていないでしょうか?」


エセル……?

なんで急に……ってさっきの自己紹介でフローラ=ウォルシュって言ってたっけ。

エセルはウォルシュ家の専属騎士らしいしフローラの騎士だったのか。


「いや、正義感もあり礼儀正しく素晴らしい騎士だった。アルバーは騎士の国と言われるが彼女は我が国でも彼女の姿もまた騎士そのものだった。護衛を送ってくれたこと、感謝する」


「いえ、お力になれたのならば幸いです。エセルも喜ぶことでしょう」


フローラの表情は柔らかく言葉も丁寧で礼儀正しい。

だが言語化できない違和感を感じるような気も……

まあ違和感を感じているかも怪しいところだから俺の勘違いか。

別におかしなところは見受けられないし。


「フローラ、個人的な話はそれくらいにしておけ。もうすぐ授業を始めるぞ」


「すみません、先生。α組学級長として貴方がたを歓迎します。よろしくお願いします」


そう言ってフローラが再び丁寧に頭を下げると教室中から拍手が起こる。

なるほど、中々人望があるらしいな。

本当に美人だし人望もあるとなると相当モテるだろうから距離感はしっかり見極めないと男子からの嫉妬やらが凄そうだな。

孤立するわけにもいかないし今まで以上に立ち回りは気をつけよう。


「じゃあそんなわけで今日から早速授業に参加してもらおうか。担当を務める者は前に出てくれ」


ショーン先生がそう言うと何人かの生徒が前に出てくる。

彼らが俺達に色々と教えてくれるんだよな?

さて……俺のペアは一体誰──


「……まさか」


「ええ、私があなたのペアを務めさせていただきます。よろしくお願いします。ジェラルト様」


そう言ってフローラはニコッと微笑む。

その笑顔はとても美しいがそんなことを考えている間もなく教室中の男子たちの視線が俺に集まる。

その視線の種類が羨望ならばまだ良かったがほとんどが嫉妬やら怒りやら。


(おいおいおいおい!俺さっき距離感気をつけようって決めたばかりなのになんでこんなことになるんだ!?予想通りかそれ以上に男子たちから敵意を向けられてる気がするんだが!?)


この学校の、というか世界的に学校では男女比で男性の方が多い。

そんな中男子に敵対されたらかなり居心地悪いし、女子が少ないからこそクラスのマドンナ的存在を独占するのは面白くないという悪手中の大悪手。 


でも仮に『チェンジで』なんてキャバクラじみたことを言おうものなら言ってることが最低すぎるしフローラだって傷つける。

さらに男子たちの怒りに火を付けることになりかねない。

つまりここは受け入れるしか俺には選択肢が残されていなかった。


「はぁ……わかった。よろしく頼む」


「ええ、お任せください」


今からどうやって男子たちを懐柔するか考えておこう……

悪役を演じるといっても流石に男子たちの女の恨みは怖すぎる。


「よし、決まったようだな。それじゃあ席につけ」


「ジェラルト様、こちらですよ」


そしてフローラに案内された席はなんとフローラの隣。

しかもフローラは教室の端っこの一番うしろという主人公席に座っているため俺じゃない側の隣は窓。

まさに俺がフローラを独占したような形になってしまい余計に俺の立場が悪くなっていく。


「……席の変更は可能か?」


「一応ここが先生に決められた場所ですので。そんなに私がお嫌ですか?」


「いや、そういうわけではないが……」


男子たちの視線が痛い。

本当に勘弁してくれよ……


◇◆◇


そのまま針のむしろのような気分で時を過ごし今は昼休み。

俺じゃなかったら多分泣いていたぞ?


「ジェラルト様、よかったらお昼ごはんをご一緒しませんか?」


まーた始まったよ……

この人自覚してるのかしてないのか知らんが結構かなり俺に絡んでくる。

女の天然ほど信用できないものはないというがペアの役目を必死に果たそうとしているのか俺に取り入ろうとしているのか俺には判断がつかない。

ただ厄介なことには変わりなかった。


「いや、それは……」


「ジェラルトさん。よかったら一緒に昼食を──」


タイミングがいいのか悪いのか。

シンシア王女が隣のβ(ベータ)組からこっちへとやってくる。

そしてこちらを見て固まってしまう。


「じ、ジェラルトさん……そちらの方は……?」


「はじめまして。フローラ=ウォルシュと申します。ジェラルト様のペアを務めさせていただくので親睦を深めようと思い昼食にお誘いしていました」


フローラはニコリと笑ってシンシア王女と向き合う。

シンシア王女は俺の横へと移動してきて腕を組んできた。


「ご丁寧にありがとうございます。私はジェラルトさんの《《婚約者》》のシンシア=アルバーと申します」


シンシア王女もニッコリと笑うがどこか凄みがある。

婚約者、の部分がやけに強調されていたように思うがこの際気にしないことにしよう。

というか俺の婚約者という名乗りより第2王女ですという自己紹介のほうがよかったんじゃ……


「アルバー王国の姫君でしたか。これは失礼いたしました。無礼な態度をお許しください」


「え、ええ……」


「婚約者がいる身で私がご一緒するのはあまりよろしくありませんね。私はこれで失礼します」


そう言ってフローラは丁寧な態度で礼をして歩き去っていく。

俺はその画になる後ろ姿を見送りながら思案にふける。

やっぱり何か違和感があるんだよな……

くっころの気配はしそうなんだけどどこか煮えきらないというか……


「むぅ……あの方に見惚れてるんですか?フローラさんとてもお綺麗でしたものね」


「ん?いや、そんなことないさ。ただ少し気になることがあってな」


「本当ですか……?デレデレしていませんか?」


デレデレしとらんわ。

そんなにも俺の信頼は無かったのか。

まあ相手はあんだけ美人だし負けたくないという気持ちもあるんだろうな。


「取り敢えず飯にしよう。一緒に食べるんだろう?」


「……!はい!」


さっきまでジト目で俺を問い詰めるように見つめていた瞳が大きく見開かれパアッと輝く。

チョロいなと内心思いつつシンシア王女と共に食堂へと歩きだすのだった──

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