外伝【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】婚約一年目の二人 婚約者のお披露目会Ⅲ 晩餐会
ヴィルヘルム皇子の婚約者としてオルファン帝國の宮殿でお披露目の舞踏会に出席したリライディナはなんとかお披露目の舞踏をヴィルヘルムと共にそつなくこなした。
舞踏は熱気のこもる中で無事に終え、招待客は興奮の坩堝に酔いしれ舞踏会場から場所を変えた。
今はざわめきの中晩餐会場に一同は席をついた。
オルファンでは座式生活であり、分厚い絨毯を敷き詰めた上にクッションを置いて座式で生活している。
肩膝をついて皆寛いで雑談をしている。
この晩餐会も座式であり、低いテーブルの上にリライディナの見た事のない数々の果物や菓子が並べてある。
給仕が料理の乗った皿がそれぞれのテーブルに順においていく。
皆それらを口に運んで美味を味わったり、酒を飲んだりし美食に酔いしれていた。
熱を冷ますために冷たい発砲酒がグラスに注がれる。
薄琥珀色の中で小さな細かい泡がプクプク立っている。
リライディナは不思議そうに注がれる酒をじ~~と眺めている。
「これなんだ?」
リライディナは見たこともない泡立った酒に目を丸くしている。
ヴィルヘルムはその驚いた表現に現れるエクボが可愛らしいとにっこりと笑って優しく言った。
「発砲酒だよ。
オルファンのディアスという果実で作る酒。
発酵途中で二酸化炭素が発生してね。
シュワシュワするんだ。
甘くて御婦人向けだよ。
呑んでみて」
「うぅ…ん」
オルファンに来てから酒は口にしていないリライディナは一瞬躊躇した。
ヴィルヘルムが薦めるのだからと。
恐る恐るグラスを傾けて少し口に流し込む。
冷たい酒が熱った身体に少しずつ入り、その冷たさが心地よい。
そのうちクッと飲み干してしまった。
「旨い」
「よかった」
ヴィルヘルムはそう言うとリライディナの反対側に顔を傾けて隣の夫人に話しかけた。
「先ほどは失礼いたしました。
アマーリエ大公妃殿下」
舞踏後に話しかけてきた婦人だ。
「いいえ。
間が悪うございましたわね殿下」
「いえ。
アフェルキア大公は皆様おかわりありませんか?」
「ええ。
皆息災ですわ殿下。
遅ればせながらながらご婚約おめでとうございま
す。
祝いの席でこう申しては…失礼ではございます
が。
少し残念でございますわ。
早くに我が娘との縁談を陛下に強くお願いするの
でした」
「ハッハッハ…妃殿下。
姫君は今四歳ではありませんか。
私などおじさん。
とても姫君のお相手など。年寄りと早くに嫌われ
ますよ」
「まぁなんて事を。
娘など成長するのはあっという間ですわ。
まぁ言っても仕方ない事ですわね」
「姫君にはもっとよい御縁がございます」
「殿下にはかないません。
お幸せを願っておりますわ。
大変ご利発そうな皇女様ですわね。
快活で若さは羨ましいですわ」
「妃殿下も大変威厳に満ち若き日の苦労が報われて何よりでございます」
「本当にエリーザベト皇后陛下には助けていただい
た。
陛下の御母上にも。
そのフェレイデン帝国エルミエ皇后陛下の肝いり
の皇女様。
もう、諦めるしかございませんわ。
ただせめてもの御縁に一人妃殿下になられる方に
うちから侍女を派遣したいの。
家柄はよくアフェルキア公国の大公家の傍流の姫
なのだけれど。
こちらの帝国で御縁を繋げて、帝国の高位貴族に
輿入れできればと願っておりますの」
「母とリライディナに意見を聞いて相談いたしま
す」
「ご配慮いただければ嬉しゅうございます」
