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第14話 魔眼の暗殺者、囮と本命(カレン視点)

「兄様、お父様の業務は手伝わなくてよろしいのですか?」


「ああ、手伝おうと思ったんだが帰ってきたばかりだからと父上に止められた。余は別に働いていても良かったのだがな」


目の前でシンシア王女とヴィクター王子が仲よさげに話をしている。

どうやら昨日は家族水入らずでゆっくりと出来たようだ。

いつも忙しい二人だからこそ家族でゆっくりする時間が取れてこちらとしても安心してしまう。


「ですが兄様がお菓子作りをしたいと言い出すなんて意外でしたよ。何があったんですか?」


そう、今は暇を持て余したヴィクター王子がお菓子作りをしたいと仰りシンシア王女を連れて王城にある厨房へと向かっている。

今までヴィクター王子がお菓子作りをしているところは見たこともないし聞いたこともないが割とヴィクター王子は突拍子もなくいきなりそういうことを言い出すことも少なくない。

シンシア王女も慣れた様子で少し呆れながらもついていっていた。


(なんだかんだお二人は仲良しなんですよね……アルバー王国としては良いことです)


王族に限らず貴族も兄弟仲が悪いなんてことはざらにある。

王族ともあればその不仲は国を揺るがす危険性もあり二人の仲が良いということは王位継承を巡って血が流れることは絶対に有り得ないということを意味していた。

まあシンシア王女はドレイク家に嫁ぐことが決まっているのでドレイク家次第ということもあるだろうが少なくともご主人様にそんな野心は無いだろう。


「最近シンシアはドレイク夫人からお菓子作りを学んでいるのだろう?だから一度教わりたくてな」


「質問の答えになってません。どうしてやりたくなったのかと聞いているんです」


「それは将来できたほうが得だからだろう。特に余に婚約者が出来たときなどな」


まだヴィクター王子には婚約者がおられない。

最初の婚約者は正妻として将来の王妃となり国母となるのだからそう簡単に決められないのだろう。

候補は少しずつ絞られ始めてはいるだろうが本格的に話が進んだことはない。


「兄様がそんなことを考えているなんて意外です。婚約者なんて出来ても気にしないのかと思ってました」


「どう考えてもあんなの大変そうだからな。側室なんて考えたくもないが逃げられる道もない。だったらせめて余が何かやらかしたときにご機嫌取り用のお菓子を自分で作れるようになったほうが建設的だと思わないか?」


「……感心して損しました」


この少しというか大分ズレた発言がヴィクター王子らしいというかなんというか。

シンシア王女も呆れた表情で言葉を失っている。

やらかす前提で話をしているのがなんとも……


「そもそも私だってまだあまり上手くないですよ?それでもいいんですか?」


「別にプロになりたいわけでもないしな。むしろ適度に手作り感が残ってるほうが誠意を見せられると思わないか?」


「なんで謝罪用にしか作る気が無いんですか……」


「そういうシンシアだってジェラルトに食べてほしいんだろう?ジェラルトのために何か作ったのか?」


ヴィクター王子の言葉にシンシア王女はかぁーっと音が出そうなくらい顔を真っ赤にする。

もう誰がどう見ても完全に恋する乙女だ。

前もわかりやすかったが今ではもう取り繕えているかすら怪しいところ。


「べ、別にジェラルトさんに作りたいとかそういうのじゃ……」


「はぁ……いい加減素直になれ。愛想つかされても知らんぞ?」


「そ、そんなこと言わないでください!大体やらかす前提で婚約者ができる前から謝罪用のスイーツの作り方を教わろうとしてる兄様にそんなこと言われたくないです!」


「なぜだ?余からすれば仲を円満に保つための最善策とすら思うのだが?」


また振り出しに戻ったがつい生暖かい視線を向けてしまう。

そしてそこで何かの違和感に気づく。

五感では決して読み取ることができない謎の不快感。


(まさか!)


視界の隅に私の隣を歩いていたメイドが動き出そうとしているのが見える。

腕が伸びる先は懐。

考える前に体が動いていた。


「待ちなさい。あなた今何をしようとしましたか?」


「あ……カレン様……」


腕をがっしり掴みメイドを睨みつける。

懐の奥は見えないが恐らく何らかの凶器を所持している。

熟練の腕でないからこそ殺気が漏れ出ていた。

そう、確かにこの二人のどちらかを《《殺そうとしていた》》のだ。


「カレン……?」


「シンシア王女。この者は──っ!?」


近くにいた兵士、執事、そして屋根を突き破って数人の男がこちらに向かってくる。

明らかに殺気を纏っておりその対象は王族兄妹へと向けられていた。


(しまった……!このメイドは囮……!?本命はこっちか!)


このメイドが王族を狙うにはあまりにも手際が拙さすぎた。

もっと早くこの違和感に気づかなければならなかったのだ。

いや、そんなことすら考えている場合ではない。


(今、お二人を守れるのは私しかいない……お二人には絶対に触らせない……!)


咄嗟にメイドを手刀で気絶させシンシア王女とヴィクター王子をかばう位置に立つ。

敵は見た所3人。

私はメガネを外し魔眼を発動させる。


「お二人共!私から離れないでください!」


(まずは初撃を防ぐ。そうすれば護衛が間に合うはず……!)


しかしその考えは甘かった。

魔眼の力で攻撃の軌道自体は読み切れたが躱してしまえば後ろの二人に攻撃が直撃してしまう。

全員が私と同じかそれ以上の実力を持っていて、いくら緊急事態と言えど実力が急に伸びるはずもなく3連撃が私に直撃しふっ飛ばされる。


「うっ……!?」


「カレン!?」


一瞬で壁に叩きつけられ意識が飛びそうになる。

しかしなんとか意識は保てたが立ち上がろうとした瞬間吐血してしまった。


(しまった……内臓のどこかが一撃でやられた……)


体に力が入らなくなりその場に倒れ込む。

急な失血により意識も朦朧としてきた。

だがなんとかといった気持ちで二人のほうに目を向けるとシンシア王女が剣を抜きヴィクター王子を守る体勢に入っていた。

暗殺者達の攻撃はすぐそこまで迫っている。


(ダメ……!シンシア王女では勝てない……どうか……逃げ……て……)


「よくもカレンを!兄様は絶対に殺させません!」


「逃げろシンシア!余のことは見捨てていい!」


「そんなことできるわけないでしょう!私は……!」


その瞬間、血の色が視界を支配する。

吹き出す血の色が、絶望が、私を押しつぶしていく。

全てしくじったのだと悟った。

決して消えない後悔が私を殺していく。


しかし、私の後悔を押し流すかのように現実は優しく微笑みかける。

その一瞬で何が起こったのかを全て理解した。


「あぁ……ぁぁ……」


思わず涙が溢れる。

自分の身体の痛みすら忘れるほどの《《安堵の涙》》が。


「よくもこんなことをしでかしてくれたわね。自分が何をしようとしたのか本当にわかっているのかしら」


怒気を孕んだ凛々しい声がその場を支配する。

一つに纏められた長く燃えるような赤い髪が揺らめいていた。

その後ろ姿は誰よりも頼もしく心強い。


「マーガレット……様……」


先程の血はマーガレット様が敵を両断したことによって出たものだった。

見ればシンシア王女に傷一つ無いことが分かる。

ヴィクター王子ももちろん無事だ。


(マーガレット様……申し訳ありません……後は……)


そこで私の意識は途絶えた──

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