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第35話 赤き華、サヨナラと自分の想い

私は生まれながらに人より少しだけ魔力量が多かった。

そして剣も使えるんだと知ったのは私が5歳のときだった。


家族はみんな喜んでくれた。

すごいすごいとたくさん褒めてくれた。

いつも戦場にいて中々会えないお父様が大きく温かい手で頭を撫でてくれたのを今でも覚えている。


それからお父様は剣聖と呼ばれる大剣豪を師匠に付けてくれた。

私は剣聖アルベルトの下で剣の腕を磨き続け、ついに免許皆伝になった10歳のある日のことだった。


「私を師匠に、ですか?」


「そうだ。ドレイク家のご嫡男が腕の良い剣の師匠を探しているらしい。剣聖アルベルトを貸してほしいと言われアルベルトにそのことを伝えたら逃げ出してしまってな……私の家臣というわけでもないから無理に引っ捕らえることもできぬ」


お父様は疲れた顔をして呟く。

私はお父様の疲れを少しでもなんとかしたくて頷いた。


「わかりました。私が師匠になります」


「頼んだぞ。お前の腕なら間違いない。大人でも勝てる者のほうが少ないだろうしな」


今となっては一番近い年の私でドレイク家とパイプを作る目的もあったのだろう。

数年間住み込みで指南することになりドレイク家に向かうとイアン様のあまりの迫力に泣きそうになった。

なんとか了承してもらうと私はさらなる衝撃に出会ったのだ。


「あ、あなた本当に5歳……?」


「はい、5歳ですよ?」


まさに天才。

私が教える相手は私なんて足元にも及ばないような才能を持った子供だった。

同時にこの才能を殺すようなことがあってはならないと心に刻んだ。


そこからジェラルトは恐ろしい速度で成長していった。

師匠として、一人の剣士として負けないように私も必死に努力した。

ジェラルトの才能に魅せられて私も剣をたくさん振った。

多分あのときから人生で一番の努力を続けている。


士官学校に入ってもそれは変わらなかった。

ジェラルト以上の生徒は存在しない。

学年1位を取っても満足できない。

だって私のライバルは学友たちじゃないから。


ジェラルトと出会って私の生き方は大きく変わった。

負けたくない、私が師匠であり続けたい。

そんな想いで剣を振り続けていた。


それが家族を分解させてしまうきっかけになるとは思いもせずに──


◇◆◇


(ああ……どうしてこうなっちゃったのかな)


私は縄で拘束され座らされる。

私の近くには2人の衛兵が立ち、少し距離が開いたところから貴族たちが私を見ている。

王は正面に立ち、その斜め前にヴァーカー侯爵が立つ構図だ。


「これより!謀反人を身内から出したカートライト家への裁判を開始する!」


カートライト家への断罪と言えどこの場には私しかいない。

一番上の姉は既に嫁入りしてカートライト家を出ていて、兄ともう一人の姉は死亡。

父は外に出てこれなかった。

というのも父は大病を患っている。

そのため数年前からずっと領地に戻り療養しているが中々快復しない。

故にこの場に呼ばれたのは私だけとなった。


「陛下。陛下の指示を受けたドレイク侯爵率いる鎮圧軍は官軍。そこに逆らい戦ったのはヒューズ=カートライト及び、クリスティーナ=カートライトです。これは王国法により国家反逆罪の連座に該当するケースであると上奏いたします」


