外伝 【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】結婚二年目の二人 アンドリューの秘密と絡む糸Ⅵ
水難事故からリライディアが助けられたアンドリューはヴィルヘルム達に女の子である事。母が浚われた事、そして知能の高さなど真実を打ち明け新たな展開が始まる。
そのアンドリューには協力者が二人いた。
三人の関係は味方か敵か?
そしてクリスティア商団は皇都へ出発する。
アンドリューから名前を変え女の子に戻ったディアナは順調に回復し、一週間後には普段の生活を過ごせるようになった。
するとすぐに「身体を動かしたい」と神殿に併設されている救護院や養護院でボランティアの仕事をし始め献身的に病人や幼児の世話を焼いていた。
事情の知らない大人は小さな子が真剣に奉仕するその姿を見ては驚きを隠せないでいる。
世話を焼かないといけない年頃のディアナの行動は違和感を持たれはしたが、同時にその行動は褒めたたえられた。
そんな充実した生活はあっという間に終わりを告げた。
クリスティア商団がそろそろこの街を出発という前夜。
ディアナは部屋で真夜中窓際で身を窓に預けてぼんやりと外を見ていた。
その瞳は鋭くバルコニーをみつめる。
そこから人影を感じて怪訝そうな表情をするが顔はそちらを向けない。
耳を澄ませ身体はそのままじっと動かさないで静寂に身を委ねている。
自分の呼吸が聞き取れるくらい静かな夜だった。
ただ月光が優しい光を照らし、その柔らかな微笑むを庭に咲く季節外れの薔薇の花が窓から美しく見える。
ガラスで仕切られはしているが香りまで部屋の中に漂ってくるかと思えるほどだ。
「す……全ては……順調です。
このまま安全に皇都に到着するでしょう」
バルコニーから小さく低い微かに聞こえる声。
おそらく風が吹いていたら、夜行動物が騒がしかったらほとんど聞こえないほどの声だ。
性別すらはっきりとはわからない。
「……そうね…クリスティア商団なら」
「でも大丈夫かしら。
私の身元を情報ギルトに調査させると言っていたわ」
「はい。
御身の身の上は皇宮以外では関係者や事情を知る者はほとんどこの世にはいません。
正直私も詳しくは知らされておりません。
ですので外国人の商団の彼らが事実を知る事はないでしょう。
調べても何も出ないはずです」
「そう。
ならいいのだけど…まあぁ私も母上から出生を聞いていないから。
何が出てくるのかわからないけれど」
「今諜報員に皇宮の情勢を探らせています。
たがなかなかうまくいかないようで。
せっかくの情報源。
無理をさせてバレてしまい貴重な人材を失うわけには……」
「そうね。
このまま商団と共に行動して皇宮に入るのが一番良い策でしょね。
皇宮にむやみには入れないけれど。
潜入するには商団にいないといけないでしょうね。
それに奴らの目的の達成には商団に潜り込むのが、安全で得策だという事ね。
それに奴らにはこのまま私が思い通りに動いていると認識させないといけない」
「そうですね。
へたに動いては感づかれたりしたら」
「はい。
それと皇都から指令が。
商団の情勢を知らせるようにと……」
「ふっ…。
貴方も家族を人質に取られて辛い立場ですね」
「今の所家族は郊外の砦に監禁されているのでしょ。
皇都からの殺害伝令が降りるまでは価値があるという事です」
「しかし本当に卑怯な手を………」
「今は時を待ちましょう。
皇都に入ってから皇宮からなんだかの指令が下るでしょう。
その時に……詳細の情報が入るでしょうから」
「はい。そのようにいたします」
「ご苦労様。
お互いなんの因果でしょうか?」
「……ではまた」
その声の主は葉を音を最後に声も気配も消え残されたのは静寂と闇だけだった。
「本当になんの因果か?」
再び月を眺めながらため息をついてしばらくまんじりともしない夜が明けようとしていた。
ディアナのぼんやりと庭の薔薇を眺めてみる。
もっと幼い時に母と見た野薔薇を思い出していた。
キラキラと朝露に濡れた絹のような白い薔薇はまるで母の様だと思ったものだ。
お母様を助ける。
その為ならなんだってすり。
ギュッと拳を握り締めながら、いいようのない焦燥感と孤独を宿す決意と信念を瞳感じた。
月だけが全てを見ていた夜が明けていく。
まだ太陽が地上に昇ってくる前に商団は隊列を組み皇都を目指し出発する。
