外伝 【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】結婚二年目の二人 溺愛と狂愛Ⅲ
一枚岩ではないフェレ皇国の宮廷。
フェレ皇国の皇都は不穏な空気の中にあった。
今回はフェレ皇国サイドの人間関係は?
ルシャンディにある皇室専用の保養地は皇都から30キロにある。
広いディアバンテ丘陵に人がる深く広い森に囲まれ温泉が湧く風光明媚な地にあった。
保養地といっても離宮と隣接するクアハウスだけで周りは森に囲まれ周辺に村はない。
人の行き交う様子もほとんど皆無だった。
いるのは離宮に滞在し離宮の管理を行う役人や使用人達がだけだ。
グロフォード公爵は宮廷会議の後、皇宮から私邸に戻らなかった。
皇宮を去った後、一目散に馬車に乗りそのまま猛スピードで皇都を離れ郊外に出てあるルシャンディへと駆け走ったのだ。
荒れて砂漠化した草原を砂をまき散らしながら馬車は全速力でひたすら走り続ける。
御者に前もって緊急の用と念押しし、馬を乗り返る以外は休憩なしでひたすら走らせたためようやく深夜に離宮に到着する事が出来た。
離宮には温泉がわき出していた事と離宮の使用人が森が枯れない様に管理していた為森林は緑豊かで青々と生い茂り日照りの影響はまったく感じなかった。
馬車は玄関口で勢いよく止まり、公爵は足早に降りて離宮内に入って行った。
エントランスには前もって侍従長が待機しており、その侍従長の案内で二階の主賓室へと階段を上がる。
離宮とは言っても皇宮とは違い簡素な白亜の石造りの宮殿で、内部も淡いグリーンを基調にした内装の必要最小限の設えであった。
逆にいうとあまり使用されていない離宮であった事が窺い知れる。
事実ここは今は死去した二代目の皇王が幽閉されていた離宮だった。
長く忘れられた離宮を娘である皇女が廃位させて父をこの離宮に監禁していたいわくつきの宮殿だった。
侍従長は二階の一番奥の大きな扉の前で立ち止まり、公爵に一礼した後ドアノブを回し公爵を中へと誘った。
公爵は暗い部屋に吸い込まれる様に入って行った。
薄暗い室内に窓際に僅かに月明かりが差し込んでいる。
その窓際に大きな寝台が配置され、上から天蓋が降ろされている。
誰かが眠っているようだった。
女性だろうか?
薄い幕の天蓋は辛うじてほっそりとした見るからに高貴そうな寝ている女性の姿をぼんやりと映し出す。
公爵は普段は見せた事のない動揺した真っ青な顔色で、震えながら寝台前に置かれた椅子に腰かけた。じっとその女性の顔を愛おしそうに無言で眺めていた。
その顔立ちに普段の氷の様に研ぎ澄まされた冷酷さや威圧感は微塵も感じない。
それどことか見せた事のないくらいの穏やかで慈愛に満ちた表情を蓄えていた。
「陛下」
そうぼそりと呟いた後頭を垂れてそのまま微動だにしなくなった。
年齢は四十代半ばかプラチナブロンドと鋭い赤い瞳が炎を思わせる。
ほっそりとしてやや神経質な印象を受けるものの端正な顔立ちだ。
白髪混じりの前髪がダラリと頰にかかる。
グロフォード公爵は上皇王を天蓋越しに、飽きもせず見つめ凝視している。
その姿には君主への忠誠心や盲目的な尊敬は不思議な事に見られない。
瞳はまるで恋人でも見るような刹那の眼差しと言って過言ではなかった。
公爵は苦痛に悶えながらも自分が二十代の頃まだ皇女の時代から侍従として傍に仕え、ただただその美しさと信念と野望に魅了された。
最初は可愛らしさに魅了されそのうちそれは高貴な者への憧れに変化した。
そして皇女が少女から女性になりその美貌が頂点に達した時、自分の胸の中にある奥深くに眠って自分すら気付かなかった「愛」という感情を知った時の驚きと戸惑いと確信はもはやどうする事も出来ないほど心の奥底に愛という感情が刻まれた事を認めざるを得なかった。
しかし身分違いの想いは叶える事は不可能だった。
ただただその思いを封印し、さらに皇女に忠誠心を誓い自分を偽り続ける。
