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第28話 魔眼の暗殺者、絶対の忠誠を誓う(カレン視点)

私は普通の何の変哲もない平民の家に生まれた。

お世辞にもお金持ちとも言えなかったし貧乏の部類ではあったけど満ち足りていたし幸せな日々を送っていた。

しかし異変は突如起こった。


「う……わあぁぁぁぁ!!!」


「カレン!どうしたのカレン!」


「大丈夫かカレン!」


5歳の頃、猛烈な目の痛みが私を襲い倒れてしまう。

村で一人しかいなかった医者のところへ両親は連れて行ってくれると驚きの診断がくだされた。


魔力過拾集症まりょくかしゅうしゅうしょう……?」


「はい、間違いないと思います」


「せ、先生!それって大丈夫なんですか!」


それから医者に魔力過拾集症について教えてもらった。

魔力過拾集症は魔力が体の一部に自然と流れ込んで蓄積してしまうというもの。

病気ではなく一種の特異体質なようなもので治療法は見つかっていない。

私の場合は目に発症してしまったらしく目に体中の魔力が吸い寄せられてしまっている状況らしい。


「死ぬことはないでしょう。ただ……これから苦労することと思います……」


その医者の言葉通り私は成長していくにつれ体に溜め込める魔力量が増えたことで症状はどんどん悪化していく。

具体的な症状は魔力量によって視力がどんどん変わっていくことでの極度の酔い、目の痛み、そして魔力が貯まることによる薄っすらとした目の発光。

まるで自分が人間じゃないみたいでどんどん嫌になっていく。

そんなとき、私にも生きる希望が見つかった。


「え……本当に……?」


「ええ、子供ができたの」


私が6歳のときにお母さんが妊娠した。

私がお姉ちゃんになる、そう思ったらなんだか嬉しくなって涙が溢れてしまったのを今でも覚えている。

それからしばらくしてお母さんが双子を出産すると私は可愛くてしょうがなくて構いまくった。

どんどん成長していく弟妹たちと共に沈みがちになっていた我が家は少しづつ明るさを取り戻していった。


しかしそんな幸せな日々は長くは続かなかった。

お父さんが流行り病で亡くなってしまったのだ。

お母さんは私たち3人を養うために必死に働いてくれてどんどんやせ細っていくのを幼い私はただ見ていることしかできなかった。


そこに悪魔につけこまれた。


「私に……お仕事を……?」


「ええ、ゲイリー=マーカム公爵様が貴方を雇いたいと仰せです」


「でもなんで私なんかを……」


「貴方の目に興味があるそうです。給料も出ますし家族の方々の優遇も約束なさるそうです」


それを聞いたときの私は公爵様というのは天が導いてくれた神様なのではないかと思った。

家族ともっと幸せに暮らせるのならそれでいい──

そう考えた私はお母さんたちとも相談して承諾することにした。

それが大きな過ちだったと気づかずに……


「はじめまして。カレンです。このたびはありがとうございました」


「よいよい。このくらい造作もないことよ」


マーカム公爵様は優しそうなおじいさんだった。

ここに来る前にお屋敷を見せてもらったけど大きくて立派だった。

これからあんなところに住まわせてくれるなんて夢かと思う。

しかし雰囲気はガラッと変わってしまう。


「では酷だが聞こう。私のために働く気はあるか?命を捨てる覚悟があるか?」


「え……死にたくないです……私は……お母さんたちと一緒に幸せに暮らしたい……!」


「ダメだ。ちょうど新しい暗部を作ろうと思っていてな。お前はそれに適任なのだ。故に家族などと言うようでは困るのだよ」


怖い……

なんで……さっきまであんなに優しそうだったのに……


「今ここで選べ。私に全てを捧げ家族を守るか、この場で家族もろとも皆殺しにするか」


涙がとめどなく流れてくる。

幼いながらも言われていることの異常さに気づいていた。

でも家族は今、屋敷で私を待っているはずで断れば本当に殺されてしまうかもしれない。


「早くしろ」


「ひ、ひっ……わ、わかりました……」


「ふん、それでいい」


そこからは地獄の日々の始まりだった。

よくわからない施設に送り込まれ勉学、暗殺術、体術など色んなことをさせられた。

様々な技術を叩き込まれ毎日血を吐くほど鍛錬させられてようやく認められたのは5年経った11歳のときだった。


そこでシンシア王女という方のお付きの侍女になるように命じられる。

言われるがまま私はどこかの貴族家の養子にさせられ侍女として住み込みでお城で働くようになった。

たまにマーカム公爵様のもとへ報告に行くが私は既に死んだと家族に報告されていて接触は禁じられ月に一度遠目で家族の生活を遠くで見守ることしか許されなかった。

そしてシンシア王女の存在も私を苦しめていた。


「カレン、きょうはなにしてあそぶ?」


「シンシア王女殿下、きょうはダンスのレッスンですよ」


(この人は富も地位も家族も全て持っている……私には……何も無い……)


自分とは違い全てを持っているシンシア王女が羨ましかった、妬ましかった。

自分より2歳年下の子供に嫉妬する自分が嫌だった。

でも考えずにはいられなかった。

お父さんが生きていて家族みんなで一緒に暮らせたらどれほど幸せなことなんだろうかと。


しかしそんな醜い感情はシンシア王女と共に時を過ごすたびに溶けて無くなっていった。

彼女も必ずしも幸せなわけじゃない。

貴族たちに下卑た視線を向けられ、勉強が苦手な自分と裏腹に兄は天才と言われ劣等感に悩み、困っている人を救いたいと本心で考え一切の妥協なく努力する姿に私は少しずつ心を開いていった。

自分も少しずつ大きくなって彼女は彼女、自分は自分で悩みは違うし比べられるものでもないと気付けるようになったのだ。


でも私はマーカム公の間者でありシンシア王女への信頼や友情は罪悪感へと変わっていく。

情報の横流しなんてすぐにでもやめて本心からシンシア王女を支えたい。

でも自分が職務を放棄すれば家族が危ない。

大切なものに板挟みになってどうすればいいのかわからなかった。

どれだけ考えても正解は見つからなかった。


(それでも……私は仕えるべき人に出会えた……)


ジェラルト=ドレイク様。

私の新しいご主人様で家族を救ってくれた大恩人でもありシンシア王女の未来の夫でもある。

ジェラルト様に仕えるということはシンシア王女に仕えるということ。

家族とも一緒に暮らせるようになりこれほど満ちていて幸せな日々はない。


私はもう数え切れないほどの恩をお二人から頂いた。

今度は……私が返していく番だ……!

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