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第26話 眠れる怪物、産声をあげる(マリアンヌ視点)

ようやく……っ!

ようやくイアン様に一つの軍を任せてもらえたっ……!


開戦前、馬に乗り指揮をとる体勢に入った私は歓喜に震えていた。

今まではヴァイルン王国相手にジャックさんに色々教えてもらいながら戦う日々。

たくさんの敵を葬ってきたけど一度として私の力だけで成し遂げたものはなかった。

それが今日、本軍というドレイク軍で一番多い兵数を任されたのだ。

喜ばないはずがない。


「マリアンヌ様、各員配置につきました。両翼の方も問題ないとのことです」


「そう、あなたももう戻っていいよ」


「はっ!」


私は向かい側に対峙する軍を見つめる。

その数は私たちの何倍にも膨れ上がっている。

ただ負ける気は全くしなかった。


イアン様の演説により兵の士気は最高潮になり能力も飛躍的に向上する。

人間とは精神に左右される生き物だからこそイアン様がこうしてお膳立てしてくれるだけで勝率はどんどん上がっていく。

そして……


(あははは……!イアン様最高……!ほんっとに最高だよ!)


私自身も昂りを抑えられなかった。

イアン様の心から信頼しているからこそその言葉に興奮した。

私がイアン様の神話の一助になるんだと言わんばかりに。


(この熱を利用しないのはナンセンス!ここは行くしかないよねっ!)


「全軍前に出して」


「えっ?ですが……」


「いいから!ほらっ!この熱で相手をボンッ!だよ!」


「は、はぁ………ぜ、全軍前進!」


マリアンヌの副官はマリアンヌが全く何を言ってるかわからなかったが上官命令ゆえにほぼ反射で指示を出す。

こうして異様な状況ができあがったのである。

なぜか《《守るはずのドレイク軍が攻撃し始める》》という謎の状況に。


(甘い……甘いんだよねぇ……!私のことを舐めてるのかな?)


《《ポイントがいくつも見受けられる》》。

こんな編成はドレイク軍だったら絶対にありえない隙だらけの布陣だった。


「あそことそこ、あと向こうねっ!突き破って!」


「「「は、はっ!」」」


私の命令に呼応して各隊長格が動き出す。

戸惑いはあるものの流石は精鋭ドレイク兵。

指示通り突撃を開始し敵陣を食い破り始めた。


(また《《ポイント》》が動く……!揺らぐのが早いね〜っ!)


「あっちの隊を戻して!代わりにあそことこっちの方を突き破るよ!私についてきて!」


見つけ出したもう一つのポイントは部下に任せ近くのポイントに突撃をかけるべく兵を集める。

そして私が先陣に立ち馬腹を蹴った。


「さあ!いっくよ〜!」


私は腰に下げていた2本の剣を抜く。

成人したときにイアン様が贈ってくれた私の宝物。

そして戦場で命を預ける誰よりも頼りになる相棒。


「蹂躙の時間だよっ!地獄に送られる覚悟はいいねっ!」


「ぼ、防御陣け……」


敵陣とぶつかった瞬間敵兵が何人か吹っ飛んでいく。

そして私が食い破った穴を広げるように部下たちが後に続く。

最初に指示した突撃で揺らいだ陣形で防ぎきれるはずもなくみるみるうちに敵陣の奥深くへと突き刺さっていく。


「それくらいにしてもらおうか、暴走女」


私の前に馬に乗った一人の男が立ちはだかる。

いい甲冑を身にまとっていて身のこなしからして中々やる。

そして何よりこんな早く対応しにくる武将がいるなんて思っていなかった。


「あははっ!敵にもマシなのがいるんだねっ!ちょっと見直しちゃった!」


「何を舐めたことを言っている……!」


「みんな、すぐにどかしてあげるからね。勢いを殺されてもう一度仕切り直すのって面倒くさいし♪」


「……っ!凄まじき侮辱……!殺す……!」


相手は怒りの形相でこちらに向かってくる。

私は慌てず双剣を構え直し相手の男に突撃した。


「死ねぇ!」


敵の即死級の槍がうなりながら迫ってくる。

しかしそこに私の姿はなかった。


「あははっ!鬼さんこちらっ!手の鳴る方へ!」


《《上》》。

敵の攻撃が飛んでくると同時に馬の上から跳躍したのだ。


魔刃剣まじんけん……刃の閃き(やいばのひらめき)!」


私の双剣は敵を切り裂く。

体をひねってもう一度飛んだ私は馬に綺麗に着地した。

これを初めて人に見せたときは大層驚かれたものだが馬と一体になれば別に難しくない。

ぐわっ〜ってなってわって最後合わせるだけだ。


「ば、化け物……め……」


「女の子に向かって化け物なんてひどいな〜!私結構顔かわいいほうなのに!」


「おま……えは……なぜどれ……いくけに味方……するのだ……」


命消えゆく寸前の最後の質問。

それに応えるくらいにはマリアンヌは武人であった。

それが自分が下した相手への礼儀というものだった。


「ふふっ、決まってるでしょ。この世の人はみーんなドレイク家に従えばいいの。あの方たちに従えばみんな幸せになれる。争いもなくなる。ドレイク家に歯向かおうとすること自体が悪であり罪なんだよ?」


