きつねと神社
神社の中のふしぎなおはなし。
「きつねが神社にお参りしてたの」
優子ちゃんはそう言ってブランコを漕いだ。
わたしは優子ちゃんが嘘をつくような人間ではないと知っていたので、
「そうなんだ。きっと何かお祈りしてたんだね」
と真面目に返した。
「きつねにだって、悩みごとがあるんだよ、たぶん」
優子ちゃんは言った。
わたしは優子ちゃんのそういう優しい言い方が好きだった。
ある夕方、わたしは児童会で帰りが遅くなった。早く家に帰ってアイスを頬張りたくて、いつもとは違う道を通って帰った。
神社を横切れば近道になる。
境内を早足で歩いていると、カラスが鳴きながら頭上を飛んでいった。
飛び去ったあとの木がざわざわと音を立てて揺れている。
わたしは立ち止まらずに出口を目指した。
すると、りん、と音がする。
鈴の音。思わず振り向いて、音の鳴る方を見る。
石段の前に、何か小さいものがいる。
猫…?わたしは目を細めた。
それは深くお辞儀をすると、一目散に走っていった。
りん。
また鈴の音が鳴る。
わたしははっとして、また歩き出す。
***
神社を抜けて、家の扉を開ける。
「ただいま」
キッチンの方からおかえり、と母の声。
わたしは自室にランドセルを置いてから、リビングにいる祖父に声をかけた。
「おじいちゃん、きつねが神社にお参りしてた」
「おお」
祖父はわたしの言うことを馬鹿にしなかった。
「俺も見たことがある。一度だけだけどね。そうか、まだいらっしゃるのか」
祖父はぶつぶつと何やら呟いていた。
わたしは冷凍庫から棒アイスを取り出した。
額には汗が伝っている。
ソーダ味。
ああ、やっぱり優子ちゃんは嘘をついていなかったのだ。
私はアイスを頬張りながら、そう思ったのだった。