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外伝 【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】結婚三年目の二人 資金源を断て

革命軍と合流できたヴィルヘルム達は新たな計画を遂行する。

次に狙うのは?


シャハルバードからやって来た大型船がフェレ皇国唯一の港に到着すると、接岸もほどほどに船内から大量の木箱を汗だくの人夫達が重そうに担いで次々陸に降ろしていく人夫の姿が見える。


それらの品はフェレの厳しい検査も行わずに到早々馬車に乗せられ桟橋を離れた。


皇都に向かう大通りを蹄の音も高々に闊歩していった。


何が積まれているのか馬は激しくいななき、蹄は土を強く踏みしめて足取りも重そうに進んでいる。


砂ホコリの立つその道をなりふりかまわず、速度を落とすことなくひたすらに突き進む。

普段は半日の道のりだが、どうみてもそれより最短で着きたいという意図はありありと見てとれる。


港を出て最初の村で、馬の交換を行う予定だ。


「とりあえず予定通りだな」

これから訪れるであろう旅路の長さを考えると憂鬱な気分に陥る。

御者は隣に座るくすんだベージュの外套を羽織り、頭からフードを被った男に話しかけた。


男は返事をする事なく大きく頷く。

下を向いていたが、やや浅黒い肌の丁度鼻から左目の近くまでぱっくりと割れた傷跡が生々しくこの男がただの御者の一人でない事は一目瞭然だった。


「何があろうともこの荷を皇宮に届けないと……」


その傷のある御者に語りかけるというよりも自らに言い聞かせる様に呟いた。


そもそも今回の輸送契約は今まで請け負ったなかで、特殊かつ前代未聞の契約だった。

直接交渉なしで何人もの仲介者を通じて行われ、荷送人も荷の内容も秘密で輸送に担当者は同行しない。

しかも通常は運送を請け負う商人が直接荷馬車の先頭御者に指定してくるなど聞いた事もない要求だった。

ただ依頼は至極単純で、「指定の皇都郊外の倉庫に届けよ」というものだった。

しかも報酬はかなりの高額だ。

胡散臭いはプンプンしたが、それを受けたのは一般的な輸送の5倍を払うというからだ。


丁度支払い金の返済期限が近づいててどんな訳アリの仕事でも受けないという状況で選択はなかった。

それでも金はどうしても欲しかった。

それほど追い込まれていたのだ。

夜逃げなんてまっぴらだ。ここで乗り越えたら後から売上が入金されるんだ!

自分に言い聞かせるように馬に鞭を撃ち込む。


「しかし最近の取引が芳しくない。

 どこも契約に快い返事が返ってこない。

 今回もシャハルバードの貿易商に今回限りと念押しされた。

 各国とも禁止、もしくは制限薬物に規制が強化されている。

 同盟国も入手が困難だという。

 反乱軍を壊滅させないといけない資金のいる時に。

 頭の痛いところだ」


傷の男は芳しくない報告を強いられる現状にイライラとした様子で御者に向かって不満を口にする。


今回の取引の話があった時緊張を強いられる事も多いと感じて始めは断ろうと傷の男は考えていた。

しかし最近は輸出入の量がめっきり減った事が大きく考えを変える事にして請け負う事にしたのだ。


国内の経済が全滅している状況では危険でも海外からの運送の護衛任務を請け負うしか生きていく道がないからだ。

少なくてもいままでの犯罪の逃亡者を捕まえ報奨金を貰う仕事か。

訳アリ人物の危険な護衛、もしくは違法的な仕事しか就けない事は自分の経歴が物語っていた。

貧困層に生まれ幼い時に母は死に父は蒸発、幼い兄弟は病と餓死し男は窃盗とかつあげを繰り返しなんとか生きていた。

そんな自分が真っ当な職につけるはずはなかった。


ただその日を生きる為になんでもしてきた。

今もだ。

このあたりでなんとか信頼を勝ち取りまっとうな自分の居場所を切望していた。



二人の男はそれぞれに事情を抱えながら悪路を進んでいく。


今日の日差しは一段と強く、馬車に廂を取り付けていなければ倒れるところだったろう。

肌に当たる風さえ温い。

何もしなくても汗が流れ落ちるレベルの湿気も含んでいた。


馬車はきつい日差しをもろともせずに最初の馬の交換場所である宿場町に到着した。

小さな馬屋に続続と荷馬車が整列していく。


御者達は馬屋の休憩所に入り、馬屋の使用人達は続続と自分達の馬を手に荷馬車の馬を交換していく。

走りつかれた馬達は動物用の水飲場に連れていかれてガツガツと水を飲みほしている。


「馬を交換したらすぐに出発だ。

 皆その場で待機だ。

 いくら休憩できるからと言って勝手に外出するん

 じゃないぞ」


御者はそうは言っても百近くの頭の馬の交換だ。

そんなに早くは終えられないのは承知していたが、依頼主から頼まれている以上無視する訳にはいかない。


御者と傷の男は空いた時間で併設された食堂に移動して昼をとる事にした。


ほとんど自分達の荷馬車を停車させていたので人は少な目でほぼありふれた食堂は貸し切り状態だった。案内された席にはメニューはなく、ホールの担当者も無言で料理を運んでくる。


「酒を」

そう御者が言うと、給仕は去ってからまた手に酒を持ってくる。


ガン!

