外伝 【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】結婚二年目の二人 隠し子発覚?Ⅲ
フェレ皇国に入国し、皇都を目指すクリスティア商団に突然嵐の様にやってきた自称ヴィルヘルムの子供アンドリューはヴィルヘルム達にどうかかわってくるのか?
「ファビエンヌ・ディア・ヴェリデュール?」
ファビエンヌ・ディア・ヴェリデュール
ヴィルヘルムはその名に心当たりがあった。
まだ幼い頃離宮で過ごしていた時に、隣接するヴェリデュール侯爵領に同じ様に家族と離れて生活していた女の子がいた。
その子はよく離宮を訪れ共に遊んでいたのだ。
後から聞いた話によると、彼女は侯爵の先妻の産んだ長女で生母亡くなった。
その後侯爵が再婚した義母に子供が生まれ、家族から疎外されて父親によって病気と偽られたという。
田舎の領地で暮らし、よく離宮に来ていた。
しかしそれは父の侯爵の意向で、早くから皇室と繋がりがほしいという単純なものだったという。
「そっか。ファビエンヌの……」
ボソリと呟いた小さな声をその場にいた者が全員拾い上げ波紋を広げざわつき始める。
ヴィルヘルムはもう一度何かを確認するかの様にアンドリューの顔をじっと見つめて、記憶の奥底にあったファビエンヌの顔を引っ張り出し始める。
淡いややホワイトゴールドの柔らかい髪はさらさらと、白い肌に揺れている。
瞳は深海のその群青色。
なんとかうら覚えの記憶はその彼女の面影と一致するが。
そうなるとますます解せない。
何故なら離宮から宮殿に戻ってからは会ったことがないからだ。
しかも当時本当に子供でそんな関係には絶対になれない。
せいぜいキスくらいだろう。
そのキスさえした記憶はまったくない。
「ヴィルヘルム様!
やっぱそうなのか?」
ヴォルが大声で今にもヴィルヘルムに突っかかっていきそうな勢いだ。
「いや。子供の頃の幼馴染だ。
私が離宮にいた頃に会っていた。
でもそれだけだ。
宮殿に戻ってからは会っていない。
本当だ!信じでてくれリライディナ!」
全員猜疑心固まりの表情でヴィルヘルムを見ている。
とうのリライディナはヴィルヘルムの必死の形相に頭は混乱しているようで、石の様に固まった表情を崩さない。
アンドリューは席を突然立ったと思ったらダンダンと勢いよく走り、ヴィルヘルムの足元に両腕をいっぱい掴んで抱きしめて離さない。
「おとうしゃま!!」
ヴィルヘルムは思い立ったように屈んでアンドリューの背中を両手で包み込む。
「お母様はどうしたのかな?」
「……」
するとアンドリューは見上げていた顔を下を向けて無言を貫く。
「アンドリュー?」
アンドリューは下を向いたまま今度は肩を震わし始めて、そのうち鼻をズルズルし始めてようやく顔をあげた時に瞳にいっぱい涙を溜めて震えながら小さな口が開き告げた言葉は衝撃的だった。
「わかんない。
おきたらこの泉にいて……。」
「どこから来たのかな?」
「フェレの皇都のはずれだよ」
「えっ??」
「なんでオルファン帝国から出国できたんだ?
フェレって貴族でも特別許可がないと入出国出来
ないはずだ。
どういうことだ??」
ヴィルヘルムが押し黙って固まっているのに煮やしたアンリエットがアンドリューの傍に近づく。
ニッコリ笑ってアンドリューの頭を撫でる。
「アンディ…。
いくつかな?
