第22話 くっころガチ勢、戦地に移動する
ゲイリー=マーカムが本拠地としているマーカム領キラウは王都から少し離れたところにある。
もちろんそこは辺境ではなく、王都とドレイク領ベトラウと並んでアルバー王国3大都市の一つに数えられていた。
軍の足は速いが距離があるため到着にはそこそこの日数を要する。
できるだけこの内乱によってアルバー王国の国力が下がらないように街から離れた場所で戦う必要があった。
「さて、諸君。これから我らに楯突いたマーカムの奴らを処分しに行くわけだが決戦の地はヒタワ平原で行こうと思う。異論がある者は?」
「侯爵様。平野では数が多い敵軍が有利になってしまいませんか?近くに砦もありますしそちらに籠もったほうが有利に戦いを進められる気がするのですが……」
マーガレットが申し訳なさそうに質問する。
確かにマーガレットが言うのは防衛策における最善手だろう。
もし俺たちを無視して進めばマーカム軍へと物資を補給する兵站線を攻撃し王都に残った王国騎士団と挟み撃ちにすることもできる。
少なくとも王都は守りに適した地ではないが数日で落ちるほど脆い場所でもないからな。
「いや砦に入ることはしない」
「理由をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「もちろんだとも。砦に籠もったら少なからず《《時間がかかってしまう》》からだよ」
「時間?」
「ああ。私たちは本来国境でヴァイルン王国との国境線を守る立場だ。兵を残してきたと言えどずっと留守にするのは他国に付け入る隙を与えることになる。内乱なんぞに足を引っ張られてアルバー王国が不利益を被る事態は避けたいからね。それだったら平野で決戦を仕掛けて一気に終わらせてしまったほうが良いということだ」
つまるところこの内乱を国内だけで見るか世界情勢も含めて見るかで意見は変わってくるということ。
マーガレットの場合は王国騎士団として国内の平和を守る仕事が多かったが父は前線で他国と交戦していた。
マーガレットが無能なわけではなくそこの視点の違いだろう。
「理解しました。ご教授いただきありがとうございます」
「別に構わないさ。君は次代のアルバーを担う大切な人材だ。いくらでも質問してどんどん吸収して大きくなってくれ」
……先ほど父が言った理由がメインなんだろうが理由はもう一つあるだろう。
それはドレイク家の力を高めるための今回の作戦は《《砦で行うのには適していない》》ということ。
その作戦は重臣たちにすら知らされておらず知っているのは俺と父と母の3人だけだ。
なんとか重臣たちを納得させられる利のある道を提示しつつ作戦を成功させなくてらいけない。
俺は今回何も権限を与えられていないので父のお手並み拝見と行こうか。
「向こうに少しくらいハンデをやろうが我らの勝ちは揺らがない。君も今回の経験で化けてくれることを期待している」
「はっ。ご期待に沿えるよう頑張ります」
マーガレットが父に頭を下げるのを見て、今回の戦の結末の行方を想像するのだった──
◇◆◇
「相変わらず君のお父上は剛毅な人だね」
揺れる馬の上、ローレンスが話しかけてくる。
ローレンスは今回イーデン伯爵に勉強だからと連れてこられたらしい。
先程の軍議にも参加していたが空気になっていたので存在感が薄かった。
まあ出しゃばられても困るからそれでいいのだが。
「付いていく部下も大概だと思うけどな」
「あはは、それは間違いないね。自分たちより何倍も数が多い相手に対して平地で戦うって指示出されて動揺しない武官はなかなかいないだろうね」
そう言ってる君の父も見事にやべえ部下の仲間入りしてるからな?
久しぶりに会ったけど全く変わらない。
まともそうに見えてぶっ飛んでる人だ。
「はは、僕達もいつの日か自分の子どもにそんなことを言われる日が来るのかもね」
「子どもなんて全く想像できないけどな」
「少なくとも君はあんなに可愛い婚約者が二人もいるんだから普通はいつできてもおかしくないと思うけどね」
「想像できないことには変わりないさ」
今現状俺達は子どもの世界でしか力がない子どもだ。
それなのに自分の子どもなんて想像できるはずもない。
俺はまだまだ強くならなくてはいけないからな。
「ジェラルト。おや、ローレンスくんと一緒だったのか」
「お疲れ様です、父上。軽い世間話をしていまして」
「別にそれは構わないさ。それよりもこれから設営準備に入る。とりあえず天幕を用意させるから休憩していても良いぞ」
「手伝わなくていいのですか?」
俺が辺りを見渡すとそこは何もない平原。
しかし遥か先にマーカム軍が見えることはない。
先に到着できたのは大きなアドバンテージになるだろう。
「その指示くらい必要ないさ。天幕を作って陣地を張れと言えばあとは指示が無くても綺麗な陣を組めるように訓練してあるからね」
「……そうですか」
「ああ。私は細かくアレンジが必要な部分の指示を出してくるよ」
そう言って父は馬を走らせてどこかへ行く。
どこを見ても父の部下や兵はキビキビ動きみるみるうちに設営を終えていった。
部下も優秀だが兵もやはり想像以上に優秀だな。
「あとは待つだけだ。偵察だけ怠らず待っていればいい。まあ今日中には到着しないだろうから今日は一杯だけ兵にも飲酒を許すよう言っておいてくれ」
「はい。了解しました」
父が指示を飛ばすと少し時間差で至る所から歓声が聞こえてくる。
みんな、酒が好きなんだな。
まあともかく戦意はばっちりだ。
皆の奮戦をこの目に焼きつけようじゃないか──
◇◆◇
そして数日後、ヒタワ平原に到着したマーカム軍とドレイク軍は向かい合うことになる。
マーカム軍およそ38000、ドレイク軍およそ9200といった陣容であった。
そして後の歴史家たちは口を揃えて言うことになる。
『ドレイク家当主、イアン=ドレイク侯爵への今までの評価はすべて間違いである。
この戦いが起こるまでは大きな戦いもなく小競り合いしかなかったためとりあえず言えることはドレイク領の発展具合からして政治的に優秀、そしてこの進軍の速さからも軍人としても優秀。そんな判断が下されていたが、しかしその認識は間違いだったのだ』
『イアン=ドレイクが優秀な貴族である、という表現は歴史を正確に読み取れていない』
と──