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外伝 【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】 結婚二年目の二人 フェレ皇国の異変

ヴィルヘルム達がフェレ皇国入国に際し要塞陥落を受けてその報告は遂に皇都へと伝達される。


「シャリーノ侯爵軍事大臣閣下!

 大変でございます」


突然現れたグランディアナ皇軍の伝令に面食らったシャリーノ侯爵はその伝達文を手に取り、読んだ瞬間から血の気が一気に引くのを感じるがそれ所ではないのだ。

挿絵(By みてみん)

いてもたってもおられず慌てて皇宮に馬車を走らせ到着するやいなや入り口から駆け足で皇宮内に入っていく。

皇宮の中にも関わらず足音を高く響かせ、端正な顔立ちは歪み顔色も青白い。

目も血走ってなんだかの異変を胸にしているのは明らかだった。


グランディアナ皇軍から早馬で昼過ぎに伝達がされ、その衝撃的な知らせは今も信じられない。

頭の中は混乱の限りをつくして気持ちが追いつかない。


皇国きっての鉄壁の要塞だった。

一夜にして陥落され全滅など考えも及ばなかった。

どうして??完璧だったのに。

北部の異教徒の可能性が高いか?


こんな時に報告しなくてはいけないこっちの身になってくれ!


グランディアナ皇軍は軍事大臣直轄の部隊だが、所詮机上の空論者で全ては現場に任せっきりだった。


軍事が得意なはずの皇軍の綻びが見えた攻撃だった。

いわゆるゲリラ戦に弱かったのは盲点だった。

ただでさえ狭い要塞内に深夜の装備が整っていない状態の時に少数で束になって不意打ちを食らわされたらひとたまりもなかったのか?

そんな報告が頭の中で何度も木霊する。


「くっそ!!」

思わず貴族らしくない言葉が出る。


昨日は夏至の日狩猟大会だ。

地方でも開催され、皇軍も貴人の警護に人を取られ、しかも兵士もイベントに浮き足立っていた。

そこをつかれたのは当然と言えば当然だった。


侯爵は侍女達や侍従とすれ違っても、そこに人がいないかのように無視をし、ただひたすら歩むを止めない。


ようやく一つの金彩の綺羅びやかな大きな扉の前で ピタリと歩みを止め扉の前で動かない警護兵に言った。


「陛下並びにグロフォード公爵閣下に御目通りを。

 非常事態でございます」


警備兵の脇に現れた先触れの若い侍従が黄色い声で先ぶれを告げる。

「シャリーノ侯爵軍事大臣閣下

 拝謁願い」


静まり返った廊下に無音の静寂の中、しばらくの沈黙の後に低くわずかに聞こえた。


「通せ」


ガチャ!

ギーィー!


重い扉が軋む音と共に扉が開いく。


目の前には昼だけというの薄暗い広い寝室が広がる。

廊下の冷気と違い部屋の中は暖炉に火がくべられて温かい。

大きな寝台には薄い絹の天蓋が閉められいて誰かがいるがその顔は見えない。

上半身だけを辛うじて起こしているものの微動だにしない。

その脇に男が侯爵に冷たい視線を侯爵に向けて立っていた。


「宰相グロフォード公爵閣下。

 大変でございます。

 ガザルガン要塞が陥落いたしました。

 生存者なし。

 全滅です。」



グロフォード公爵と呼ばれた恰幅のいい五十半ばの男は細い目と薄い紫がかった唇が、陰鬱そうな印象を受けるその瞳の瞳孔は開ききりその薄い唇は半開きになっていた。

ぽってりと肥満の為に腫れた指が震えている。

嫌な伝達だと本能的に認識していたようだった。


シャリーノ侯爵は公爵の傍に立ち、公爵の怒りに触れないかやや目尻を下げて震える手で文を渡す。


「……」

公爵は言葉なく手にした文を読み始めた。

みるみるうちにその瞳に驚きと猜疑心とない交ぜになった表情がコロコロと変わっていく。


最後に手にした文をグシャッと握り潰す。

怒りは最高潮に達して顔中がまるで火山が噴火した様に真っ赤に染めて鬼の形相だ。


シャリーノ侯爵はみるみるうちに変わる公爵の顔色を真っ青な顔でちらりと見た後はもうまともに顔さえ見れない。


「はア?

 誰に襲われたかわからない。

 だたおそらく北方民族の不意打ちかと?

 薬莢、矢の敵の痕跡では一般的にエルディア大陸で使用されている武器の一部ばかりで襲撃者のと規定

 が出来ないだと!!

