外伝 【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】結婚三年目のニ人 政治犯を開放せよⅤ!
シュラン監獄からの囚人救出作戦を成功させたと脱出しようとした際に待ち構えていた監獄司令官隊と交戦になって。
その時だ。
兵士を素手でなぎ倒していたギャバンの青白い顔は極限にまで引きつって、その動きは酷くぎこちない。
剣を握る腕は小刻みに震え剣にもそれが伝わっている。
視線は空を彷徨った後、何か咳をきったように俊敏に首を左右に振っては何かを探している。
その視線が止まる。
そこにはヴィルヘルムがいた。
すると突然ヴィルヘルムのいる場所へと剣を構えて突進してきたのだ。
ダッダッ!ダッタ!!
とギャバンの水たまりを蹴る足音にい風を感じながらなんの躊躇もなく標的に真っすぐ捕らえる。
自分を見る殺気に満ちたギャバンの表情にヴィルヘルムは動揺する。
呆気に取られすぎて身体が凍りついたように動かないのだ。
大きく振り上げた剣がヴィルヘルムの頭上にまさに落ちようとしていた。
ヴィルヘルムはあまりの驚きで反応も出来ず、突進してくるギャバンの動作一つ一つがスローモーションのようにゆっくりと瞳に入る。
それを現実の物と受け取れないでいる。
「ギャバン!!
止めろ!!
お前の家族はディナス家が保護した!
奴らの言う事を聞く必要はないんだ!!」
ヴォルの声が戦場に轟く。
するとギャバンの動きが突然止まり、ヴィルヘルムの頭上で剣はピタリと止まる。
ギャバンは荒い呼吸をして、明らかに混乱しているようだった。
家族?家族が?
無事?
思考回路が停止し動揺を隠しきれないギャバン。
今までの悪夢が走馬灯のように脳内を駆け巡る。
貧しいが笑いの絶えない4人家族。
質素に暮らしていた。
フェレ皇国が荒廃して暮らしに余裕がなくなり国を離れ護衛騎士に就職した。
家族とは離れ離れだが、定期的に送られてきた手紙が何よりの糧だった。
そんな日に突然の妻からの切迫した手紙を受け取ったのは5年前。
家にいたところ知らない男達に3人とも拉致されたと送ってきたのだ。
しばらくしてフェレの間者が接触してきて、家族を殺されたくなければアンリエットと共にスパイと皇族の殺害を命令されたのだ。
リライディナとの信頼関係を捨てても家族には代えがたい。
しかしいつも心の片隅で悩み苦しんだ。
愛くるしい疑いを知らないリライディナに後ろめたさを感じ苦悩の日々をおくるしかなかった。
いつも吐きそうになりながら自問自答していた。
家族か?リライディナの信頼か?
ギャバンの心はいつも血の雨を降らしていたのだ。
なのに!
生きている?
助けられた?
ヴォルがギャバンの肩を両手で何度も何度も身体を揺さぶる。
あの正義感に溢れた。
二人でリライディナ皇女を命をかけて守り、衣食住を共にした日々を思い出させようと。
ヴォルはあらんかぎりの声をぶつける。
ギャバンの心の奥底にグサリと刺し込み安堵と疑いを同時に生み出していた。
「聞いているか?
ギャバン!
家族を人質に取られていたんだろ。
嫁さんはヴァイオレッタさんだろ。
小麦色の肌に淡い菫色の瞳。
長女のルシティアはお前にそっくりだ。
次女のアルテナは綺麗な濃い菫色の優しい子だ。
お前の家族は全員無事だ!
今は俺らの騎馬隊の保護下にいる。
これが終わったら!
あわせるから!!
だから止めるんだ!!
ギャバン!!」
あぁ……。
氷ついたギャバンの心はその言葉でゆっくりと溶けてゆく。
その瞬間に別れたばかりの愛しい家族の顔が浮かんでそれは更に鮮明になる。
暗闇から解放された希望の光が瞳に宿った瞬間だ。
春の日差しのように優しく微笑む心優しい妻、しっかり者の長女、甘えたな次女。
家族のくつろぎと食事の風景がまるで昨日の事のようにギャバンの心に映し出す。
いつもどんな時に笑い合い幸せな情景が胸を絞めつける。
そうだ私の家族だ。
間違いない!
次のヴォルの必死の言葉がギャバンの心臓を突き刺したと同時に、言い知れぬ後悔と懺悔の波が押し寄せては意識は混乱している。
「妻と子が保護された?
私の家族が……家族が……」
安堵したのか感情のない涙が頬をつたう。
ようやく……解放されたのだ。
悪夢から。
呪縛から。
全てからの。
ふとようやく我に返るとヴィルヘルム越しに血走った眼をした司令官がこちらに突進してくるのが見えた。
明らかにヴィルヘルムを狙っている。
「危ない!!」
どうやっても間に合わない。
バッ!!
ギャバンは無意識に。
本能的に。
当然とばかりに。
ヴィルヘルムを行き良い良く突き飛ばた。
グサッ!!
丁度間に入ったギャバンの胸に司令官の振りかざす剣が切り裂いた。
甲冑の脇を刃が鋭くめり込んで鉄の匂いと血吹雪が舞う。
「うっ!!」
うめき声を一つ。
ギャバンは膝から地に滑り落ちそのまま意識を失った。
その屈強な身体の下からはじんわりとそしてとめどなく鮮血が広がっていく。
「ギャバン!」
ヴォルが慌てて駆け寄り頰を叩く。
「おい!目をさませよ!
家族が待ってんだよ~」
ヴォルが喚きながら叫んでいる傍でリライディナの叫び声が木霊した。
「くっそ!!」
司令官はヴィルヘルムの命を奪えなかった悔しさに怒りは頂点に達す。
辺りを見渡すもすでに兵士達は深手を負って動けない者、すでに絶命している者、捕虜となった副司令官しかいない。
どうやら多数いた兵士達は負けるとふんで逃亡した後だった。
「この命にかえても!!」
そう言うと胸ポケットから手りゅう弾を右手に挙げた。
ヴィルヘルム達は次に起こる事態を予測するのは簡単だった。
瞬間的に防御出来る岩や森の中に走る。
自分の命も厭わず地面に思いっ切り投げつけた。
ドッカ~~~~~ン
耳を裂くような爆音が辺りを包む。
赤い閃光と熱い爆風波は一瞬で全てを飲み込んだ。
監獄の司令官が最後の手段に出て爆風がヴィルヘルム達を飲み込んだ。
絶体絶命のギャバンとヴィルヘルム達は無事なのか?
そしてアンリエットとルシファルとの関係は?
次回一つの秘密と新たな問題が出て……。




