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第20話 くっころガチ勢、変貌を見る

「ジェラルト、予定変更だ。今すぐ王の下へ向かうぞ」


茶やら手合わせやらの予定は全て中止。

既に戦は始まっているのだ。

ここからいかに初動を早くするかで戦局の有利不利は動いていく。

俺もためらわず頷いた。


「ああ、そうだ。2人も参加しなさい。発言権をあげることはできないが見るだけでも良い勉強になるだろう」


「よろしいのですか?」


「もちろん。王家側はおそらくシンシア王女を参加させはしないだろうし、こんないい機会なのにそれは勿体ない。将来ドレイク家の人間になるのだしこちら側から参加すればいい」


……なんかずれてる気がするけどこの人の教育は余念が無いな。

国内最大規模の内乱が起ころうとしてるのにその前の王との謁見をいい経験で済ませるところとか。

数ヶ月前なんて『ちょうどいいから』という理由だけで俺がなぜか初陣なのにも関わらず総大将に任命されるくらいだ。

まともなわけがない。


「……それでは参加させてください。《《お義父様》》」


「わ、私もよろしくお願いします……!」


「うん。それじゃあ行くとしよう」


父は前もってロナルド王のところに伝えたいことがある旨を伝える使者を出し俺たちは謁見の間へと向かうのだった──


◇◆◇


今回の件はまさに緊急。

本来臣たちを招集して行う謁見も今は悠長に待っている余裕はないため王城に勤めているすぐに動ける者だけが謁見の間に集まった。

数にして本来の6割ほどだけど問題なく始められる人数は集まった。

目の前の玉座にはロナルド王が座りその横の席には王妃が、そして少し後ろにヴィクター王子が立っている。


「それでは謁見を始める」


本来こういう場を取り仕切る宰相はいない。

その宰相こそが今回討つべき敵。

今日は代わりに王室派であるヴァーカー侯爵が代わりを務めていた。


「して、ドレイク侯。いきなり謁見とはどうした?先ほど到着したばかりでゆっくり体を休めなくてよいのか?」


「それをしている余裕は無くなりました。マーカム公謀反にございます」


「なんだと……!?そんな話は聞いていないぞ……!」


ヴァーカー侯爵が驚いたような声を出す。

おそらくまだ情報が届いていないのだろう。

ドレイク家の諜報隊の優秀さゆえに俺たちしかまだ現状を把握出来ていない。


「いずれ貴方が放った密偵からも連絡が来るでしょう。このタイミングで我らが虚言を吐く理由は無いでしょう?」


「……そうだな。ドレイク侯を信じるとしよう」


ヴァーカー侯爵はまだ何か言いたそうにしていたがロナルド王があっさり認めたので渋々といった様子で口を閉じた。

兵は神速を尊ぶというのに何を渋っているのか。


俺が内心呆れていると謁見の間の扉がノックされる。

今が謁見中だというのにノックするということは間違いなく些事ではない。

そう判断しロナルド王は扉を開けるように言った。


「ほ、報告します!トビルジの街より文が来ました!」


トビルジの街はマーカム領のすぐ近くだ。

おそらくそれ関連か。


「開封を許可する。この場で読み上げろ」


「は、はっ!『マーカム家を始めとした貴族たちの軍勢が襲来。その数およそ35000。王城より対応求む』とのことです!」


「35000……だと……」


誰かが絶望したように呟く。

予想もしない数字にみながみな顔が暗かった。

《《ドレイク陣営以外は》》。


「とのことですのですぐにでも出陣したいのですがよろしいですか?」


父は何事も無かったかのように言う。

諜報隊があらかじめ貴族派がどれだけ兵を抱えているかを調査できないはずがない。

35000という数字も想像より多かったものの予想の範囲内だった。


「ま、待て。そなたらは兵をどれくらい連れてきたのだ?」


「国境警備もしなくてはならないので支障が出ないギリギリの7000ほどです。援軍があったとしても10000はいかないでしょう」


マーカムは全力を出しているが俺たちの敵はマーカムだけではない。

ヴァイルン王国は未だ過去にドレイク家が切り取った領地奪還の機会を伺っているし、他にも不確定要素はたくさんある。

全軍を引き連れてくるわけにはいかない。


「どれだけ良くとも3倍以上か……」


「国王陛下、王国騎士団をドレイク侯の援軍として遣わせるのは如何でしょうか」


