外伝 【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】結婚二年目の二人 アンドリューの秘密と絡む糸Ⅶ
いよいよディアナ(旧名アンドリュー)の住んでいた家に到着したクリスティア商団の隊列。
ヴィルヘルムとギャバン、そしてフランシスが屋敷の内部を調査する為に潜入する事になった。
惨劇の詳細が今明らかになる。
目の前に現れたのは地方の豪農かもしくは都会のブルジョア階級の別荘風の佇まいがある屋敷だった。
一階建てではあるもの、茅葺き屋根は高く白い壁として積まれて格子窓で囲われている。
大きなL字型の建物だった。
玄関の扉は半開きのまま風に押されて、耳が痛くなるほどの音をたてて開いたり閉まったりしている。
その取っ手は斧の様な物で破壊されており無残にいくつもの亀裂が入っている。
その亀裂から小動物が出入りしたであろう足跡、擦れて朽ち果てえた木くずがそこらかしこに散らばっていた。
かなりの腐敗匂がするはずだが、三人共臭覚抑制薬をつけているので臭いは感じない。
これがなければ吐き気で立ってすらいられなかったろうとヴィルヘルムは不快な顔を隠さない。
出来れば現場を見たくはないな。
内部の惨劇を想像するには十分だ。
襲撃者が自分達の身の安全の為なら痕跡を残さないだろうが、これがならず者や国外のまた暗殺者を請け負う闇の組織なら必要ない行動だ。
皇国の上層部や有力者が直接関与したなら、消し去るがそんな汚い仕事を自らするとは考えにくい。
内部はさしずめ戦場のようだろう。
三人とも気が重いとばかりに大きなため息をつかずにいられなかった。
「行くか」
仕方ないとばかり諦めた様な顔つきでありながら、どこかに行きたくないという表情も垣間見れる。
他の二人も同じなのか足取りが重い。
ヴィルヘルムが息を呑んでゆっくりとギャバンとフランシスを従え扉を押し開ける。
ギ~~~~イ。
その音はまるで地獄の入り口の扉の音の様な歪んだ音に寒気で身震いが止まらない。
すぐエントランスが目に飛び込んできた。
窓は全て閉じられ丁寧にカーテンが施されている。
なので昼だというのに室内は薄暗い。
枯れた草、土や砂、動物の死骸が風のせいで巻き散らかされていて、全ての生活の痕跡は消えている。
床には動物の足跡と人の靴の足跡が不規則に点在し三人は目をこらしてそれをなぞっていく。
「襲撃者は足跡からどうやら三人だな。」
フランシスの険しい表情を崩さないまま目線が床に落ちた。
ヴィルヘルムが吐いた息で答える。
「そうだな。
体格のよさそうな二人とやや小柄そうな一人か。
どう見ても男の物だな」
「少人数で襲撃したな
女だけの家だと知っていたんだろう」
ギャバンが鋭い眼光で襲撃者を軽蔑するかのように言葉を吐き捨てた。
「ものすごく嫌な予感がする」
ヴィルヘルムは襟元を緩めながら、自分の第六感が当たっていない事を願うが思わず言葉にでてしまう。
「襲撃者の足跡を追っていこうか」
フランシスはエントランスの奥へ足を進めながら言った。
内部に侵入した際の足跡はなんとか目視出来る程度だったが、撤収の際につけた足跡ははっきりとどこから来たのかわたる。
びっしりと赤黒く変色した足跡が床にこびりついていたからだ。
明らかに酸化した血痕が付着した痕跡だった。
エントランスの先には廊下が続き、一番突き当たりの部屋へとそれは続いている。
「どこに?」
その先には扉が叩き壊されたであろう無残に朽ち果てた扉があった。
廊下から見える範囲ではおそらくダイニングルームの様だ。
「え!」
足を踏み入れたダイニングルームは想像を超えたものだった。
ヴィルヘルムは息を飲んでただ絶句して瞳が映し出す光景に頭は一気にフリーズする。
テーブルと椅子、燭台、テーブルクロスは床に散らばって破壊されている。
窓から入る枯れ草やゴミ、飾られた花が干乾び残骸のようにそこらかしこに撒かれたようだった。
