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第34話 くっころガチ勢、背中を押される

「やれやれ……本当に面倒くさい貴族ばかりだな」


父が呆れ混じりのため息をつきながら呟く。

今この場はドレイク家領主館の一室。

次の一手を打つべく家族全員がこの会議室に集まっている。

そして特筆すべきは……


「あの……本当に私たちも同席させてもらってよろしいのでしょうか……」


「は、はい……」


そう、この場にはシンシア王女とフローラも呼ばれていた。

いつもそういう家族での会議に2人が参加することは一度も無かった。

そういう意味でも不安なのだろう。


「大丈夫ですよ、シア義姉さま、フローラ義姉さま。お二人をここに呼んだということはお父様が認めたも同然です」


「おいおい、アリス。人聞きの悪いことを言わないでくれ。私は認めていないなどと言ったことは一度もないぞ?むしろ推奨派だ」


「うふふ、これは失礼しました」


アリスが上品に笑う。

父も苦笑して返すがどこか楽しそうだ。

父は基本忙しいし今回はすぐに戦に出てしまったからアリスとの時間があまり取れなかったのだろう。

久しぶりの父娘の時間だからな。


「私とジェラルトはマーガレットさんを連れてまたすぐに王都に行かないといけない。真面目な話で家族との時間が無くなるのは惜しいから早速始めようか」


「あ、待って。あなた」


「ん?どうしたんだい?オリビア」


父が話を始めようとすると母が待ったをかける。

母は立ち上がるといきなり頭を下げた。


「改めて……あなた、ジェラルト。無事に帰ってきてくれて本当にありがとう。戦勝の報告も嬉しかったけど何よりもそれが一番大切なことだもの」


「あはは、ありがとうオリビア。私は簡単には死なないさ。私は強いからね」


「ええ、そうねイアン……」


両親の瞳が熱っぽくなる。

両親のイチャイチャを目の前で見せられるのは勘弁なんだが?


「ジェラルトさんも本当にお疲れさまでした。怪我も無さそうで安心しました」


「おかえり、ジェラルト。馬に乗るジェラルトカッコよかったよ」


俺の両隣に座っていたシンシア王女とフローラが俺にいたずらっぽく言ってくる。

だがその表情には安堵の色が見えて俺のことを心配していてくれたことがわかる。

くっころ云々はとりあえず置いておいて俺も感謝の意を伝えた。


「2人ともありがとう。ちゃんと約束通り無事に戻ったぞ」


俺がそう言うと2人は嬉しそうに笑う。

俺が留守中も特に問題は起きなかったようで少し安心した。


「さて、今度こそ話を始めようか。まず今回はマーカムの奴らが貴族派の連中に呼びかけ内乱を起こした。そこまではいいね?」


俺たちは全員首を縦に振る。

ここまでは全員知るところだからな。


「そこで私とジェラルトで一計を案じたんだ」


「一計、ですか?」


「ああ、その通りだ。そしてその内容は──」


父は計画の全てを話す。

俺と母は既に知っている話だから、これはアリスとシンシア王女とフローラに向けられた話だ。

これはドレイク家にとって非常に大切な話だ。

全員に聞いておいてもらう必要がある。


「というものだ。私たちはここまで少しずつ布石を打ってきた。もう仕上げの最終段階まで来ていると言っても過言ではないね」


そう、もう止まれないところまで来た。

最後まで走り切ることしかできないのだ。

故にこれは話し合いではなく報告。

ドレイク家現当主と次期当主が決めた方針なのだ。


「軽蔑したか?2人とも。ドレイク家(俺たち)はこういう家だ。ドレイク家を大きくし守るためならなんだって利用する」


本当は嫌われたいはずなのに軽蔑してほしくないと思ってしまう自分がいる。

ここはだが逃げてはいけないところだ。

いずれ結婚しドレイク家に嫁入りしてもらうならばこういった事情は避けて通れない。

俺が緊張の面持ちで待っているとシンシア王女が口を開く。


「今のお話のどこに軽蔑する要素があるんですか?」


「え?」


「うん。私もシンシア王女も別に軽蔑したりなんてしないよ?もっと汚いことしてる貴族なんて腐る程いるし、そもそも汚いことだとも思わないし」


シンシア王女とフローラの言葉は意外なものだった。

もっと罵倒とかされるのを覚悟していたのに2人はいつも通りの様子だった。


「だってそのドレイク家を大きくしようというのも大切な何かを守るためでしょう?」


「……!それは……」


「ジェラルトは優しいから他の人の痛みまで背負っちゃうんだよ。だから不安になっちゃうじゃないかな?」


「不安……?俺が……?」


「うん、さっきのジェラルトすごく不安そうな顔してたよ」


「はい」


シンシア王女も頷く。

俺が……表情を顔に出した?

こういった弱みを隠すのは貴族として最低限のこと。

だからそういった感情がでないように訓練していたはずなのに……


「他の貴族は平気で他人を踏みにじる人ばかり。人の痛みを分かち合おうとする人が優しくないわけないよ」


「はい、ジェラルトさんは誰よりも優しくて強くてかっこいい人……ですよ?」


フローラは優しい笑顔を浮かべながら、シンシア王女は少し顔を赤らめながらそんなことを言ってくれる。

それだけで大丈夫な気がしてくる不思議な気分だった。


「あはは、ジェラルトとその婚約者が本当に仲良しで安心したよ」


「そうね、イアン。孫を抱っこできる日も遠くないかしら?」


両親の前だったと思い出し一気に気まずくなる。

両親たちは楽しそうだがいじられる側はたまったもんじゃない。


「ジェラルト、覚悟を決めて自分のすべきことを成せ。安心しなさい、先日も言ったが何かあっても私がなんとかしよう」


俺は父の言葉に頷く。

2人に話もできた。

両親にも背中を押された。


もう俺を止めるものはない。

後はやるだけだ。


幸せな未来を掴むために──

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