表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

SFショートショート

瞬間移動装置

 僕が産まれるよりもずっと前に、ある科学者が瞬間移動を可能にする装置を開発した。


 瞬間移動したい物体を原子レベルで解析、分解してその情報だけを移動したい場所に飛ばし、その場にある原子で再構築する、という原理らしい。


 ネズミやサルを使った実験はすぐに終わり、残りは人体実験のみとなった。だが初めての技術の実験台というのは誰でも怖いものだ。

 そこで司法取引の一環としてある囚人を使って実験が行われることになった。


 実験は無事に成功し、しばらく経過を観察したが囚人は健康そのものであり、後遺症も確認できなかった。ただ少々記憶が混乱していたらしいが、それもほんの数分で収まったらしい。


 これにより安全性が確認されたことで瞬間移動装置は

 宇宙開発や深海調査などの危険を伴う仕事には必ず備え付けられることとなった。生存率が格段に上がったことにより昔では無茶だと言われていたような探査が行えるようになったことでそれらの分野は大きく成長するきっかけとなったと言われている。



 そんな技術があるからこそ、宇宙船が小隕石にぶつかり航行不能の状況になっても僕は特に慌てることなく落ち着いていられた。


 まずは色々な計器を確認して、本当に航行が不可能であることを確認する。そして航行が不可能であるという証明を先に宇宙ステーションに送った。

 すぐに宇宙ステーションから返信があり、瞬間移動の許可が降りた。


 この時代になっても宇宙船は高価なので、宇宙に捨てるにはこのように許可を得ないといけないのだ。

 僕は服を脱ぐと、首からかけていたペンダントを外す。

 情報を送る関係上、服やアクセサリーなどの「ノイズ」になるものは外しておいた方が良いのだ。


 僕は名残を惜しみながらペンダントを撫でる。安物だが、母が子供の頃から身に着けていた形見であるこのペンダントを手放すのは心苦しい。だが、命には代えられない。


 僕は宇宙船の中、できるだけ長く保ちそうな場所にそのペンダントを入れると瞬間移動用のポッドに入った。





 宇宙ステーションで俺は目を覚ます。


 そして瞬間移動のポッドから出る。するとすぐに医者がやってきて、簡単な健康診断を受けることになった。


 結果は至って良好。何日か休めばすぐにでも仕事に復帰出来るそうだ。


 ありがたいな、と考えていると医者が話しかけてきた。


「宇宙船は回収不能だそうです。なにか大切なものを持っていっていたとしたら、申請すればもしかしたら類似品が手に入るか、もしくは賠償があるかもしれません」


 俺は少し考えるが、すぐに頭を振った。


「特に思い付かないですね。賠償は魅力的だけど、嘘は吐けない」

「ペンダントを持って行っていたようですが?」

「ああ、ただの安物ですよ」


 その言葉に医者は怪訝そうな表情をした。そんなものをわざわざ宇宙に持って行く理由が分からないのだろう。

 正直に言って俺自身もなぜ持って行ったのか思い出せず、首を傾げていた。

 だが、いくら考えてもなにも思い付かなかった。


 どうせ気紛れだろう。俺はそう結論付けた。

ここまでお読みいただきありがとうございます

もしよろしければ評価をよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