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外伝 最終章 皇位奪還 【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】 立ち上がる民衆編 Ⅵ 完結

逃げる皇軍の兵士から弓矢の攻撃を受けた市民を抱きかかえ、医務官の元に連れて行った。

男は助かるのか?

「うっ…」


血の気が引き真っ白の顔色の男は胸を抑えてうめき声をあげている。

三十代半ばだろうか?

小柄ではあったが、それなりの清潔な身なりでに筋肉のついた労働者階級の男に見えた。

うずくまっているのでその容貌はまったくわからない。


矢は皇軍の中に撤退を苦々しく思った兵士の仕業だろう。

ヴィルヘルムも戦場で相手方が退却する際によくある事だと知ってはいたが。

無防備な市民相手に信じられない行為だ。

頭の中が煮えくり返って今にも皇軍へ攻め込みたい感情を何とか抑える。


「大丈夫ですか?」


「ぅぅ…」

うめき声しか聞き取れないが、わずかに心臓をかすめていてもおかしくない位置に矢が刺さり止血の為に押さえてある布は血で真っ赤に染まっている。


医務官は必死にハサミでシャツを裂いた。

刺さった矢をゆっくりガーゼで傷口を埋めながら抜いていく。


「ぎゃあ〜〜」


激痛で男は七転八倒の有様だ。


「押さえて!

 このままだとショック死してしまう!」

医務官が叫ぶ。


ヴィルヘルムとアウグスト、数人の団員が男を羽交い締めにする。


「絶対に助けます!」


医務官は自分に言い聞かせるように放った一言。

手当は幾分かやりやすくはなったもの、慎重に矢を取り出しガーゼで詰める事に成功する。


「ぐわぁ〜ぐわぁ〜」

男は激痛の為にわめき声を叫ぶ。

血の匂いが汗とまじって吐きそうな匂いを放っていた。


「まだだ!

 そのまま酒を飲ませて縫うよ」


医務官は男の上半身を起こすと、蒸留酒を浴びるくらい飲ませる。


グイグイと男は飲み干すと突然気を失った。


「さぁ縫うから」

医務官は眼鏡をかけると、アルコールを傷口に注いで、躊躇せずに男の皮膚の奥に通っていただろう血管を針を通しリズミカルに目にも止まらない速度で縫っていく。


あっという間だ。


「心臓は?大丈夫だったのか?」


アウグストが不安そうに医務官に聞いた。


「えぇ。ギリギリ大丈夫でした。

 しばらくしてからガーゼを取りましょう」


なんとか男は助かったようだった。


ふぅ軽い深呼吸をした時、テントの出入り口が開いてふぁっと風と一緒に少女が入って来た。


「パパ!?」


十歳くらいだろうか?

あどけなさの中に大人びた雰囲気をかもしだす。

血の匂いと男くさいこのテント内でひと際異彩を放つ少女から目が離れない。


少女はぐったりと項垂れて意識のない男の横で座り、両手で男のゴツゴツした手を握りしめた。


「大丈夫だよ。

 今は失神していてね。

 しばらくはここで怪我の様子を見て、歩けるよう

 になったら家に帰れるだろう」


少女は医務官の顔をしっかり見て大きく頷いた。


ヴィルヘルムはその時少女の隣にリライディナがいるのが見えた。


その顔は暗く顔色は青白い。

目元は引きって恐る恐る震えながら少女の隣にいる。


声をかけるのを憚れるくらい動揺しているようだった。


「……私のせいだ。

 私が……。高望みをしたからだ……」


それは後悔かそれとも本心なのか今まで聞いた事も見た事もないリライディナの姿だった。


すると少女は真剣な顔をして、リライディナの両手をぎゅっと握りしめた。

その瞳を父からリライディナに移す。

ギラギラした太陽の様な意思をリライディナに強く投げかける。


「違う!

 リライディナ皇女殿下。

 殿下は私達の希望!

 私達の立ち上がらないと!!

 パパももう何もしないで絶望だけを待つのはやめようって!

 ママと三人の弟と二人の妹は疫病で失ったの。

 パパは懸命には働いていたわ。

 ママも。

 でも皇国は何もしてくれなかった。

 薬すら。

 やる事といったら。

 隔離するか。

 遺体を土に埋めていくしかしてくれなかったの。

 ねえ~~。

 リライディナ皇女殿下!

 そんな事言わないで!

 私達も立ち上がらなきゃ!

 黙っているだけじゃダメなの!!

 命をかけて命を助けるわ。

 私達の皇国なの!

 私達の…。お願いよ。

 リライディナ皇女殿下!!

 私達の殿下!!」


瞳は赤く血走りながらも涙の粒を溜めながら、必死に懇願する姿はリライディナだけでなくこのテントの中にいる全員の心を揺さぶった。


この中にも疫病で何人も肉親の命が奪われ、悩み自分をも責めた者が何人いたろうか?

そんな心の闇をも光を当てる少女の言葉に皆改めて自分のなすべきこと自分の使命を再認識する。


「そうだよ!」

外から子供の声が聞こえ、パタパタと小さないくつかの足音が聞こえると数人の子供達がテントに入って来た。


「私のパパは自分の食事を削ってまで私達に食べさせて、餓死して死んじゃったわ。

 クリスティア商団の人が食事や救護してくれなかったら。

 私や母や姉弟ここにはいない!」


「僕もだ。

 ずっと伝染病で寝込んでいたんだ!!

 医者なんかきやしなかった。

 僕らの皇女様!

 僕らも立ち上がる!

 皇女様は僕達の希望だ!」


「そうよ! 

 皆フェレ皇国を本当のこの国を。

 愛しているんだから!!」


「リライディナ皇女殿下!

 自分達も戦うの!

 でないとフェレの明日は訪れない!」


「どうか!

 私達の道しるべになって……」


「そうよ!

 リライディナ皇女殿下!

 私達の皇女殿下!!」


「wawaaawAaaa~~~~」


リライディナは泣き崩れテントの床にしゃがみこむ。

それは後悔や不安からくる涙ではない。

自分を支えてくれる国民の思いと。自分の置かれた宿命と使命に新たな道しるべを知った。

フェレ皇国の柱となるべく皆に請われる使命感が突き動かす。


「リラ!

 大丈夫だ。

 僕もいる。

 そしてマーシャも。

 クリスティア商団の皆も。

 フェレイデンもオルファンもシャハルバードも皆。

 君の傍にいる」


「僕が永遠に君の王配として支えるから。

 なんの心配もいらない。

 君は君のやりたいようにやればいい。

 時代に合った君主に。

 君なら出来る。

 僕がついているよ」


熱いヴィルヘルムの吐息がリライディナの心をほっこりとさせる。


「うん!うん!ヴィル。

 ずっと一緒」

くちゃくちゃの顔をヴィルヘルムの胸に埋めて何度も頷いた。


「リライディナ皇王陛下万歳」


「我らが祖国フェレ万歳」


その場にいる者は誰に言われる事もなく、祖国への愛と責任感にその言葉の意味を切実に放った。






次回いよいよヴィルヘルム達は軍を皇宮へと進軍していく。

いよいよ戦いが開始される。

革命がいよいよ始まる。

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