外伝 「愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語」結婚一年目の二人 初夜のヒキガエル事件
新婚旅行に訪れたアレキサンドロヴィッチ離宮で初夜を迎えた二人でも試練が襲う。
「ヴィル。
君は私の夫だから…何をしても…。
ゆる〜す~~~。
例えガマガエルがひっくり返した姿を見せても~
~~~」
ほとんど絶叫と言っていいくらいのボリュームで離宮中に響き渡る。
「キイィ~~~~」
バサバサバサ!!
「ウォーー!」
「キュ〜〜〜」
野鳥と何かわからない動物の鳴き声と共にバサバサと羽ばたく羽音が闇を切り裂いた。
「………!」
リラ。
ありがとう。
でもね……リラ。
そんな大声で叫びながら言わなくても……。
初夜はリライディナの絶叫から始まった。
婚姻式を無事に終えてそのまま新婚旅行に出かけ、今は離島のアレキサンドロヴィッチ離宮の二人の寝室に一人ヴィルヘルムを待つリライディナ。
皇后に聞いていたとおり、二人の寝室は蝋燭一本照らされているだけだった。
辛うじて自分の姿もわかる程度。
ふっと息を吐いてほっとしてそんなに認識出来ないとある意味安心した。
しかしそうであっても。
そうであっても。
リライディナの知った行為を必ずしなくてはいけないのだという変な使命感が身体中をドクドクさせて落ち着かない。
おおよそ新婚とは似つかわしくない絶叫を甘いはずの新婚夫婦の寝室で聞くことになったのだった。
その夜の少し前だ。
「大丈夫だ。ヴィルは私の夫だ。
夫の為に。
大丈夫だ。大丈夫!!」
一人寝室の上で薄いシフォン生地のピンク色のナイトドレスにうっすらと身体のラインか透けて見える。
リライディナは少し頬が紅潮し初々しい姿でチョコンと寝台の上に座っている。
ちょっと薄すぎじゃないか?
自分の腕をまじまじと見ると褐色の肌が透けて見えている。
こんなスケスケのナイトドレスを着たことがないリライディナは困惑している。
目線を自分の胸元、腕に移すと褐色の肌がうっすらと透けて見える。
なんでこんなにスケスケなんだ?
これが殿方を誘惑する一つの誘いであるなどはとても頭に浮かばない。
まぁお母様が薄暗いから大丈夫と言っていたとおり薄暗い。
大丈夫だろうけど風邪ひきそう。
大丈夫。大丈夫。
きっとなんとかなる。
いままでなんとかなったし、お母様も大丈夫って言っていたし……。
ヴィルは夫だし。私は妻だし。
そうあんな姿を見せても嫌いにはならないはず!
自分にそう言い聞かせ呪文のようにブツブツと「大丈夫…大丈夫」唱えていた。
ガチャ!
ドアノブを廻す音が聞こえた。
その瞬間に心臓が止まり、今までの思考が全て停止した瞬間だった。
「リラ?
起きてる?」
バッと反射的に布団の中に隠れてしまった。
頭から布団を被ってくの字に身体を曲げヴィルヘルムの声に反応する事も出来ないでいる。
パタパタとヴィルヘルムの足音が今日は異常に大きく高く聞こえる。
寝ながら軽いパニック状態のリライディア。
「…リラ?」
寝台がぐっと沈む。
駄目だ駄目だ!
これから夫婦なんだ。
夫婦の義務だ。
何を恥ずかしがってる。
お母様も言っていたじゃないか。
暗くて見ずらいって!!
よし!いくぞリラ!!
がんばれ!!
目をぎゅっとつむり布団を外してガバッと。
「ヴィル。
君は私の夫だから…何をしても…。
ゆる〜す~~~。
例えガマガエルがひっくり返した姿を見せても~
~~~」
ほとんど叫び声の謎の言葉を言って、なんの予告のなくヴィルヘルムのいる凹んだ場所にめがけて突進した。
バン!バンン!!