乱暴にグラスを机に置く給仕の顔は無表情で言葉もなく酒を差し出した。


「しけた食堂だ」

料理を見ながら御者は言葉を吐き捨てる様に言ってスプーンを手にした。


シャハルバードから輸入したと思わる食材をスープにしたものに主食の乾燥芋のごった煮だ。


まだこのあたりは金さえあれば食材がないわけでもなかったようだ。

サーブされたスープは労働者向けで塩をきかせた辛口でややしょっぱかった。


「食えない理由じゃないがしょっぱいな」


酒を飲みながら吐き捨てるように御者が不満を口にする。


「まぁ食えるだけましだ」


傷の男は仕方ないと言わんばかりに口調で諌め黙々と料理を口に運び、酒で胃袋に垂れ流す。


しばらくして食事を終えて酒を口に運んだ時だ。


「貴方方は皇都へ向かわれるのですか?」

御者の後ろから年老いた男の声がした。

反射的に御者が顔をあげる。


一見行商人風の人の良さそうな恰幅の良い老人が話しかけてきたのだ。

垂れ目で肥満の為に目は細いがかえって人懐かしい優しげでいかにも世話好きそうな容貌をしている。

身なりも貧しい商人でもなさそうだった。


「まぁ。そんな所だ」


話しかけないでほしいと言わんばかりにぶっきらぼうに御者は答える。

へたに話して跡がつくのも厄介だと感じたからだ。


老人はそんな対応を去れているとも感じていないのかにっこりと微笑んでお構い無しに話し始めた。


「皇都に向かうレルシャ峠で落石があったんですよ。

 私はその前に通過できましたが。

 もう暫くは通れないだろう。

 遠回りだがギャレド山脈の尾根を通過した方が安全だ。

 そう思ってね。

 まぁ年寄りのいらぬおせっかいだね」


老人はガハガハ笑いながら、そういいのこし去っていった。


「……なんか…偶然にしては…」


御者はぼそりと疑問を口にした。


「そうだな。 

 身元も知らない爺さんの話だ。

 罠だったら大失態だあ。

 まず早馬で信頼出来る者を現地に向かわせよう」


「ああ。」


二人は食堂を出て馬屋の主人に今の情報の確認をした後、一番早い馬を調達し、信頼出来る馬の使い手の手下をすぐ向かわせた。

出発は遅れるか荷をだめにする方がリスキーだったからだ。


「早馬で往復1時間だろう。

 丁度帰ってくる頃には出発出来るはずだ。

 しかしさっきの老人何かひっかかるな。

 まぁ人をやったから真偽のほどははっきりするが…」  


慎重だな。

傷の男は感心したように満足そうに頷いた。


今回の取引物は最近で最も大きな額だ。


今回は同盟国に納め、今回はその売上を金塊で運送しているのだ。

具体的に依頼主の名は知らないが、荷を運ぶだけの彼らの仕事には誰がなどという詮索は意味がないし、必要ではなく。どちらかというと厄介な事に巻き込まれなくするには聞かない方が得策だった。


しばらく馬屋で仮眠をとった後、馬の支度が整った頃に偵察に行かせた手下が戻ってきた。


丁度読み通り1時間だ。


「報告いたします。

 レルシャ峠の下り道で、巨大な岩が落石状態確認済。

 自然落下の形跡あり!」


御者は手を顎に乗せてしばらく瞼を閉じた。

間を置いて傷の男に告げる。


「旅程変更。

 皆に伝えてくれ。

 マルディ山脈を越える!」


「ぇっ!

 あそこは急な坂道が多い。

 しかも山賊が出ると嫌厭するルートだぞ」


にやりと御者は笑う。


「だからだよ。

 今の用意した警護兵は傭兵だ。

 戦闘では山賊など朝飯前。

 しかも馬は全てオルファン種の特に健脚なものに変えた。

 問題ない。

 さぁ行こう。

 山脈で夜を越したくなければな」


皆あたふたと出立の準備を整えて、マルディ山脈を目指した。




密輸品の売り上げを輸送する荷馬車隊は予定外のルートを進むことに。

次回はマルディ山脈で一波乱バトります。

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