外伝 最終章 皇位奪還【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】皇宮攻撃Ⅱ
革命連合軍とフェレ皇軍の戦いの火の手が斬って落とされた。
その頃ヴィルヘルムとフランシスの二人は皇宮への侵入を試みて内部から取り崩す作戦を遂行していく。
「殿下。
ようやく皇宮の地下に到着したようです」
アレクサンドルは悪臭の中、鼻を押えながら手にした地図を見ながら現時点の位置を確認している。
しかし悪臭に今にも吐きそうな顔で苦しそうに声を絞り出した。
「ああ。これからが勝負だな」
ヴィルヘルムは表情も崩さず固いままの顔つきで静かに答える。
この侵入計画の日は昼にも関わらずどんよりとした暗雲が立ち込める身を隠し皇宮に侵入するには丁度よかった。
勿論そこはヴィルヘルムの計算通りで皇宮の侵入経路を確保できたのだ。
ヴェルヘルムと皇宮に詳しいアレキサンドル、そして選ばれた精鋭部隊を引き連れての侵入。
つまり皇宮を破壊出来ないならば皇宮を占拠して内から崩せばいいという判断だった。
フェレ皇国の地下には古い時代に都を追われた他民族が地下を掘り生活していたので、多くの地下通路が出来ている。
その数は国も把握できないほどで、そこへ革命軍が新しい回路を作ったものだから蜜事を計画するにはもってこいの経路だ。
この事は皇宮も知ってはいたが、その数や天文学的な数値で最近の疫病と異常天候のせいで調査どころではなくなっていた。
ヴィルヘルムは事前に忍ばせていた諜報員の最後の情報でこの侵入経路を把握出来た訳だ。
この地下道を2人が進む先には行き止まりになった。
その壁には板が規則的に埋め込まれていた。
どうやらうち上に出る為のものだ。
その頭上を見上げると鉄の板がはめ込まれている。
地上口への侵入口だ。
「僕が行こう」
そう言ってヴィルヘルムが鉄板をゆっくりと押し上げて隙間から中の様子を伺おうと鉄板を少し上げた時だった。
突然足音が聞こえ慌ててゆっくりと鉄板を元の位置に戻してその板に耳をつけて様子を伺おうとした時。
カッツカッツ!!
規則正しく甲高い足音と。
トン…トントン
不規則でどことなく生気のなさを感じる足音はドンドン近づいてくる。
鉄の擦れる音でどうやら兵士か警護の者のようだと想像出来た。
そのうち声も聞こえて始め、ヴィルヘルムは鉄板の下で耳をつけ息を飲む。
「…しかしロランの子供だと素性が知れているのに……地下牢に監禁してあげく秘密裏に殺せだって!
あんまりじゃないか?」
その荒げた声の主は足を止め話始める。
「おい誰が聞いているかわからんぞ!
気をつけろ」
もう一人の人物であろう人物は声を荒げ警戒して言った。
「だって…ロランは皇宮に出入りして長い。
身元だって保証されているじゃないか。
代々皇宮に仕えているんだ!」
「それはそうだが…。
上の意見は知らないさ。
ロランも言っていたがあの子供は妾に出来
た子だと。
その子の話は初めて聞くからな。
何せこのところ皇宮は騒がしいかと思った
ら。
気持ちの悪いくらい静かだ。
今も反乱軍の攻撃を受けているにも関わら
ず両陛下はどこにいるかさえ皆知らないら
しいぞ。
やっかい事は早々排除したいんだろ。
とにかくやりゃなきゃ俺達が危ないだ
ろ。
俺らは敵に殺されるならまだしも。
反逆罪で殺されるなど兵士として不名誉
だ!」
「でも子供だよ。
そんな子を殺せなんてさ!!」
「あぁ。
でも俺達にはどうしようもない。
所詮ただの三流扱いの使い捨ての兵士さ。
でもなぁ家族を守るには命令に従うしかな
いんだ。
戦闘で死んだら見舞金と年金が保証される
が。
軍法会議にもかけられたら命の保障はな
い。
お前は独り身で孤児だからわからないだろ
うがな。」
「……でも…」
「お前もしつこいな」
「だって!!」
「ああ…妹が死産だったと言ってたな。
確か五年前か。
生きていたらあの子供くらいか?」
「……あぁ」
「悪い事は言わない。
あんまり深入りするな。
俺らは給料をもらって上のいう事だけ聞い
てたらいい」
「……」
「とにかく。
上官の指示だ。
始末にいくぞ!」
そう男が言った後、足音が再び遠のいてその場を去って行く。
静まり切った地下室に僅かに漏れる水の音がやたら響き、ヴィルヘルムの心臓を掻き立てる。
「…子供を?
殺しに行く??
はぁ?」
先ほどの兵士の言葉を小さく復唱ししながら瞳に怒りが燃え上がり、その兵士に一撃をくらわさんばかりの勢いだ。
「殿下?
……まさか?」
不安そうなフランソワを他所に当然とばかりに頷く。
「はあぁ~~。
はいはい殿下」
もう何を言っても言う事は聞いてくれないのだと説得は諦めた。
「行こうでないと…」
人気がないのを確認しながらゆっくりと鉄板を持ち上げて二人は湿気の多い、地下の石畳の空間に入って行った。
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細く長い石畳の濡れた床、石組みの壁はむっとした湿気は身体の汗を奪って呼吸も荒くなる。
しかし歩みを止める事は出来ない。
幼い子供が監禁され今にも殺されようとしているのだ。
ヴルへルムとフランシスは足音を踏み殺し、ゆっくりと確実に静けさの中と同化しては兵士を追いついに彼らの足音が突然聞こえなくなるのを確認した。
ガチャ!!
施錠されたであろう扉の鍵をこじ開ける金属の鈍い音が聞こえてくる。
静まりかえったこの牢獄で響いた音には何とも言えない恐怖を掻き立てられる。戦場を駆け抜けた自分さえそう感じるのだから捕らえられた子供はその何十倍の恐怖だと想像できる。
「さぁ~解放だ」
あの男だ。
ヴィルヘルムはその声にどちらの兵士は判断できた。
そう命令に忠実な男。
子供すら上官の命令ならば殺害してやもうえなしと答えたあの兵士だと。
例のその殺害に否定的な兵士はやや後方に立ちその場を動かない。終始瞳に落ち着きがなく明らかな挙動不審だ。
身体はガタガタと震えているし、視線は終始キョロキョロとせわしなく冷や汗まで掻いている。
息遣いは荒く止まらない汗を手で拭っては払いのけていた。
「うっっ」
僅かな誰かの疼くまる低い声が漏れたかと思うと。
ガシャガシャ!
ドンドンドン!!
子供に近づいていた兵士は本能的にその音の方へと視線を変えた瞬間。
ブシュ!!
もはや手遅れだった。
肉を貫き動脈に達した鉄の針は確実に兵士の生命をいとも簡単に奪っていったのだ。
兵士は兜を被っていなかった事を後悔したがもう遅い。崩れ落ち二度と動かなかった。
「殿下!
失神している兵士の始末は?」
「まぁ命は助けてあげよう。
子供殺しに抵抗した褒美は必要だろう。
さあこっちへおいで。
助けに来たよ」
薄暗い牢獄の中で小さな物体が僅かに動いて立ち上がりゆっくりとヴィルヘルムの前に現れた。
「えぇ〜??」
監禁されていたのは誰?
さらに皇宮では新たな試練が待ち構えていた。




