外伝【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】結婚一年目 アレキサンドロヴィッチ離宮の謎Ⅱ
初夜の翌日離宮付きの司教に請われ離宮の森の中へと入っていくヴィルヘルムとリライディナは?
エルディア大陸の歴史の一部を体感する。
司教は手にした杖を頭上の太陽に向けて叫ぶ。
「今太陽は丁度真上を通過する時間帯です。
そして今日は冬至の日。
今日と夏至の同じ日時に同じ現象を見る事が出来
ます。
しばらく城壁跡を見逃さないようにしっかり見て
いてくださいませ」
司教は静かな声で語ると細い目を更に細め、高く聳え立つ城壁の天辺を見つめた。
そして徐々に目線を下げ、ある一点を見つめ微動だにしなくなる。
城壁を真っ直ぐ見つめる司教の瞳は凛とした気高い神を迎える緊張感を感じ、二人の緊張も頂点に達する。
しばらくは森から吹く風の音、草花がその風に揺られる騒めきしか聞こえてこない。
呼吸音すら聞こえてくるほどの無音が支配していた。
ヴィルヘルムとリライディナは云われた通り城壁に食らいつくくらいの勢いでじ~と壁を凝視する。
岩の隙間に生えた草と岩が欠け、ポロポロと落ちる音が耳をついて緊張の糸はピンと張り詰める。
少しして背中に当たった太陽の熱が、首、頭へと伝わってくるのがわかりおそらくその時が近い事がわかると背中に電流が走るようななんともいえない感覚に襲われる。
そして太陽が真上に上がった時、それは突然起き始めた。
ピキッ!
ビシビシシビリビシビシ!
何が裂ける音が連続して聞こえてきたと思った。
「えっ??」
「あっ!!」
リライディナが城壁の一部を指さした。
目の前の城壁の上層部の左右に青白い光の直線が現れたのだ。
突然それは強い光を放った。
凝視するように言われていた二人だがたまらず無意識な防御反応のために身を引いて瞳を閉じてしまった。
すぐに光はどこへともなくなくなり二人はゆっくり瞼を開け暗かった光景に先ほどの城壁が広がる。
「これは?」
しかし城壁の様子は違っていた。
目の前の城壁はヴィルヘルムの背よりわずかに高い位置、横一直線淡い黄色の光の裂け目のような物ができていた。
「今はこの距離をお保ちください」
司教は驚きもせずに淡々とヴィルヘルムに告げる何度となく見た光景であると想像できる。
裂け目はドンドンと上下に開いていく。
丁度馬車は通過出来るだろうと思われるほどの幅になった。
あまりの事に言葉も出てこない。
リライディナもそれは同じで、ただ茫然とその裂け目を息もするのも忘れるほど見つめていた。
二人とも目にした光景を現実のものだと理解するには出来ないほどの出来事だったからだ。
「まずこの景色を理解するには到底出来ないと思い
ます。
私も若い頃、この現象をどうしても理論では理解
するのに苦労いたしましたよ。
アレキサンドロヴィッチ城はご存じの通り神の城
でした。
そう神と人を繋げるものでした。
その城はフェレイデン帝国のセヴェイ一世陛下の
時代に神の関与が消滅した段階で城壁のみ遺跡に
なって残りました。
ただの城壁だと多くの者が考えましたが。
私達はもう神の力を直接恩恵を受ける事は出来ま
せん。
確かにそうです。
しかし唯一現フェレイデン帝国セヴィエ一世陛下
だけはそうは考えませんでした。
城壁は一キロずつ三か国に移築し保護されてきま
した。
不思議な事に夏至と冬至の日太陽が真上に来た
時、この現象が起こります。
そしてその三か所の中央部分はなんとフェレ皇
国。
そしてこの裂け目はフェレ皇国にたどり着けま
す。
これは半世紀前にこちらの司教がその裂け目を歩
いた体験したと離宮の司教の日記に記述がござい
ます。
フェレ皇国はこの事実を知りません。
ここまでお伝えしたら私の意をおくみとりできま
すね。
但しこの現象は年々その規模が縮小しており、殿下のお子様の時代には消滅してしまうでしょう。
恐らく」
ヴィルヘルムは静かに瞳を閉じて考え込んでいる様子だった。
そう婚姻前の母の話を思い出していた。
ヴィルヘルムとリライディナとの宿命と義務…。だから私とリライディナの婚姻はなされたのだ。
リライディナも同様で皇后との婚姻式前夜の話を思い出していた。
「私の使命。私の故郷。私の民の窮地。」
気がつけば何度もその言葉を口ずさんでいた。
「お二人はこの離宮で最後の使命を果たす為に全力
で学ばなければなりません。
両陛下からそれまでのいろいろな高名な教授とエ
ルディア大陸中の書籍資料などご用意しておりま
す。
但しお二人だけでは全てを行うには到底目的を達
成できないでしょう。
両陛下は全ての臣下を準備されました。
両殿下には統治者としての帝王学を身につけてほ
しいとお考えです。
次の機会である夏至の日にご出発されるのが好ま
しいでしょう。
神の御加護を心から願っております」
「私に出来るでしょうか?司教」
珍しく真っ青で震えていたリライディナが小さな声で司教に問う。
「心配には及びません。
殿下は十分に人たらしでございますよ。
多くの民と接してきた私が保証いたします。
私には人の真を見る特技がございます。
リライディナ殿下には特に人を魅了させる力がお
ありです。
ほらお隣にそれを立証されている方がおいででは
ありませんか?」
優しく笑う司教の言葉に嘘は見られない。
ヴィルヘルムもその通りだと何度も頷いた。
「これから出会う人々は両殿下に魅了させるでしょ
う。
殿下はそのままで彼らを懐の深さで抱きかかえれ
ばよいのです」
「司教。私はヴィルの妻だ。
既婚者が他人を抱きかかえるとは不謹慎だ」
「はあぁ~~そうですな」
その言葉で司教は大きく口を開けて大笑いを始めた。
「クスッ」
ヴィルヘルムもつられて笑う。
当のリライディナは二人の笑いを理解出来ずにボ~~~と置いてけぼりに少し拗ねていた。
二人を待ち受ける運命を噛みしめてその日の為に鍛錬を積む二人に新たな出会いが待っていた。
次回ご愛読お待ちしていります。
「皇后の愛と復讐と…それは全てはその日のために」本編に続く物語が出てきましたね。
そちらも完結済です。
是非お立ち寄りお待ちしております。
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