皇女が年頃になり、夫を持った時に嫉妬心に狂いそうになりながらも、その気持ちを決して表わそうとはしなかった。
打ち明ける勇気などあるはずはない。
そんな事を言ってしまえば自分が皇王の傍にはいられなくなるという事がよくわかっていたのだ。
狂い死ねたらどんなにいいかと何度も想像してみてるが、上皇王の瞳が自分に向けられているかどうかもわからない自分を想像も出来ない。
そんな事はどうしても耐えられない。
どんな立場にいても。
どんなに苦しい嫉妬に苛まれようとも傍にいたかったのだ。
傍に入れると実感していたかったのだ。
だからこそその思いは心の奥底に泥の様に沈殿し溜まっていった。
そのうち自身をもその沼に深く沈んでしまう事も知らずに。
「陛下。どうか……どうか……目を…私を…」
声にならない声が静かな主賓室に風を起こす。
その声に答えたのか、眠っている上皇王の眉毛がピクリと動いた後、頭を左右に動かしてその瞼をゆっくり開けたのだ。
青白い肌は透明感がありどうやら病の床にあると思われたが、そのか弱い様子はさらに彼女の儚さを醸し出していた。
美しい湖の色の瞳は透明感のあるやや生気が感じられない。
上皇王は人影を感じその方向を顔を横に向けた所にぼんやりとグロフォード公爵が瞳に映る。
「レオナルド?」
グロフォード公爵のファーストネームだ。
パッとグロフォード公爵の瞳が輝き、その手を上皇王のそれに重ねて枕の傍まで寄っては顔を近づけた。
「陛下!」
上皇王はぱっと明るい笑みを浮かべたかと思うと、グロフォード公爵の予想を遥かに超えた喜びの声を放つ。
「マリアンネと呼んで。
今は誰もいないわ。
貴方を待っていたわ」
「我が陛下……。
いいえマリアンネ様」
グロフォード公爵は感動のあまり瞳には涙が潤んでいた。
聞きたいと想い、そうなりたいと願ったその台詞を不意打ちで喰らわされたのだ。恋の鎖が身体中を締め付けたが、それさえ喜びに感じた。
「そう。
愛しい貴方」
そういって公爵の手に顔をうずた。
「あぁ~私の全て私の命。私のマリアンネ」
公爵はぐっと両手で上皇王の背を抱きしめて上皇王の首元に自分の顔を埋める。
「陛下。私の陛下」
公爵は声にならない刹那ななほどの狂おしいまでに自分の思いを吐き出す。
今まで決して口に出した事のない心臓を押し潰されそうなまで耐えたその思いを打ち明けてもよいという幸せを噛みしめる。
「私……達の……あの子いなくなったわ……」
皇王は肩を大きく落として、両手で伝う涙を覆い隠す。
「陛下…。
今はまだ皇王陛下は療養中といたしましょう。
今は反乱軍の制圧に全てを注がないといけませ
ん。
皇王陛下が隠れた事実がわかれば反乱軍、内外
に大きな影響を与え、国力が保たない可能性がご
ざいます。
悲しみは私も同じ。
愛しい我が子です。
影から見守る事しか出来なかった。
陛下の恩寵の証の子
そして我が国の皇王陛下」
実は過去に一度皇王の王配が浮気をした事があった。皇王は激昂して王配と相手を亡き者しようとしたが、グロフォード公爵は内外的に影響が高すぎる為になんとか思い留めさせた。
その過程で二人は一度関係を持った事があった。
その一度で妊娠し、出産したのが現在皇王だった。
「レオナルド!
本当に私と痛みを同じくする唯一の方」
「陛下。
今はお眠りください。
今はまだ。
私にお任せください。
私の命をかけてもお守りいたします。
私の陛下。マリアンネ様」
グロフォード公爵は誓う。
決して反乱軍をこれ以上のさばらせないと。
自分の全てを費やし、上皇王の為に命を捧げると。
知らなかった事実が明らかになっていく。
上皇王とグロフォード公爵の関係?二人の子供とは?
次回はクリスティア商団が皇都に入り、反乱軍といかに戦うかの最終章始まります。
しばらく構成の為休載いたします。
5月くらいに再連載出来たらと思っています。
ご愛読ありがとございます。
しばらく充電し、新しいヴィルヘルム達を登場させられたかと思います。
では次回楽しんでいただけたら嬉しいです。