激しい何にぶつかり何かが倒れた音の後、無音の寝室に蝋燭の明かりの中で半ば放心状態のリライディナ。
自分の荒い息使いしか聞こえない。
寝台の下には動かない黒い物体が横たわっている。
「いっ痛……」
ぶつかった拍子の身体に鈍い痛みが走る。
リライディナ自身自分が何をしたかいまいちわかっていない。
両手を広げて抱きついたというよりも体当たりしたという言葉が正解だ。
ヴィルヘルムは弾き飛ばされて寝台から転げ落ちたのだ。
リライディナは正座している。
目の前には揺らめく蝋燭の明かりがぼんやりと浮かんでいた。
しばし瞳が空を漂った後、ハッと我に返る。
「ヴィル?」
辺りを見渡してもヴィルヘルムの姿はない。
ベットにはシーツと掛け布団が荒らされたようにグチャグチャにはたけている。
「えっ??」
何?何?何をしたのかまったく覚えがない………。
なんとなくヴィルが来て、抱きついたまではよかったが??
リライディナは少し現状把握するかのようにあちらこちら目線を移すとめくれ上がった掛け布団が目に飛び込んできた。
その先を追うと、影のような無機質な黒い物体が瞳に飛び込んできた。
「ヴィル!!」
寝台から飛び降りて、力なくだらりとしたヴィルヘルムの身体を抱きしめては力任せに強く抱いた。
「ヴィル!ヴィル!ヴィル〜!
死なないで!!」
大声にようやく意識が戻り始めたヴィルヘルムは強烈な頭痛を最初に感じる。
「あ!!痛……いいぃ…」
「きゃあ〜〜〜!」
またしてもリライディアの叫び声の後、何かの衝撃音が聞こえてきた。
バン!!
リライディナは驚いて、傍に落ちていた枕で思いきりヴィルヘルムを叩いてしまったのだ。
ヴィルヘルムが痛みに悶絶している横でリライディナは完全に冷静さを失っていた。
そうだろう度重なる恐怖と不安を煽るのには十分すぎる。
でもヴィルヘルムはそう思ってくれるだろうか?
リライディナはどうしていいのかわからずに……。
沈黙の後、シクシク泣き出してしまったのだ。
「わぁぁぁぁ〜〜〜!」
ヴィルヘルムは痛みに耐えながらもリライディナの姿を薄暗い寝室の床に座り込んで考えた。
そうそれはそうだ。
リラはそういう経験もないし、これほど興奮しているという事は何をするか入れ知恵されたのだろう。
実はいい難いが僕は経験済だ。
いや。
これは皇室に生まれた者の男子の通過儀礼のようなものだ。
兄上がいるが、いつなにが起こるかはわからない。
皇統のスペアは必要なのだ。
当然それは性教育に共通する。
悲しいかなそこに愛はないが。
皇族に生まれたらそこは仕方ない…いや…男性の性というか。
衛生夫人という名の表向きは乳母を兼ねる身分の高い二十代半ばの未亡人達が準備される。
彼女達は入れ替わり立ち替わり性を享受してくれた。
まあ一定期間なので最近はいないが……。
絶対にリライディナには言えない。
だからごめんリラ!!
しくしくと涙を拭いながら小さくなったリラの隣に座った。
「リラ。
ありがとう。でもね……リラ。
大声で叫びながら言わなくても……。
今日は一緒に寝よう。
寝るだけだよ。
しばらく抱き合うだけ。
リラ大丈夫だよ。
安心してね」
僕は本能を鎖に巻いて南京錠をかけて、しばらくリラの覚悟が出来るまで待とうと心に決めた。
彼女の全てを受け入れてくれてからでいい。
「ヴィルでもでも…。
私…私ヒキガエル………ひっくり返る出来る…」
リラの言っている意味が解らないよ………。
ヒキガエル?
ひっくり返る?
「ちょっと何言ってるか。わかんない……なぁ。
とりあえず寝よう」
その夜は二人抱き合って寝たが、寝相の悪いリライディナはヴィルに身体を密着させてはゴソゴソと動き回ってヴィルの男を刺激する。
ヴィルはお預け状態で抱き合って寝ているというのにリライディナは無意識にヴィルヘルムの身体をまさぐってくるので、ヴィルヘルムの本能と理性の格闘で頭の中はパニック状態寝るどころではなかった。
リラ!
あんまりだ〜〜。
なんて拷問なんだ!!
リラ!!悪魔過ぎる~~~~。
一睡も出来ず夜を明かしたヴィルヘルムだった。
とんでもない初夜を経験してしまった。二人次回アレキサンドロヴィッチ離宮にも謎が?




