外伝 【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】結婚一年目の二人 婚姻式からの旅立ち
大理石の床、白亜の石を積み重ねて建てられた帝都一の大神殿に射し込む太陽の光を受けて、色とりどりなステンドガラスの輝きが反射して荘厳な雰囲気を更に高めていた。
招待客は左右の参拝席に座り、皇帝一家と皇族達はやや上に設置された桟敷席から我が子の新たな人生の始まりの式典を見守っている。
祭壇の上には女神ディアの石像が設置され、その前に正装した大神官が両脇に司教を従えて二人の前に立つ。
左にヴィルヘルムが白地に金糸で描かれた唐草模様が施された正装したオルファン民族衣装で扉側をじっと緊張しながら見つめている。
あでやかに冴え渡る青色の空が瞳に。
そして彼女を浮かび上がらせた。
褐色の肌がオルファン民族衣装の白が映えて神々しいまで美しい。
その澄み切った太陽の光のような瞳に彼が映し出されている。
しっかりとした足取りでヴィルヘルムのいる祭壇に向かっている。
躊躇も不安もない。
その瞳には大きな覚悟と意志さえ見える。
皆この花嫁の堂々とした姿に皇女の気品を感じずにはいられなかった。
ヴィルヘルムの前で、リライディナか右手を差し出す。
「綺麗なリラ」
ヴィルヘルムはその手を優しく掌で掴み、大神官の前に二人立った。
「女神ディアの御元
オルファン帝国第二皇子
ヴィルヘルム・ディア・デョルアヌン=オルファ
ン
フェレ皇国第十八皇女
リライディナ・ディア・フェレ
婚姻式を行う」
幼い子供の声で聖歌隊のミサ曲が神殿内に流れ、一層神秘的で荘厳な儀式に招待客は酔いしれている。
「今神の御霊で汝ヴィルヘルム・ディア・デョルア
ヌン=オルファン
この婚姻を終生誓うか?」
「我ヴィルヘルム・ディア・デョルアヌン=オルフ
ァン女神ディアに終生誓う」
「今神の御霊で汝リライディナ・ディア・フェレ
この婚姻を終生誓うか?」
「我リライディナ・ディア・フェレ女神ディアに終
生誓う」
「二人は夫婦と誓い合いました。
神と共に。
幾久い幸せを分け与えよ。
汝らの生を共に尽くさん。
女神は二人に試練を与えるかもしれないが。
二人耐え忍んだ先に輝かしい未来が待ってい
る。
オルファン帝国の新たな結びつきに。
幸多かれ」
大神殿の巨大な鐘の音色が神殿内に、外に響き渡り、同時に鳥の羽ばたき音も聞こえた次の瞬間
「オルファン帝国に幸あれ」
「オルファン帝国に幸あれ」
「オルファン帝国に幸あれ」
オルファン人民の熱狂が口々に聞こえてくる。
皆この祭典を心から願っているのだった。
皇后は幼い頃の息子の日々を回想し、瞳に光るものをハンカチで拭う。
それはこれから訪れる苦難の不安かもしれないが。
回避する事は出来ないとも思っていた。
全ては作為的に計画的にあらゆる事態に備え準備を終えているのだ。
そう自分に言い聞かせ、その子の巣立ちを前にあらゆる覚悟定めに従い進む事を。
その妻の様子に気がついたのか皇帝がその細い肩をがっしりとした手で優しく触れる。
「大丈夫だ。全ては女神ディアの元に。」
二人の瞳が重なり合い肩を寄せ合って二人の門出を眺め、幸福と安全を祈った。
ヴィルヘルムもリライディナも感情がほとばしると同時に重責と不安とも戦っていた。
「僕がしっかりしないと」
ヴィルヘルムはぼそりと自然に心の声が口に出る。
これから訪れる、これから向かう道がいかに困難なものでも。
自分と仲間、そして故郷と血が助けに。何より妻を守る。
そう女神ディアに誓う。
今日のこの日を忘れないだろうと。
式典が終わり、二人はレッドカーペットを歩きゆっくり大神殿を出る。
目の前には国民達が祝典を祝い集まっていた。
大歓声が起こる!!
「ヴィルヘルム皇子殿下!
おめでとう」
「美しいリライディナ殿下!」
「おめでとうございます」
「ヴィルヘルム皇子殿下!!」
「両殿下!万歳!」
「オルファン帝国 万歳!」
二人は声援の中、六頭立の馬車に乗り込んだ。
馬車はゆっくりと御者によって進められ大通りをパレードしていく。
両側には老いも若きも、富める者も貧しき者も全ての者が祝いこの幸福に満ちている若い二人を見送った。
熱狂的な民族だが今日は今まで以上に熱く、皆瞳を輝かせて喜んでいる。
「ねえ。手を振りすぎてちぎれるなんて事はないよな」
「はぁ~~そうだね。
大丈夫だよ…」
苦笑いのヴィルヘルム。
リライディナはそんな彼を見てようやく彼らしさを感じる気もするし、でもどこかに何か隠しているような。
なんだろう?
答えを探そうとするけれど浮かんでくる事もヒントすらない。
「皆僕達の門出を祝ってくれる。
幸せだ。
そしてこれから幸せにしていく」
「うんそうだね」
いや僕が君を。
いや君達を守る。
馬車は大通りを南下してながら国民に手を振りながら、しばらく逗留するであろう新婚旅行先であるオルファン帝国分離地ラファセルヌに向かった。
帝国は陸地部分と内海を挟んで向かい側に離れた領地がラファセルヌがある。
帝都と同じ面積を持つこのラファセルヌは島であり皇室の私有財産だった。
歴代の皇帝と皇后が一時期逗留する以外はほとんど足を踏み入れる事がなく、本流の皇族の結婚式後の新婚旅行で滞在する以外利用される事のない離宮がある。
アレキサンドロヴィッチ離宮は鬱蒼とした森の中に現れる俗性とはまるで離れた離宮だ。
ほとんど人の訪れない離宮はこの島の管理人によって手入れされ完璧なまでに保たれている。
前回利用したのはハインリッヒとフロレンティーヌ皇太子夫妻だった。
但しここでの滞在は他言してはいけないとされ、誰にも伝承される事がない。
ヴィルヘルムとリライディナは馬車から降り、内海の桟橋を渡り帆船に乗り換える。島は向こう岸に見えてはいるものの片道2時間かかる。
断崖絶壁の為船をつける桟橋が地理的に築く事が一部しか出来なかったためだ。
リライディナはずっと海を眺めていた。
内海といえど、群青色の海が太陽の光を浴びて白く棚引く水面にダイヤの様に輝くさざ波を潮風に優しく撫でられて心地いい。
出来れはずっと乗っていたいとさえ思った。
「もうすぐ離宮だよ。
僕も初めて訪れる離宮だよ。
君と過ごせて楽しみだ」
「あぁ~私もだ」