「………っ!?」


それはマリアンヌの本心からの言葉だった。

彼女を突き動かすのは狂信的なまでのドレイク家への忠誠と自分の大切なものを守るための闘志。

ドレイク家の力になることこそがマリアンヌ最大の幸せであり義務だった。


「だから悪は私が必ず全部消すよ。ドレイク家に従わない奴はみーんな悪い人なんだから」


「ばけ……もの……」


そこで男は事切れる。

私は何もなかっかのように敵陣を見据える。

もう一度敵陣を貫こうとポイントを探していると部下が報告に来る。


「ま、マリアンヌ様!カートライト兵が私たちを攻撃しています!」


「カートライト兵が……?あはっ!本当に《《イアン様の言う通り》》じゃん〜!」


全てイアン様が予想した通りに事が進んでいく。

そのことが楽しくてしょうがなかった。


「一度兵を下げよっか。200人くらいは私についてきてっ!」


カートライト兵の対応をすべく後退していく。

敵陣はぐちゃぐちゃで反撃どころではなかったので退却の際に被害はほとんど出なかった。


「さっ!カートライト兵(悪者)を倒しに行こっか」


私は遠くに見えるカートライト家の家紋が入った旗を目指そうとする。

しかしその前にカートライト兵は《《マーカム軍の方へ》》逃げ出した。

それと同時に本陣の方向からドレイク家の旗を掲げた騎馬隊が100ほどやってくる。

その先頭を走るのはもちろんこの男だった。


「マリアンヌさん。大丈夫ですか?」


「あははっ!やっぱり師匠だった♪私があんな弱兵500にたくさん被害出すわけないじゃないですか〜!」


「そうですか、流石は私の弟子です」


「えへへっ!」


師匠は私の頭を撫でる。

師匠は私にとってお爺ちゃんみたいな存在。

人の温かみを与えてくれた恩人の一人。

この年になっても撫でられたらつい頬を緩めてしまう。


「追わなくてよいのですか?あなたにとっては彼らは許し難き存在でしょう?」


「今は追う場面じゃないですから〜!それにあんな弱っちいのを捻り潰しても楽しくないですよっ!まとめて潰して初めて手応えを感じるくらいじゃないですか?」


「なるほど、よろしい。とりあえず今から攻めたら夕方になってしまうので守りに専念して日が落ちたら本陣に来なさい」


「はいっ!了解しましたっ!」


私が敬礼して答えると師匠は苦笑するのだった。


◇◆◇


「マリアンヌただいま帰参しました!」


「来たか、マリアンヌ」


私が入るとすでにみんな集まっていた。

少し野営の準備に入るのが遅れたので少し遅れる旨は予め伝えてあったので問題なしだ。


「全員集まったことだし早速本題に入るとしよう。今日マリアンヌ率いる本軍にカートライト兵500が攻撃を仕掛けた」


「「「……」」」


みんなドレイク家の諜報隊が形成する情報網によってすでにこのことは知っているらしい。

特に驚きはなくただただ沈黙するばかりで端の方にいるマーガレットちゃんが顔を俯けていた。


「イアン様……此度のカートライト家の攻撃は……」


「言い訳は必要ない」


「……申し訳ありません」


……そんな言い方しなくてもいいのに。

女の子相手なんだからもっと優しくしてあげてよ……


「イアン様、マーカム軍がカートライト兵に偽装してた可能性は無いの?」


「ふむ、確かにカートライト子爵が裏切るとは考えづらいね」


「あの御仁は何十年も前線に立ち続けた男だ。金や権力に目が眩むこともなかろうに……」


私の言葉にイーデン子爵とダウンズ男爵が賛同する。

私はカートライト子爵に会ったことはないけど話に聞いていた限りだと裏切るような人物ではないはず。


「いや、これはカートライト家の人間による攻撃だ。すでにあの軍を率いている者はわかっている」


「……!?ほ、本当にカートライト家の者なのでしょうか……!」


「ああ。その者の名は……」


イアン様が一度言葉を切って若様を見る。

若様も表向きには大丈夫そうな顔をしているけど少しつらそうだ。

マーガレットちゃんの気持ちがわかるんだろうね……

若様はそんな気持ちを隠し頷いた。


「その者の名は《《クリスティーナ=カートライト》》。カートライト家の次女に当たる人物だ」


「……っ!?お姉様が……!?」


……なるほどねぇ

ぜーんぜんよくわからないけど複雑な状況になっちゃったなぁ……


まあ、たとえ仲間の家族であったとしてもイアン様に盾突いた報いは受けてもらうけど、ね。

正義の執行はすぐそこに来てるんだから──

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