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第33話 くっころガチ勢、兄の想いと父の本気

「お姉様……」


マーガレットは光となって消えていく姉の亡骸を見つめる。

その目にはうっすらと涙が浮かんでいたが涙を流すことはなかった。

マーガレットは涙を拭うとヒューズに向き合う。


「……お兄様。なぜマーカム公についたのですか?」


「別に大した理由はない。これは必要なことだったからな」


「必要なこと?これのどこが必要なことなんですか!この一件でカートライト家は……」


マーガレットは手を強く握って悲痛に顔を歪ませる。

だが確かにマーガレットの言う通りこれでカートライト家の立ち位置は中々厳しいものとなった。


「今のこの国は不健全だからだ、マーガレット」


マーガレットの問いにヒューズが口を開く。

その顔はどこまでも無機質で感情なんてほとんどなかった。


「この国は腐敗した貴族で溢れかえっている。例外的に優秀で真面目な貴族もいるだろうがその貴族のほとんどが《《ドレイク家の配下》》だ。それがどれほど国にとって不健全なのかお前にはわからないのか?」


「それは……。ですがドレイク家には王家を狙う叛意など無いと何度も伝えました!イアン様もジェラルトも権力なんて求めてない!」


「違うな。イアン様とジェラルト様に《《王位奪取の意思があったほうがよかった》》んだ」


ヒューズは淡々と答え続ける。

だがその切り返しをしてくるのは意外だった。

父も興味津々な目をしてヒューズを見ている。


「お前も見てきただろう?ドレイク家の力を、そしてドレイク家の方々の圧倒的なまでのスペックの高さを」


「……はい。身にしみるほど」


「この一戦でもはやドレイク家を止められる存在は国内に存在しなくなった。だがこの国の長は《《形式上》》王家だ。事実上の支配者と形式上の支配者が異なっているのは国としていいことではない」


これはマーカム公も指摘していたこと。

父がどうするつもりかは知らないが国内のパワーバランスは大きく崩れた。

前からそうだと言えるがいつでも王国を乗っ取れてしまうほどの力を有していると言ってもいい。


「だから俺はドレイク家をよく思わない家を全て集めて今回の反乱に参加させた。無能をたくさん押し付ければドレイク家が簡単に勝てるようになるし、ゴミ掃除にこれほどちょうどいい機会は無いからな」


「っ!?ということはお兄様は自分を犠牲にして今回のことを……!?」


「犠牲と言うほど崇高なものじゃない。俺は俺の信念に基づいて動いただけだ。だがクリスティーナまでもがマーカム側についたのだけは想定外だった。ドレイク家を攻撃してしまった妹の非礼は謝る」


なるほど……

クリスティーナの嫉妬とヒューズの信念が偶然交差してしまい今回カートライト家が大胆に反乱に参加したように見えてしまったのか……

なんと間の悪いことか……


「なんにせよ、これでドレイク家に反抗的な家はかなり減った。後は親ドレイク派と無能な王室派だけだ。その後の選択はドレイク家の方々に全ての選択を任せる」


まさに捨て身の献身。

ドレイク家が命じたわけじゃないのに自発的にこんなことをするとは思わなかった。


「さて、ドレイク家の方々。俺がやりたいことは全てやった。今ここで処分するなり、ひっ捕らえて王家に引き渡すなり、晒し者にするなり好きにしてくれ」


ここで俺たちに選択権はない。

この場で全てを決められるのはただ一人、父イアンだけだ。

俺たちは父を見つめる。


「……なるほど、中々豪快な若者だね。捕縛してくれ」


父が選んだ選択は捕縛。

処刑じゃないだけまだマシか……

これからどうなるかはわからないがいざとなれば俺がかけあうしかない。


「さて、終戦にするとしよう。王都に帰還するぞ」


父は勝鬨を上げている兵たちに帰還命令を出しマーカム公が起こした国内最大規模の内乱は終焉を告げるのであった──


◇◆◇


ドレイク家圧勝の報せはすぐに国中に知れ渡った。

国内が戦火に包まれることを回避し国民たちは大いに喜ぶことになる。

ドレイク軍は各地で歓迎ムードを受け、無事に王都に帰還することとなる。

しかし──


「それは一体どういうことですかな?ヴァーカー侯爵」


「どうもこうもありませんよ。罪人を渡せと言ってるんです」


「我が軍に罪人などいませんが誰のことを言ってるんでしょう?」


「とぼけるな。国を裏切った反逆者であるヒューズ=カートライトとその家族、マーガレット=カートライトがいるだろうが」


この下衆め……!

終戦したてだってのにもう仕掛けてくるのか……!

横でアントニー騎士団長もニヤニヤしてるのが癇に障る。


「引き渡したところでどうするおつもりで?」


「もちろん法に則り極刑に処す。それ以外に選択肢は無かろう」


「お断りします」


「ドレイク侯……私もそなたに叛意があるとは想いたくない。せめて裁判だけでもするべきではないか?」


ロナルド王の言葉にその場が静まる。

だがこのタイミングで裁判なんてしようとも明らかに有罪にしかする気のない魔女裁判になることはわかりきっている。

そんなの絶対に認められることではない。


「わかりました。陛下がそこまで言うなら裁判をしましょう」


「っ!?父上!?」


「黙っていなさい、ジェラルト。ただ条件として彼女の身柄は私が預かる。逃がしたら自害するという証文を書いてもいい」


どういうことだ……?

なぜ裁判を受ける必要がある……!

今のドレイク家なら王家の要請だろうと突っぱねられるだろうに……!


「ヒューズのことも逃がしてはなりませんぞ」


「ああ、彼ならもういませんよ。私がこの手で殺しましたから」


「そうですか、ならばいいでしょう」


……なるほど、そういうことか。

今の父の言葉でなんとなく察した。

父が今から成さんとすることを。


父は本気で裁判に臨むつもりだ。

そして今考えうる最善最良の結果、つまり《《全てを手に入れる》》つもりなんだ──


「任せておけ、ジェラルト。私がなんとかしてやる」

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