しかも壁には赤黒い飛び散った血痕がベッタリついていた。
「…想像以上だな」
フランシスは真っ青な顔で吐ききるようになんとか言葉を絞り出す。
「あっちはもっと悲惨だ」
ギャバンが奥にあった黒い物体に気がつく。
駆けるように足早に瞳が映し出した映像の場所へ向かった。
その場所にその先に薄暗く映る空間へと近寄った後、しばらく静止して動かないでいる。
ギャバンの視線の先にあったもの。
白骨化しつつある殺害されて数カ月は経つ遺体はうつ伏せで長らく放置された状態で、とても正視出来るような状態ではなく、衣類が辛うじて女性だろうと思われた。
頭部の髪は埃まみれだがまだ残っていた。
服は着ているが、どこもかしこも破られて辛うじて着ていると表現出来るくらいだった。
その服の下には骨が見えている。
それだけではない干乾びた内臓が丸見えで、しかも何かに引き摺られた様に千切れた肉片と内臓の一部が飛び出ている。
そのまわりにはなんの生き物かわからない無数の足跡がこびりついている。
殺害後放置され、野生の動物が血の匂いに引き寄せられて食いちぎられたのは明らかだった。
「ヴ…ヴェッ…ウェ!」
ヴィルヘルム天井を見上げ何とかこみ上げる吐き気を抑え込む。
喉にいやな酸味が残るが吐かなかっただけましだと思う。
ギャバンは我を忘れその死体から目を背ける事が出来ない。
目は赤く血走って身体が小刻みに震え、それを止める事が出来ないでいる。
誰だ。
こんな…死者に鞭打つような真似をしやがって!
埋葬すらせず……。絶対に許せない。
身体中血が逆流するくらいの怒りでどうしようもない。
それと同じくらいに今までの自分自身の仕方ない軍人となった自分に言えるだろうか?
自分も多くの人を殺したのだ。
その者達にも愛する者、愛される者がいたはずなのに……。
息すら忘れそうになり微動だにしない背後からサッツと風が起こりギャバンは我に帰る。
ようやくそれに気がついたギャバンの横にはフランシスがジャケットを遺体に掛けたのだ。
「後で埋めてあげましょう」
フランシスはそう言って遺体に手を合わせた。
「あぁ…そうだな…」
ギャバンが震える声で同意しヴィルヘルムと共に黙祷を捧げた。
しばしの静寂の後にヴィルヘルムが息を吐き言葉を吐き出す。
「まだ一人遺体があるはずだ。
奥に行ってみよう」
直線状にエントランスからダイニングルームがあり、その他の部屋は左側に続いているようだった。
廊下は埃まみれで窓から吹き込んだ雨風のせいで床は所々穴が開き歪曲して腐りかけているせいで足元もおぼつかない。
三人はゆっくりと足元に注意しながら、その歩みを進め一つ一つの部屋の扉を開けていく。
手前に使用人の部屋があり、蝋燭の減り具合や読みかけの聖書、先ほどまで座っていたであろう不規則に置かれた椅子に内部は今その時まで使用していたという生活感が垣間見える。
その次の部屋も同じ様な様子で編みかけケイトとショールが目に飛び込んできた。
ここに人が暮らしていた証がそこにはあった。
「ディアナが言っていた家政婦と世話係の部屋だね」
ヴィルヘルムが目尻を下げて厚い曇りがかった表情をしては肩で息を吐く。
「本当に……。
ここは胸にくるね」
フランシスも海賊として航海と戦いを経験してはいたが、素人相手に自ら血を染めた事などはなかった。
海賊といえどそれは彼の誇りでもあった。
だからこんな蛮行は許し難いものに思え、憤りを隠さず、怒りの血が全身を駆け巡りいら立ちはピークに達している。
使用人の部屋を過ぎるとあと二つ大きな部屋があるようだった。
三人は静かではあったが怒りをたぎらせて一歩一歩足を進めていった。
その先にある部屋の扉が二つ、一つは両方とも広い部屋と突き当りに一つ扉が待ち構えていた。
そこは更なる悲惨なそして謎が待ち受けていた。
ディアナ(アンドリュー)が暮らしていた屋敷で三人を待ち受けた事実とは?
次回母親の行方と謎の布石が。