 北部最強のグランディアナ皇軍の指揮官から来たとは思えない文だ!

 要塞焼失。

 生存者なし。

 武器庫焼失?

 毎年いくら予算をかけたと思っているんだ!

 無能ぞろいが!!

 グランディアナ皇軍軍司令官、参謀長、副指揮官全員粛清だ!!」


どうしたらいい?

グロフォード公爵は度重なる皇国の異変にその場しのぎの策しか出来ず、八歩塞がりの対策に頭を抱える。

地方では最近の天候悪化に伴う主食の不作に生活が苦しくなり、餓死者も出て来ていて農民の不満がたまり、このところ農民のデモがあちこちで自然発生的に起こっている。

なんとか地方の軍で抑え込みを行っているが、最近では軍人の給料も出せず志気が低い。

そこへきて疫病の蔓延が更にフェレ皇国の国力を低下させている。

そう限定的に行っている貿易の停止、経済の低迷、なんとも言えない閉塞感は社会全体に霧の様に覆いつくさんとしている。

最近ではフェレ皇室への非難も上がるほど。

今の女皇王の母に当たる前女皇王が圧政を敷いて強硬政治を引いたため、その後即位した娘の女皇王にも矛先が向き人気がない。しかも最近では体調を崩し寝込む事が多くなっていた。

何一つ良い報告のない頃に要塞陥落の知らせだ。

激怒するもの当然と言えば当然だった。


シャリーノ侯爵は委縮して部屋の空気が身体を刺すような感覚が広がりぎゅと拳を握りしめた。


「はい。グロフォード公爵宰相閣下。

 承知いたしました」


顔を背けながら小さな声で呟いた。


「シャリーノ侯爵。

 おって話がある。

 ……あとでな」


「はぁ…い」

ああ、自分の運命も終わりだとそう肩を落とした。



「皇王陛下。

 大丈夫です。

 すぐにグランディアナ皇軍を立て直し致します。

 私目にお任せくださいせ。

 陛下まずは体調をお戻しするのが今一番の優先課題でございます。

 宮廷医長もそう申していたではありませんか。

 北方民族の侵入も地方及び皇都の反乱も私にお任せを」


公爵は天蓋越しの人物に向かい宥める様に柔らかな口調で安心させるように伝えた。


「……えぇ……」


小さな力ない声が僅かに漏れた。

そこに生気はなく、まるで機械的な抑揚のない声だ。


公爵は天蓋に中でその手を差し入れて、皇王と呼んだ細い青白い小さな手を握りしめた。


「陛下は安心して養生くださいませ。

 その間私グロフォード公爵が全ての案件を何事もなく処理いたします。

 さあお眠りくださいませ」


皇王は小さく頷いてベットの中に沈み込んだ。


沈黙が寝室に響き渡っているかのようだった。


「シャリーノ侯爵。

 ひとまず皇軍の再編成を。

 それと皇都の反乱軍の制圧に力を入れろ。

 その為に必要な金はこちらで手配する。

 武器や軍備が尽きて抵抗出来ないからな。

 国庫に金がないなら貴族達に緊急的に私財を提供するように伝達しろ。

 歯向かう者には拘束して収監する。

 臨時税を貴族に徴収するのだ。

 明日内務大臣、大蔵大臣、警察治安大臣を召集せよ。

 緊急会議を行う」


シャリーノ侯爵は公爵のこの言葉に衝撃を受ける。

皇国の主要上位貴族達は領地の収益の他に官位に元づく給与、それ以外に賄賂や貢ぎ物その他の利益を得ていた。金や金品で官位を取れる推薦状を乱用していたのだ。

その金で宮廷に出入りして、遊興三昧の日々を過ごしている。

自分の利益、遊興を当然と考えている貴族に、そんな税を素直に支払うほど簡単ではないと侯爵は感じ取っていた。


それを公爵がわからないはずはないのでは?と困惑している。


公爵は何を考えているんだ?


シャリーノ侯爵は不安でしかたなかった。

何せここ数年の飢饉と疫病が蔓延して皇国建国以来の危機だ。

同盟国はどこも皇国が高圧的外交をしてきたために頼る事が出来ないのは承知の事実だ。

それゆえに各国を頼る事が出来ないし、ここ最近では各国からは何故かある程度の距離で外交されているのは侯爵の耳にも届いていた。


荒れるな会議は。


そう心に思い足早に邸宅に戻っていった。

次にクリスティア商団としてフェレ皇国内を旅するヴィルヘルム達にある事件が?

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