ヴァーカー侯爵が陛下に向かって頭を下げながらそう言う。

何一つ偽りのない事実。

改ざんした話で私を貶めようとしているわけでもない。

だが事実なだけに余計質が悪かった。


「マーガレット、申し開きは?」


「……ございません。ヴァーカー侯爵閣下がおっしゃったことは事実です」


もはやこうなってしまえば無罪になるのは難しい。

連座なんてバカらしいと今まで思っていたけどそれもいいのかもしれない。

私は大切な家族を失った。

みんなのところに行けるなら私は……


「ふむ、なるほど。確かにこれは連座に相当するな」


「お待ちを、ロナルド王」


「なんだね?ドレイク侯爵」


陛下とヴァーカー侯爵の言葉にイアン様が待ったをかける。

イアン様の発言一つで空気が大きく変わった。

場に緊張感が増し、ピリついた空気になる。


「マーガレットをここで殺すにはあまりにも惜しい。彼女が王国騎士団でどれだけ功績を挙げたか知らない者はこの場にいないでしょう?」


「だが、法は法だ。それを貴族たる我らが守らずしていかがするのだ」


この場にもっと法を犯している貴族なんて腐るほどいるだろうに……

やっぱり貴族なんてそんなものなのだ。

自分の利益のためならなんだって言える。

ヴァーカー侯爵も王家以上に力を持つドレイク家が気に入らず少しでも力を削ぐために言っているだけだろう。


「では功の話をしよう。マーガレットは先日起こった王族暗殺未遂でヴィクター王子殿下とシンシア王子殿下の命を救っている。この功はいかがするのだ?」


「王族を裏切ればどのような功も帳消しになるに決まっておろう」


「本人は我が軍と共に行軍し、裏切り行為など一つもしていないが?」


「反逆はそれだけ重いと言っているのだ!」


ヴァーカー侯爵が激昂する。

だがそれに相対すイアン様はどこ吹く風だ。

いつも通り整った顔を涼しげにヴァーカー侯爵を見据えている。


「反逆の連座と両殿下の命が同じ重さ、もしくは連座のほうが重いと言っている君のほうが私には理解できないのだが?」


「両殿下をお守りしたのは感謝しかない。だがそれとこれとは別問題なのだ。王家に背くというのはそれほどのことなのだぞ」


あくまで王家こそが全てであるヴァーカー侯爵と実力や功績が全てであるドレイク家。

両家の性質がそのまま出たような討論になっている。


「マーガレットは王国建国以来の天才と呼ばれる才媛だ。そうやって疑心暗鬼になって優秀な臣を失い国力を下げようとするのは他国と内通でもしてるのか?この佞臣ねいしんが」


「我らほど王家に忠誠を誓う家は無いと思うが?」


両者一歩も引かない。

私にできることはただ見守ることのみだった。


「陛下、いかがしますか!」


「……両者の言うことに一理あるであろう」


「陛下!どうかご決断を!国に危険分子を残しておくわけにはいきませぬ!」


「……わかった。……マーガレットを斬れ」


そして下されたのは無慈悲な一言。

私の命の終わりを告げる一言だった。

側に控えていた衛兵が剣を抜き振り上げる。


「はぁ……こうなったか。正直この手は使いたくなかったがやむをえまい。ジェラルト、やれ」


「はい」


ジェラルトの声が聞こえた瞬間、衛兵たちの剣が弾かれる。

見れば魔装をまとったジェラルトが私の目の前に立っていた。


「き、貴様!一体何をしようというのだ!」


「黙れ!この売国奴めが!」


「坊やの好きにさせなよ」


ヴァーカー侯爵の激昂をドレイク家配下の有力貴族たちが止める。

いくら侯爵と言えど格があまりにも違いすぎた。


「……ジェラルト」


私は大丈夫だよ、と言おうとして続きの言葉がでてこなかった。

いつでも死ぬ覚悟が出来ていたはずなのに怖くて震えが止まらない。

どうして……どうして言えないの……!?


その瞬間、私の中で温かくてでも、どこか切なくて胸が痛い気持ちが溢れ出す。

今まで何回も味わったことがある感覚。

だけどここまで強く感じることはなかった。


そしてようやくこの想いの正体に気づく。


(そっか……私ってジェラルトのことが好きだったんだ……)


今までずっと弟のような存在で家族愛だと思っていた感情の正体。

自分の感情に正しい名前を付けられたとき胸のつかえが少しだけ取れたような気がした。

こんな死ぬ直前に気づくなんてなんて間抜けなんだろうか。


(いや、でもこれでよかったのかもしれない……もし告白なんてしちゃってたらきっとジェラルトを困らせちゃうもの……)


私はシンシア王女のような家格もフローラさんのような特別な魔力も持っていない。

年だって行き遅れに片足を突っ込みかけている20歳。

政略結婚と言えど年が大きく離れていて女のほうが年上となれば通ることは少ない。

どうせ叶わぬ恋だったのならこれでいいのだ。


「師匠……覚悟はできているか?人生全てを捧げる覚悟は」


死ぬ覚悟はできたかってこと?

そんなの……できるわけないじゃない。

好きな人ともっと一緒にいたい。

一緒に話をしたい。

一緒に遊びに行きたい。


次から次へと自らも気づかなかった欲が湧いてくる。

私……こんなに女々しかったんだ……


それでも私はジェラルトを困らせるのだけは嫌だった。

私はできるだけ気丈に首を縦に振る。


「ええ、もちろん」


「……そうか」


ジェラルトが剣を振り上げる。

キラリと光る剣身はいつもよりなんだか怖く見えた。


だけど……好きな人の手で人生を終えられるのはそれは幸せなことなのかもしれない。

きっとジェラルトは最後まで看取ってくれる。

ジェラルトの心に傷を付けちゃうかもしれないけどどうかジェラルトには笑っていてほしい。


だから私は勇気を振り絞って笑顔を浮かべた。


「──今までありがとう。ジェラルト」


ジェラルトの剣が振り下ろされる。

そして《《私を縛る縄がストンと落ちた》》──

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