この街から皇都までは街らしい街はなく、途中ニ箇所で野営する事になる。
最初の野営出来る場所まで移動距離を計算すると黄昏時に到着するためだった。
道は整備されておらず雑草が生え小石がそこらじゅうに落ちる悪路だ。
隊列は引き寄せられるよう果てしない地平線の先をひたすら進んだ。
途中にぽつりぽつり住宅はあるものの人がいる気配はなく、点在する畑も手入れがされていない。
雑草と枯れた木々が死体のように横たわっていた。
低い日差しの下で太陽の最後の強い輝きが天から降り注ぐその時、野営が出来る枯れた大木の下にテントを張り、そこで夜を明かす為に行列は止まった。
人々はそれぞれの役割を担い野営の準備をはじめ馬達はしばらくの休息に入る。
仕切りのないテントには大量の水と草が用意され、空腹を満たした後にその場に寝そべり眠り始めた。
団員達は次々手際よくテントを設置、そして食事の準備をする者、一晩の荷を下ろす者、護衛の者も警護に隙がない。
フランシスを中心とするクリスティア商団の幹部とヴィルヘルム、リライディナは今後の行程の確認と他の商団の動向についての情報共有と打合せを兼ねた会議をしていた。
丁度皆目の前の仕事に夢中で他に目をかける余裕がない。
こういう雰囲気を待っていた人物が二人いた。
ごく自然にそれでいて人の目が向かいない
ガヤガヤとした雰囲気は全てを消し去り隠してくれそうだった。
団員が行き交う丁度死角になる枯れた草むらに二つの黒い影がベージュ色の葉の合間から見え隠れしている。
「順調ですか?」
そう聞いた声は少し固くやや緊張しているのがわかる。
アンリエットの物だ。
「今の所、皇宮から伝令はない。
ないが……妙だ。
以前はやかましいほど情報の催促をしてきていたのに。
最近はめっきり減った。
何か皇都であったのだろうか?」
「さぁ?
私の所にも連絡はありません。
あと少しで皇都です。
流石に到着したら何か言ってよこすでしょう」
「そうだな」
「それよりもなんだか良心が傷みますわ。
貴方は家族を私は婚約者を人質に取られアンジェリを欺くだけでなくフェレイデン帝国やオルファン帝
国まで巻き込む事になってしまって」
「……私の身がどうなるかなど。
もうどうでもいいが……。
家族の身に何かあれば……」
「ええ。それは私も同じです。
私の囚われた婚約者も長く両親に反対され、一時は会えなかった時期もありました。
強く反対していた父が病で逝去して母が男手を必要と。
私達の関係を理解してくれるようになって、ようやく婚礼の支度が整い出した時にフェレ皇国に攫われて。
貴方と同じように監禁場所から時折くる伝書鳩の文だけが心の支えです」
「しかし……。
アンジェリの態度と行動は本当に自分の目と耳を疑うよ。
あの冷静で落ち着いた雰囲気はまるで大人としゃべっているようだ。
本当に五歳か?」
「ええ。
長い間世間と隔離されていた生活だったのに。
あの頭の回転の速さと冷静沈着な思考、そして知性は普通の大人でも無理でしょう。
成人の知識があると言っていましたが、それ以上に思います。
彼女にはまだまだ謎が多いと思いますね。
奴らからあの子の素性は詳しく説明されていませんでした。
何かご存じ?」
「いえ。詳しくは……。
ただ前皇王の関係者の縁者という事しか聞いていません。
母親は外国籍でフェレには半分無理やり入国させられたらしいくらいしか知りません」
「そう。私もそのくらいですわ。
二代前の皇王の隠し子か?
前皇王は腹違い姉弟を全員殺害したとされていま
す。まぁ二人を除いてですが。
三人目がいても可怪しくはないです。
どちらにしてもやっかいな存在でしょう。
後野営を一泊してアンジェリの暮らしていた屋敷に行くでしょう。
何があるかわかりませんが、皇都に到着してからですわね」
「ああ…そうだな」
「皇都に入ったら気を引き締めていかないといけませんね。
私も貴方様も……
そろそろアンジェリの就寝時間です。
テントに帰ります」
「ああ」
二人の心には風の音とさざ波の様に揺れる枯れ葉と同じくらい複雑な心情に揺れていた。
アンリエットと謎の人物の会話は?
ディアナとの関係は?
次回様々な謎が錯綜する中、隊列は皇都近郊のディアナが暮らしていた屋敷を訪れる。
アンジェリの暮らしていた屋敷は?
何がこの屋敷で起こったのか?
謎が明らかになるのか?
それとも………?
次回更新お楽しみにしていただければ嬉しいです。




