外伝 【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】結婚二年目の二人 越境攻撃
夏至の日の奇跡から生まれる空間移動を使いフェレ公皇国北部の洞窟に入ったヴィルヘルム達はどうやって首都を目指すのか?
「フレディ!
事前に潜伏させていた諜報員の情報は?」
ヴィルヘルムは用意していた山の資料を神妙な顔つきで見つめながら、頭の中は要塞陥落作戦のシュミレーションを組み立てる。せわしなくあれでもないこれでもない手順を見極めながらも見えない。
フレディは得意げに親指を立てウインク。
「勿論収集済。
現要塞は北部の異民族の襲撃に警戒していて昼夜
問わず警戒態勢中。
北部方向の見張り台には始終兵士がいる。
他の塔には定期的に見廻りを行っており、大体夕
刻、夜間、深夜巡回している。
要塞の南北に延びる異民族との国境沿いはネズミ
一匹通れないほどの厳重警戒態勢。
要塞内には常に2000名の兵が常時待機され、
異民族が襲撃次第近郊に待機させている。
グランディアナ皇軍団から援軍体勢をとってい
る。
グランディアナ皇軍団は総勢2万。
現時点では異民族の越境は確認出来ない。
前回一週間前と情報を得ているので、しばらく襲
撃はない。
と思っているらしい。
要塞なの見取り図はすでに入手済。
それとこの要塞南部付近は無防備も無防備。
何かあってもグランディアナ皇軍団が南部から援
軍がくるので衛兵一人いやしない。
注意は見廻り隊の巡回時だね」
「なるほどね。
ちなみに襲撃の際の伝達方法は?」
「のろしだね。
北部の一番高い北塔にのろし台があるのさ。
そこから上げたらものの皇軍は30分で到着する
手はずだ」
「まずはのろしと火の手を挙げないようにしないと
な」
「皆さん?
今日何の日か知ってますよね」
ヴィルヘルムがまた一段と高い声で弾むようにクスクス笑いながら言った。
「夏至の日。
恒例の狩猟大会!!」
ヴォルが待ってましたとばかりに高らかに答え。
「あ!狩猟大会か!!あっそうか……」
フランシスは思い出したかのように呟く。
夏至の日の狩猟大会は王侯貴族の年中行事だったので、一般市民にとってはそれほど認知度が高い訳でもない。
ましてや商人のフランシスには興味のない行事だ。
「はい。狩猟大会です」
「なるほど狩猟大会だ……。
よしいける。
襲撃は今夜だ。
フレディ!
例の物大量に用意しておいてくれ。
合図をかけ次第作戦遂行出来るように。
任せたよ」
すっきりとした何か不安と責任が落ちて晴れやかなヴィルヘルムの顔がそこにあった。
「了解スタンバイとセッティング済で~す。
あとは見張りと合図だけ待ち!
待機完璧。
では皆様宜しく」
「さてと。
じゃあ皆は…………」
「リラとディナス家の騎馬隊は北部。
僕と近衛隊と南部。
クリスティア商団隊、傭兵隊は仕掛けと戦闘情報
収集と後方支援にまわってくれ。
各自任務頼む」
「了解」
「了解」
「了解」
皆の返事はウキウキとして弾むような調子でこれから起こる作戦が待ち遠しいようだった。
夕闇が迫る頃、ヴィルヘルムはまず先発隊として要塞の北部にディナス騎馬隊を待機させた。
要塞の北部は深い森に阻まれ、侵入者を発見するまで時間稼ぎが可能だった。
ヴィルヘルムとリライディナはよりすぐりの精鋭隊を二十名選抜し、南塔の城壁を縄でよじ登る。
そして東西の塔には傭兵隊を分散し、同じ様に城壁内に侵入を試みていた。
全体重が縄にかかるが、日ごろの訓練が功を奏し南塔によじ登るには時間がかからなかった。
ヴィルヘルムは全員が侵入出来たのを見計らい隣のリラディナと精鋭隊長に頷く合図を送った。
二人もその意図を理解し同時に頷く。
今夜は月は隠れ闇夜が全てを覆い隠してしまう。
何か起こすには絶妙な夜だ。
しかも昼の狩猟大会でここの要塞も皇軍も各地で開催される皇国主催狩猟大会の警護で手薄かつ、祭り気分も相まって気が緩み切っていた。
そんな空気は要塞中充満しているのを肌で感じる。
しかし油断は大敵だ。
ヴィルヘルム達は塔の見張り番の兵士の後方に廻り気配を消す。
ドン!!
鈍いしかしすぐにその音は闇夜に消え去る。
他の者が気がつく間もなく。
グッ!!
しかもヴィルヘルムは兵士の口元を右手で覆い隠した。
兵士は剣の鞘で後頭部を殴られ、叫び声さえ上げられずにあっという間に失神させられた。
リナディアが手にした縄で兵士の手足をきつく縛りあげ、口を布で塞いで拘束した。
リナディアの冷たいしかし熱い煮えたぎる意志にヴィルヘルムはゾクッとそそられる。
僕って?マゾだっけ?
いやいや。
そう彼女の固い意志と思いにそそられたんだ。そう思いなおした。
「さあ後は予定通り。行こう」
ヴィルヘルムはリライディナの緊張をほぐすように悪戯っぽく囁いた。
「じゃあここで三方向に分かれる。
僕は東塔を。精鋭隊長は西塔を。リラはここ南塔を。
いいかい合図は・・・・」
「了解」
「了解」
ヴィルヘルムと精鋭隊の一部は東塔へ、精鋭隊の一部は西塔へと移動した。
螺旋階段を降りて目的地に向かう。
リライディナはこのままヴォルと警護隊と南塔に残り、託された約束事を計画通りに進める為に同じ様に塔から螺旋階段を足音を消して降りていく。
暗がりの要塞内は視界が悪くヴィルヘルムも容易には足を進める事が出来ない。
冷たい石の壁に手を当てると全ての熱が途端に奪われていくのを感じだ。
フレディの話だと兵器庫はそれぞれの塔の下部に分散させて保管されているそうだ。
流石に保管庫には衛兵が守っているだろうから、素早く事を運ばなくてはいけない。
寒さと暗さ無機質な世界に投げ出されたかの様な身体を押し潰されそうな中をひたすらに心を奪われないようにひたすら前だけを見て歩く先にようやく武器庫の入り口に到達出来た。
隊長に右手を挙げてヴィルヘルムが合図を送った。
隊長は間を置かず何かを左に投げ入れた。
「ガシャ」
高い何かが当たった音が木霊した。
「誰だ!」
警護の兵が離れた隙に隊長は姿勢を低くして警護兵の背後から一発で、急所を剣で突く。
「グッ」
「がッ!」
「バン!バン!」
鈍い金属音の後に二体の警護兵が血に塗れ倒れていた。
瞬殺と言っていいだろう。
ヴィルヘルムはこの緊張感の中見事だと感心したが、余韻に浸っている暇はない。
「さあ、中で準備だ。
派手にいきますか?」
そう言って一刻も経たないで、武器庫を離れた。
では後は予定通りだ。
「リラや騎馬隊も準備万端だろう。
合図を待とう」
そう言った後に口に指をくわえて口笛を吹いた。
それは漆黒の無音の闇を切り裂く、鳶の鳴き声にも似ていた。
しばらくして同じ鳴き声が二度空を裂いた。
まるで何かの合図の様に。
要塞に突入したヴィルヘルム達はどう陥落させるのか?