「いらん。プライドだけ高い弱卒共を連れて行きたくはない。ただいたずらに敗因を増やすだけだ」


ヴァーカー侯爵の提案を父がすぐに潰しにいく。

だが実際に王国騎士団を使うのは反対だ。

プライドが高いかどうかは知らないけど普段父の元で戦っていないのに連れて行ったらただ邪魔になるだけだろう。

指揮官を複数にするのは愚の骨頂だしな。


「な、なんだと……誰が弱卒だと言うのだ……!?」


「つい先日両殿下が襲われるような事態があってよくもまあそんな自信があるものだな」


「……っ!」


王国騎士団長であるアントニーが憤慨するが、父はどこ吹く風。

オーバーキルじゃないかと言えるぐらいの正論で反論を封じていく。


「ともかく我らに任せて王国騎士団には王城にて王室の方々の警護をお願いしたい。数人でダメならば数を集めて守るしかないだろう?」


「おのれ……っ!言わせておけば……!」


「ドレイク侯、手柄を独占するおつもりか?」


「それが最善手なのだから仕方ない。文句があるようなら我らは手を引いてもよいのだぞ?王城が半壊し我らの足を引っ張った戦犯どもが全員《《事故死》》したところで助太刀に入ろう」


そう、これこそが武力が権力を凌駕する瞬間である。

どれだけ権力を持っていようと暴力の力に敵わないときがある。

もちろん平時のとき立場が逆転するが今この場は父の言葉は王よりも大事になってしまう。

それが醜い人間の世界なのだ。


それに父だって部下たちの命がかかっている。

権力闘争に興味はなくとも引き下がるわけにはいかない。


「理解してくれたかな?ヴァーカー侯」


「くっ……!」


ヴァーカー侯はいわゆる武官ではなく文官だ。

ドレイク家ではなく純粋に王室に敬意と忠誠を誓っている。

王室に忠誠を誓う全ての貴族がそうとは言わないが新参者の俺たちが王室の懐刀になっていることにより敵意を抱いていることが多いのだ。

この男もそういうタイプだったというだけだ。


「陛下。出陣してもよろしいか?」


「……国防の要たるそなたらを失ったら国の存亡の危機だ。本当に大丈夫なのか?」


それは本当に純粋に国や父のことを思っての言葉だったのだろう。

国王として祖国と臣と国民を案じる。

それは正しい姿のように見える。

だが──


「くくく……!」


その返答は笑いだった。

嘲りや侮りの笑みではない。

子供が楽しくて笑うように父は誰よりも純粋に笑った。


「ふふ……ふはははははは!!!!!!」


息子の俺ですら見たことのない父の姿。

このまま放置していていいのかと父の配下に目を向けると彼らは『しょうがないなぁ』と言わんばかりに苦笑していた。

え?本当に止めなくていいの?


「何が面白いのか!国王陛下は貴公のことを案じて言葉をかけてくださったのだぞ!」


「面白いのか?ああ、面白いとも!陛下もこんな真面目な場で《《御冗談》》など言わなくてもいいでしょうに!」


「冗談?一体何を……!」


「時代は変わった。父や祖父の時代はこんな言葉などかけられることもなかった。我らに盾突く大馬鹿者も我らの足を引っ張ろうとする愚か者も我らを心配する心優しき者もいなかった。なぜか?我らが圧倒的に強いからだ」


父は立ち上がりそのまま語る。

その顔は先ほどの純粋な笑みはなくまるで獲物を目の前にした肉食獣のようだった。


「しかし時が経ち、我らの実力を勘違いする者たちが現れるようになった。どうやらここらで再び教えてやらないといけないようだな」


父は周りに立つ貴族や王国に仕える臣を見据える。

全員父の異様な雰囲気に呑まれ反論できる状況ではなかった。


「35000?だからどうした?そんなものはただ数を集めただけの烏合の衆だ。何万人かき集めようと我らは負けない。奴らはドレイク家の怒りを買ったんだ」


父は再び臣下の礼を取る。

そして誰よりも無邪気に──まるで俺がくっころを見たときのように心の底から嬉しそうに笑った。


「ああ……ようやく我らの邪魔しかしてこないマーカムのゴミどもを潰せる……!陛下、言い方を変えましょう。我らは今から《《少し手荒なゴミ掃除》》に行ってまいります」


家族を愛し、国を守り続けてきた男は今この時より《《戦闘狂》》へと姿を変えるのだった──

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