外伝 【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】結婚二年目の二人 クリスティア商団 オルファン支部キャラバン隊登場
リライディナがフェレ皇国皇位継承奪還を決意する。ヴィルヘルムは妻を支える決意を固めシャハルバード共和国の大統領が去った後は二人勉学と剣の鍛錬に勤しんでいた。
五カ月後二人の元を訪れる集団がいた。
シャハルバード共和国大統領が離宮を去ると新たな決意をしたヴィルヘルムとリライディナ。
日暮れ時にオレンジ色をした日差しが射し込む居間に向かい合っていた。
「リラ。
今までは多くの物を背負ってきたんだね。
これから僕は君のよき理解者で、よき夫として君
の隣に変わらずいるよ。
何があっても離れる事はないよ。
だから共にフェレを救おう。
君の祖国を」
ヴィルヘルムの身を犠牲にしかねない優しさがリライディナの義務感と使命感の中で僅かにくすぶっていた不安が心に染みて暖かい何かに包まれて心地よくゆっくりと溶けていく。
「うん。ありがとうヴィル」
ヴィルヘルムはリラのその笑顔と言葉で胸の奥にある甘い疼きが欲望を押し上げようとしているのを知られるのではと。
恥ずかしくなって目が忙しなく動いて明らかに挙動不審になっている。
「ヴィル?」
「なんでもないよ」
とくかくこれからの事を。
思いをしっかり話し合おう。
「リラはフェレをどうしたいの?」
「私わね。皆が笑っていられる故郷にしたいの」
リライディナは心底そう思った。
本当は昔緑豊かな国だった。三代前の皇王の時代から圧政が蔓延り、厳しく税を取り立て国民が疲弊した。
時折耐えかねた民衆が一揆を起こすも徹底的に弾圧されて、飢饉や疫病も重なり反乱する気力さえなくなったと聞いていた。
一般国民は本当は勤勉で、真面目、純心で信じやすくだから貴族や皇室にいいように詐取されるのだと。
「んっそうだね。」
ヴィルヘルムはフェレ皇国の歴史の授業を思い出していた。
「幼い時傍で面倒見てくれた人たちから市中の大変
な暮らしを聞いてたら。
私は不自由でも食べていられでも国民は……。
あんな閉鎖空間だったけど。
逆に皆の生の気持ちがわかったんだ。
私は御祖父様に助けてもらえた。
でも皆は?って」
僕はどう助けたらいいのか?
とことんまで毎日二人で話した。
それから今まで以上に勉学とヴォルの指導の元剣の鍛錬に勤しんだ。
そして時間が出来ればそれぞれのフェレに対する思いや希望や願いを話合う。
新婚の甘い雰囲気はまるっきしない。
夫婦の夜も一旦お預けだ。
あんな調子で一緒に寝てしまったら自制が効かない。
「リラはなんで夫婦なのに寝室を分けるのか?」
頰を膨らませ不服の意を訴えるが、なんとか説得して寝室も別々に過ごしている。
一緒に寝るなんまだ彼女の愛の認識が曖昧なのに。
僕の理性が保たない。
大統領の訪問以来、以前は仲良くしないと。
という気持ちが先行してしまって、空回りしていたような調子だった。
この頃には自然に振舞えてきてヴィルヘルムの気持ちは落ち着いている。
時々彼女の可愛らしさやドキッとする仕草にバクバクさせられるけれども……。
そんな五か月後、初夏の緑豊かな離宮にある手紙が届いた。
それを読んだヴィルヘルムはいよいよかと迫った日、緊張で手汗をかいたものの気持ちに動揺はない。
すでに覚悟を決めているからだ。
その日の昼下がり手紙の内容の通り早朝の首都を出発した集団は約束の時間通りに離宮にやってきた。
離宮の表門を先頭の荷馬車が通過しその後、集団の責任者が離宮内に入っても、最後の荷馬車は遥か向こうの彼方で黒い点にしか見えなかったそれほどの規模の集団だった。
