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第25話 くっころガチ勢、授業を受ける

「な、なあジェラルト……これ……」


「ああ、信じられんな……」


今目の前で起こっているのは中央本軍による蹂躙劇。

敵の数が多く圧倒的とまでは言えないが確実に敵を押し込んでいた。

その『確実に』こそが中央を率いるマリアンヌの実力を何よりも示していた。


「マリアンヌ殿は一体何者なんだ……?」


ローレンスがそう言いたくなるのもわかる。

彼女は大陸どころかアルバー国内でも名前を知られていなかった。

ドレイク家の徹底的な情報統制によって彼女の存在が隠されていたのか。


「ほんとに……信じがたいわよ……」


「師匠」


俺たちが戦場を見おろしていると後ろから馬に乗ったマーガレットが歩いてやってくる。

まだ出番ではない彼女も戦場を見るべくこちらに移動してきたのだろう。


「王国騎士団にはあんな人材はいないわ。いや……あんなに才ある人たちが一軍に集まってることこそ異常よ」


「いい刺激になったのか?師匠」


「そうね、私もいずれは王国騎士団を辞めてこちらに移籍することになるもの。自信なくしそうになるけどそれ以上に負けてられないって気持ちが強いわね」


「マリアンヌは24歳らしいぞ」


「私と4歳しか変わらないのにあの実力ってやらせって言われたほうがまだ現実味があるわよ。建国以来の天才っていう名前返上したいんだけど……」


まあ世の中上には上がいるからな。

でもマーガレットが天才なのは間違いない。

必ずドレイク家を支える才媛になってくれることだろう。

そういう意味でも父がマーガレットを連れてきたのは正解かもしれない。


「マーガレットさんは戦場に出ないんですか?」


「イアン様から出陣命令が出てないもの。いつでも出れるようにはするつもりだけどね」


そうマーガレットは苦笑する。

まああの作戦を進めるためには《《マーガレットを前線に出すわけにはいかない》》からな。

戦の入りも順調だし無理してマーガレットを出す必要はない。

万一にも死なれたら本当にマズいし。


「まあ出れない間は俺たちとお勉強といこうじゃないか。なあ、ジャック?」


「はっ」


「「えっ?」」


後ろでジャックが手を胸に当て頭を下げる。

ジャックがゆっくり近づいてきていたのは気配で気づいていた。

2人は気づかなかったみたいだがジャックの気配を消す力は異常なのでしょうがないと思う。

俺のほうがジャックに会った回数は圧倒的に多いからな。


「まさか若様に気づかれてしまうとは。成長なされましたね」


「お前が本気で気配を消そうとしたら多分気づかなかっただろうがな」


「私もまだドレイク家のお力になれそうでよかったです。私にとって一番怖いのはドレイク家の力になれない無力な自分ですから」


そう言ってジャックは優しく笑う。

ジャックの見た目は正直鎧よりも執事服とかスーツを着ている方がしっくりくる。

だがその細身からは考えられないような身体能力と今まで培ってきた経験が彼を伝説たらしめている。

この老紳士にかかれば気配を消すことも難しいことではないのだろう。


「じ……ジャックさんだ……本物がこんなに近くに……あ、あの僕はローレンス=イーデンと申します!」


「わ、私はマーガレット=カートライトです。あ、あの……お久しぶりです」


横の2人はなんか感動に浸ってるな。

まあジャックはアルバー王国の軍人からすれば憧れの対象だからな。

本とかも発売されてるみたいだし。


「ローレンス様はロイ様のご子息でしょう。マーガレット様は以前戦いでご一緒しましたしね。イアン様にも若様にも大層気に入られているようですし」


そう言ってジャックは俺に生暖かい視線を向けてくる。

これはおそらくジャックも作戦の内容を知ってるな。

俺、父、母の3人だけだと思ってたけどジャックに相談してもおかしくはないか。


「ではジャック、俺たちに解説を頼もうか。机上では決してわからない戦について教えてくれ」


「かしこまりました。まずは戦況の把握からいきましょう。現在どの軍も奮戦を続け押しています。ですがこのままでは私たちが負けるでしょう」


「……というと?」


「数の差は相当なものです。我らがいくら精兵揃いであろうと人間である以上失った戦力は復活することはありませんし、疲れも溜まります。長引けばジリ貧でこちらが負けるでしょう」