意外にもアマーリエ大公妃はリライディナに強い敵意や排除など強硬な態度には見えず、あくまで個人的に残念だくらいに思っているようだと理解した。
ただやはり真意はわからないが、大公妃の過去のアフェルキア公国での理不尽な扱いを改善したのは母と祖母だ。
慎重で戦略家の大公妃がそれをわからないはずはない。
ヴィルヘルムはリライディナが拒否しなければ大公妃の希望を聞いてもいいか。
そう思った。
一方のリライディナは本来アフェルキア大公のお相手をするのだが、大公は隣国の騒動の為に国を離れる訳には行かない事情があり欠席している。
その席に話題の大公家の傍流の姫が座っていた。
「この度はおめでとうございます。
アフェルキア公国公家傍流のアンリエット・ディ
ア・バリュシュード=アフェルキア公女でござい
ます」
艷やかな淡いブロンドの髪に白薔薇の造花の髪飾りをつけ、陶器の様な肌は光沢を浴びてうっすら赤みを帯びて色っぽい。
下がった目尻は昼下がりに照らされた鮮やかなピンクの薔薇のようだ。
ぷっくらとした唇は艶めかしくてリライディナでもドキッとした。
「ありが…とう……ござ…いますアンリエット公女
様」
たどたどしいリライディナの口調に少し違和感が垣間見られた。
「緊張されていらっしゃいますね。
どうかお楽に。
私の事を姉妹のように思ってくださると嬉しいで
すわ。
リライディナ様」
「姉妹?」
「ええ」
「じゃあ私の事はリラと呼んでくれ」
「リラ?様?」
リライディナを噂通り屈託のない方だとアンリエットは素直に感じた。
「うふっ♥では私の事はアンリと呼んでくださいま
せ。
嬉しゅうございます」
「ございますいらないな。
姉妹は一緒だ」
「クスッ…クス…。
リラ様面白い方。
宜しくね」
「ああ。そうだアフェルキア茶旨いよ。
なんであんなに旨いの?」
「ええ。私も大好き。
やはり環境ですわね。
栽培場所は山間部でアフェルキアでの標高の高い
場所で一日の気温差が激しい。
夜や早朝は寒くて霧が立ち込めるの。
昼間は太陽が降り注いで湿度も少なくてからっと
した天候ね。
なんといっても土壌かしらね。
元々の土の性質がとても茶栽培に適していて。
でも何年も同じ場所で栽培すると土が傷んでいく
のだけど。
ちゃんと土の改良も行っていて、自然の栄養分の
高い成分をブレンドして栽培しているの。
公室専属茶研究所を設立しておりますのよ。
そこで専門家に研究させて、品質改良や栽培の方法の研究や病気や菌の研究を無償でさせているの。
あとはブランド化を徹底していることろかしら?
それと公国は偽物の取り締まりと品質の保証や検
査をしっかりしているわね。
あと公室主催で品評会も毎年行っているわね。
でもどうして栽培に興味が?」
「栽培と……栽培というよりも経営に興味があるん
だ」
「そう……経営に……皇女殿下なのに面白い方ね。
うふっ。これからも宜しくリラ」
「ああ…」
仲良くなった二人はこの後、皇后からこのアンリエットとリライディナの侍女にしたいがどうかと打診された。
リラは侍女ではなくてお友達として一緒にいたいと伝えた。
皇后は表向きは侍女でないと宮殿には出入り出来ないと伝えた。
ただ公国の姫だから友達の処遇で構わないと伝えた。
祝賀は三日続いたが、その後アフェルキア公妃及び招待客は帰国した。
ただ一人アンリエットは皇子宮の客棟に入ったリライディナの侍女として宮殿に入る事になった。
次回はいよいよ婚姻式へ。
一大イベントは?
アマーリエ出てきましたね。
短編で執筆した「アフェルキア公国公太子妃物語」で主役アマーリエ大公女が大公妃になってパワーアップして登場です。