侍従長と侍女、召使に至るまでこの集団専門に割り当てられて、離宮の別棟にある狩猟用の館に案内された。
荷馬車は森の中にカモフラージュされた倉庫が事前に準備され到着次第順に納品されていった。
この集団の責任者達がヴィルヘルムと面会できたのは全ての納期と訪問者が一通り終えた後だった。
「遠路はるばるご苦労でした。
お会いできるのを楽しみに致しておりました。
オルファン帝国第二皇子 ヴィルヘルムです」
「良く来たな。
フェレ皇国第十七皇女リライディナ・ディア・フ
ェレだ」
二人は清らかな笑顔を湛え握手を求めた。
「初めまして。
シャハルバード共和国の大統領から依頼された。
クリスティア商団オルファン帝国支部副支部長
フランシス・クリフォードです」
やや浅黒い肌に細いが逞しい鍛え抜かれた体に、切れ長の黒曜石の瞳はどことなく野心的で知的な印象を持つ。
すっと通った鼻筋と淡い紅色の唇が少し中性的で頭が切れるタイプだとヴィルヘルムはおもった。
「初めまして。
クリスティア商団オルファン帝国 情報統括責任
者 フレディ・クリスティアです」
同見ても十二、三歳くらい。
まだ子供だ。
その年の平均身長にはみたないようで、まだ何処となくあどけなさが残る。
淡いパールブルーの瞳は少し影があり、薄いプラチナブロンドの髪は肩まで伸ばして後ろで束ねている。
「フランシス・クリフォード?
フレディ・クリスティア?」
ヴィルヘルムにはその名に聞き覚えがあった。
「あっ!フランシス・クリフォード?
もしかして元エメラディーヌ商団の?」
「ええ。今はクリスティア商団と合併して。
元団長のエメラディーヌがクリスティア商団のラ
インハルトと一緒になったもので。
ならず者集団と記憶されているかとは思います
が。
ただフェレ皇国には色んな意味で我々のほうが精
通しており軍隊並みの精鋭が揃っています。
経営関連の頭脳人はリライディナ妃殿下が即位し
てから、フェレイデン本店から出向してくるでし
ょう。
まずは戦いに慣れた我々が先遣隊で同行します」
「頼もしいね」
「そう言っていただけると光栄です。
ただしばらくはそちらの陣営とコミュニケーショ
ンを図りたい。
入国後は息を合わせられるか?
信頼を構築していくのが大切と考えます」
「君も鍛錬してそうだ。
後で手合わせしてほしい」
「妃殿下?
剣をされるので?」
「アア。得意だ」
「是非お願いしたい」
「リライディナの側近達は皆生え抜きだが、僕の近
衛隊は何分正統派すぎて戦法に役立つかどうか。
宜しく頼むよ。
ところで隣のフレディ君?
姓がクリスティア?」
ヴィルヘルムが疑問に思うのも最もで、このクリスティア商団の団長が伯母であるのは母を通じて聞いていた。
クリスティアという姓はないのだが…。
「僕は孤児で誰の子供かわからなかった。
だから姓がなかったんだ。
団長が孤児で姓のない者に商団の名をくれたん
だ。
俺はもう一人前で、団では情報収集を担当してん
だ」
「フレディ!
殿下にその物言いは失礼だぞ」
「あ!」
「いいよ。まぁ皆の前だと大騒ぎになるから。
僕はかまわないよ。
それに旅に出たら、身分をカモフラージュする時
に敬語が過ぎると可怪しいから。
その時の練習だと思ったらいい」
「殿下!話しがわかる!」
「調子よすぎるぞ!
フレディ!」
フランシスはフレディの頭に拳骨を一発みまった。
当然その夜は説教を延々くらう羽目になった。
合流したのはクリスティア商団のオルファン帝国支部の一行。
二人は結婚二年目にいよいよ皇位奪還の旅に出る。