「つまり決め手に欠けるってことですか?」


「そう言い換えてもいいでしょう。あとこの戦いが長引けば国全体としての損害もあります。たった今ヴァイルン王国の兵が動き出したと報告がありましたしゴーラブル王国モーリス家にも不穏な動きがありますから」


マーカムはやっぱりヴァイルン王国と繋がっていたか……

ヴァイルン王国は魔物研究が盛んな国だ。

魔物を使役したり巨人化する何かを作れる技術を持っているとすればあの国以外あり得ないからな。


「まあそれを打破するために皆様もご覧になった《《あれ》》を持ってきているのですが今はまだ使うべき時ではありませんので」


「楽ではない戦いだな」


「勝機が見えない戦と比べれば生温いものです。若様は安心して見ていてくだされ」


た、頼もしすぎるな……

なんでこの戦力差なのにこんなに安心できるんだか……


「俺の代になっても頼むぞ、ジャック」


「もちろん。ですが若様の副官とするのは別の人材がいいでしょう。私は彼女を推します」


そう言ってジャックは本軍を見つめる。

その言葉の意味はまさに最近出会ったばかりの彼女を指していた。


「ジャックから見てもそれだけの才媛か?」


「ええ。個人技の強さは彼女のこれからによるでしょうが1軍を率いる将としては間違いなく彼女は私を超えるでしょう」


「お前がそれほど言うか……」


「ええ。今は私の下について色々学んでいるところです。いわゆる弟子というやつですね」


ジャックが弟子を取ったという話は今までで一度も流れたことがないという。

ジャックがいつ引退してもいいようにと準備をし始めたのかもしれないがそれも彼女の才があったからこそ弟子にしたのだろう。


「ジャック様、報告いたします。カートライト兵がもうすぐそこまで近づいています。閣下が若様たちを連れて天幕に戻るようにと」


「っ!お父様が援軍に……!?」


「承知しました。下がってください」


ジャックは報告に一つ頷くとこちらを見る。

俺も無言の頷きを返した。


「一度天幕に戻るとしよう」


◇◆◇


「ああ、戻ったかジェラルト、ジャック」


天幕に入ると戦場を描いた地図の上に置かれた駒を動かす父の姿があった。

俺たちはそれぞれ机を囲むように立つ。


「はい、カートライト兵が接近しているとの報を受け帰還しました」


「うむ、約500ほどが参戦するようだ。その旨が送られてきている」


そう言う父の手にはカートライトの家紋が入った手紙が握られていた。

なるほど、《《そういうことか》》。

数を聞いたときもしやと思ったが……


「悪い方を引きましたね」


「ああ、そうだな。真に残念だが我らにはどうすることもできないからな」


父は俺と同意見らしい。

作戦の内容を聞かされていないローレンスとマーガレットは頭に疑問符を浮かべている。


「あ、あのイアン様……悪い方というのは一体……お父様が何か……?」


「いや、逆に《《お父君だったらよかったな》》と言っているんだ」


「……?」


マーガレットが質問しても疑問は深まるばかり。

くそ……!

どうせならいい方を引いたほうがまだ幾らかよかったのに……!

作戦に支障は無いだろうがマーガレットの気持ちは……


「ほ、報告します!」


そんなときだった。

一人の兵が息を切らして飛び込んできたのは。


「話せ、何があった?」


「そ、それが……《《カートライト兵がマリアンヌ様率いる本軍を攻撃し始めました》》!」


「「っ!?」」


何も聞かされていなかったら俺もその報告に耳を疑うことだろう。

しかし文が届いた時点でこのことは予め予想できてしまっていた。

そうなると心配なのは……


「そ、そんな……」


マーガレットの表情は今までで見たことないほど真っ青になっていた──

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