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外伝 【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】結婚三年目のニ人 政治犯を開放せよⅢ!

ようやく北部監獄に到着したヴィルヘルム達これからどうやって収監者を脱出させるのか?

そして…

監獄の外壁に目をやる。

見遥か高くに聳える石の壁に空を切り裂くようにそびえ立つこの石造りの建物は圧倒的な威圧感を抱かせる。

建物の窓にはガラスではなく鉄の格子が組み込まれ外からもその陰鬱感を感じずにはいられない。


人工的で無機質な一切の生を否定している空間はまさに監獄に相応しいものだ。

しかも嵐の夜は全てを闇に覆い尽くていた。


遠くで野生動物の鳴き声と風が空を切り裂いて響き渡る音しか聞こえない。

そこには自分達以外存在しないような人の気配は一切しない。


それもそのはずだ。

この日の為に潜伏者を使い下人から警護の者、看守にいたるまで前夜の食事の葡萄酒に睡眠薬を入れ監獄にいる人間は囚人以外深い眠りに落ちているだろうから。

だからと言って油断は出来ない。

何事も計画通りとは限らないとわかっていたからだ。


ヴィルヘルム達は事前に入手した見取り図を元に激しい向かい風に煽られながらも懸命に足を進めはじめ、監獄の中心部巨大な石造りの監獄の入り口から飲み込まれる様に闇の中を歩む。


雨風の激しい打ち付ける音がその足音を見事に一切を消し去っていく中へと入っていった。


監獄は中央部分は広いエントランスになっているが手前で鉄格子がはめ込まれ行先を阻んでいる。

この鉄格子の左に看守がいる。

しかしヴィルヘルム達がそちらに目線を降ろせば、明らかに皆机の上で頭を垂れて眠りについているようだった。


僅かに上半身の揺れる様子で眠っているのがはっきりわかる。

酒に入れた睡眠薬は十分きいているようだった。


ヴォルが胸元のポケットから鍵を手にし鉄格子のその鍵穴に押し込んだ。


ガチャ!!

ギ~~~!!


簡単に扉は開く。


「ディアナの地図によるとあの地下へと続く階段の先に政治犯の収容牢があるそうだ」


ヴィルヘルムは入り口に焚かれていた火に松明を当てながら監獄の地図と経路を確認する、


火は僅かに揺らめいて陰湿で薄暗いがらんとした地下へと続く階段を降りていく。


リライディナ達も後に続き、一番後方にギャバンが続く。

時が止まったかのようなしずまりかえった場所でただ隙間から漏れてきたであろう水滴の落ちる音が普段よりも大きく聞こえ緊張感が高鳴る。


階段は人がようやく一人通れるくらいの幅しかなく、足を踏み外さない様にゆっくり壁に手をつけながら進む。


咽る様な湿気は冷たく肌を刺す。

と所々かけた石の壁とじんわりとどこからか外部からつたった雨水が漏れてきている。


誰も口にはしないが、この監獄の環境がかなり酷く過酷なものであろうと推測できた。


地の底についたのかと思うほど下った先に終わりが見える。

その目の前に鉄格子の扉が行く手を阻んでいた。

地下は更に湿度と寒さが強く動かなくても明らかに不快な空間だった。


「殿下!鍵はこちらに」

ヴォルが胸ポケットから鍵を出しおもむろに錠前の鍵穴に差し込んだ。


ガチャ!!


ヴィルヘルムの手が取っ手を握りゆっくりと開ける。


扉に身体を預けて隙間から僅かに身体を傾けて中の様子を探る。


さらに湿気と鉄の錆びた匂いと火薬とそして血の匂いが入り混じった吐き気すらする。


「大丈夫そうだ。いこう」


ヴィルヘルムがゆっくりと闇の奥へとと滑り込んだ。

広い石の床に当然だが当然だが窓一つない湿気と冷たい静止した空気が漂っている無機質な空間。

その両側には錆びた鉄の扉がいくつも続いている。


柱の近くには警備兵だろうか。しかし皆ぐったりと身体を投げ出して深い眠りに落ちている。


「いこう。

 順番に解放していこう」


さすがに緊張のためかヴィルヘルムの喉奥でごくりっと唾を飲む音が響いた。


ヴィルヘルム、リライディナ、ヴォルそしてギャバンがそれぞれ鍵を手に鉄の扉の前に立つ。

中は鉄格子越しに確認出来る。

石の床、破れカビのついた汚い布団がボロ雑巾のように敷かれている。

囚人達は一人ずつ隔離され寝ている。

しかし項垂れて生きているのか微動だにしない。


ガチャ!