それとお母様はお父様がどういう人か教えてくれ
た?」
アンドリューはしばらく瞳を空に向けた後、アンリエットをじっと見る。
「ぼくは四さいだよ。
おかあしゃまは絵を見ながらこれがおとうしゃま
ですよ。
とおしえてくれた。
ほかにはしらない」
それを聞いたアンリエットはふっと安心した表情をしてアンドリューの温かい手を握りしめた。
「大丈夫。後でゆっくり教えてあげるわ。
まだ本調子じゃないから私の部屋で休みましょ
う。
あぁ…お父様は商人よ。
クリスティア商団のオルファン支部のね」
「ふ~~~~ん」
アンリエットはその手を取って居間を去ろうとしした。
二人がリライディアの前を通り過ぎたその時、リライディアは思ってもみない光景を見る事になる。
アンドリューのその敵意に満ちたその瞳を。
はっとして思い直した何か感じだったのかも。
そう思った時に胸の奥底に小さな波紋が生まれた。
台風が過ぎ去った様な居間の空気は想像以上でヴィルヘルムはいたたまれないが、言わずにはいられない。
「本当に違うんだ。
ファビエンヌは僕が離宮に静養していた時によく
来ていた少女で侯爵家の長女だった。
僕は十歳にもならない頃だ。
宮殿に帰った後はあった事がないし、彼女のその
後も知らない。
本当だ!!」
これまでことの成り行きを見守り沈黙していたフランシスが意を決して口を開く。
「俺たちは席を外そう。
二人でゆっくり話すといい。
なぁヴォル、ギャバン、ヴィルヘルムのお付達もな。」
皆後ろ髪に引かれる思いだったが、フランシスの提案に全員がその場を立ち去った。
ヴィルは何を話すのかなぁ?
言い訳か?
でもなぁ。生まれた者に罪はないし。
父上も側妃以外に手をつけた女の人はごまをといたらしいし。
隠し子だってわかっている以上にいたらしい。大抵相手にはすぎた家柄の結婚をさせてその嫡子にしたらしいし。
でもなんだかへんなこの感じはなんだろう?
凍り付いた様な部屋の空気に耐えられずにリライディナが咳払いをして聞いてみた。
「ヴィルはそのフェビエンヌって人を知ってるんだ」
「まだ小さな頃に離宮で過ごしていた時によく来ていた隣に領地を持つ侯爵家の長女で、同じ様に田舎で
静養していたんだ。
部屋で楽器を演奏したり、本を読み合ったり、ゲームをしたり、トランプしたり。
庭でピクニックしたり、散歩したりした。
でも本当にその時しか会ってない。
僕は宮殿に戻ってからは一度も会ってないし。
彼女のその後も知らないんだ。
信じて!!リラ!!」
わかってもらおうと懸命に記憶の底にある離宮時代を掘り起こしながら、ワナワナと震えて瞳には涙の粒が浮いている。
こんなヴィルは初めて見た。
本当に?
でも………。
いや、駄目。
信じないとだって夫だもの。
あぁ~~でもなんなんだ?このチクチクする胸の痛みは。
こんなの感じたことない。
痛い~。
悲しい。
嫌だ。
グチャグチャの気持ちのマーブル模様の私胸の奥底。
でも……夫を信じないと……信じないといけないと思うたび。
でも…あれあれあれ……。
そう何故だかわからない自分でも不思議だ。
リラディナの頬に一筋の涙が流れたかと思ったら、止まらない後から後からぼたぼたと流れてくる。
自分でも何故泣いているのかまったくわからない勝手に流れてくる。
ふとそれに気付いたかと思うと。
わっと身体を包み込こまれた。
ヴィルヘルムを突然抱きしてきたのだ。
その温かさ、ヴィルヘルムのドクドクした心臓の音、少し汗の匂いはリライディナのグチャグチャになって捩じれた心をほぐしてくれ、ほっこりとした何とも言えない陽だまりが現れる。
そうだ。
今のヴィルを見ていたらいいんだ。
そう私の鏡で見えるヴィルを………。
これからしっかり…。
少なくても不実な人には見えない。
これからどうあの子が関わってくるかはわからない。
でもヴィルは私の夫で、私の隣にいてくれる。
うん。
しばらく二人抱きしめ合った。
そこには愛か、信頼か、友情か?
まだ定かではないけれど。
お互いを思いやるそんな感情を二人はしっかりと持っていた。
次回この子供は?
謎は益々深まる。
皇都に向かう途中で地方の都市でクリスティア商団の活躍が。