鍵の回る音に気がついてもぼんやりとヴィルヘルム達を見ているだけで、そこには一切の感情は存在しない。


「助けにきました」

ヴィルヘルムの柔らかな声がこの陰湿な地下牢とはあまりに違いに変な違和感すら感じられる。

その声になんの反応もしない囚人は小さく丸まって蹲っている。

ヴィルヘルムは躊躇なく一人収監されていた囚人の傍に駆け寄ると、柔らかな腕を彼の肩に添えて微笑する。

「もう大丈夫ですよ」


年の頃は二十代半ばだろうか?

酷く汚れた顔ではあるものの鮮麗された品が感じられる顔立ちをしている身支度を綺麗に整えられたら立派な貴公子だろうとヴィルヘルムは思った。


ヴィルヘルムに気づくも男の精気のない瞳にはぼんやりと人を映し出している。

すると瞳はぱっと見開いてさきほどまで焦点の合わない瞳はヴィルヘルムをしっかり捕らえる。



囚人の凍りついた表情は途端に春の日差しを浴びて溶けていくように和らいでいった。

囚人はホッとしたのか同時に瞳から一筋の涙が伝う。


「立てますか?」


囚人は僅かに頷き、ヴィルヘルムの肩をかりながらゆっくりと歩みだす。


拷問からだろう右足を引きずりながらヴィルヘルムに支えられなんとか部屋を出た。


男は深い溜息を一つついて、疲れた様子ではあるもののヴィルヘルムの瞳を見つめて小さなかすれた声で伝えた。


「ありがとうございます。

 もうここで最後かと……」


ヴィルヘルムは勇気づけるかのようにぐっと彼の肩を握りしめ強い口調で答える。


「環境の良い場所を用意しています。

 あと少しです。

 もう少し辛抱してください」


囚人は潤んだ瞳で大きく頷いて答えた。


リライディナ達もそれぞれ監禁されていた囚人達を解放していく。

囚人達は皆身なりは汚いが顔には知性が感じられ、おそらくは平民ではないのがわかる。


「ヴィル!

 彼が囚われていた北部司令官だ」


リライディナの肩をかりて立っている男はヴィルヘルムの方に顔を向けて、軽く礼をしてにこやかに微笑んだ。

顔には殴られた跡で内出血して痛々しい。


「安全な場所に連れて皆さんの治療します」

ヴィルヘルムの力強い一言で囚人達は始めてこの最悪の官僚から抜け出せると実感できた。


北部司令官は口元を緩めて小さく頷いた。

この監獄で味わう初めての希望を胸に抱いた瞬間だ。


収監されていた囚人達の中で歩ける者はギャバンが引率し、手助けが必要な者はそれぞれが手を貸して来た階段をあがっていった。


降りる時よりもその道のりは近く感じるのはやり遂げたという達成感からだった。

上がりきった時も看守や警護兵はまったく気付きもせずに睡眠から目覚める事はなかった。


建物から出ると闇もようやく明けようとしていた。

空はやや藍色へと変化していた。

概ね考えていた所要時間ないだ。


ヴィルヘルムはここで少し安心してふっと吐息をたてる。


「もうあと少しだね」

リライディナがそう言った時だった。





政治犯達を無事に救出させたヴィルヘルム達を待ち受けるものは?

彼らは無事に監獄を抜け出す事が出来るのか?

次回大どんでん返し?

秘密の一つが明らかになり…そして大きな問題も発生します。


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