外伝【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】婚約一年目の二人 婚約者のお披露目会Ⅱ 舞踏会で舞え!
離宮から帝都へ皇帝一家と共に宮殿入りをしたヴィルヘルム皇子とフェレ皇国皇女リライディナは婚約披露会の舞踏会に登場する。
しかしヴィルヘルムの頭の中には余計な情報が!
もう頭の中は思考回路崩壊中です。
祝賀舞踏会で初めての婚約者を披露するヴィルヘルムはド緊張爆走中、一方そんなヴィルヘルムの動揺にリライディナが心配がつきません。
リライディナの身長は丁度ヴィルヘルムのがっちりとした肩くらい、そこから少しづつ恐る恐る目線を胸元からヴィルヘルムの首、顎、顔へと移す。
頬が紅潮し、呼吸も浅く思えるし、組んだ腕は汗ばんでるし、なによりも顔の表情がまるで死人の様にまったく微動だにしていない。
普段はおおらかで落ち着いているヴィルヘルムとはうって変わった緊張したその姿が、リライディナには酷く気になって仕方がない。心にさざ波の様な不安に駆られた。
ヴィルヘルムは離宮でリライディナの様子を気にかけては、異国での生活に尽くしてくれたのを思い出していた。
オルファンでは若い女性は乗馬をするのをよく思わないと聞いていたのに、騎馬民族の血を引くのだからと乗馬や狩りに誘ってくれたり。
食べ慣れない料理がでてくると口に合うか?
食材の事も教えてくれた。
離宮内の生活は快適か?
心配事はないか?
退屈してないか?
少しひつこいくらいだったが、リライディナは嬉しくもあった。
幼少期から離宮や祖父との生活には世話係はいたものの、自分で出来る事が多いほうが役に立つという周りの配慮もあり、大抵の事は自分で出来る。
なので逆に世話をしてくれたり、気を使ってくれる事には慣れていなくて新鮮に感じたからだ。
「あっ」
声にならない声が霞の様に流れた。
ヴィルヘルムのただでさえ岩の様にゴツゴツした筋肉質な腕に鉄の冷たさを感じながら、その腕に自分の腕を密着させる。
いいようのない使命感、そして何よりいつものヴィルを取り戻したい。
俯きかげんでヴィルヘルムの顔を覗き込みながら、僅かに口角をあげて、瞳は湖面が太陽の光を浴びたように輝きを放った。
そう決意してギュッと指を握りしめ出した答えは?
「わたしも緊張しているぞ」
ヴィルヘルムはその言葉が宮廷に相応しくないけれど、いかにもリラらしいと噴き出しそうなりながら目元が緩む。
まるでオルファンでは知らない書物で見た日の記憶が鮮明に蘇る。
冬の雪の中でも咲く雪割草の花に出会ったような暖かい気持ちが心に宿る。
不思議なくらい春の溢れびの日差しが自分を抱いているような錯覚を久しぶりに思い出した。
「大丈夫だよリラ」
ほっと頬が緩むリライディナにヴィルヘルムは左手を優しく握りしめる。
もうさっきの不安と中途半端な義務感は手放した。今は穏やかないつものヴィルヘルムがそこにいた。
二人はまっすぐ両親と兄夫婦のいる踊り場に足を進める。
その歩みに戸惑いや不安を感じさせない。
極めて優雅にそれでいて威厳に満ちた堂々とした姿に一堂惜しみない拍手を贈った。
「おめでとうございます皇子殿下」
「おめでとうございますヴィルヘルム大公」
「殿下!おめでとうございます!」
「ご婚約おめでとうございます」
「オルファン帝国に栄光あれ!」
拍手と祝福のシャワーは途切れることなく降り注ぎ、熱気は熱風となって会場中に吹きあれる。
ヴィルヘルムは称賛と祝いの言葉に応えるように招待客に軽く会釈する。
興奮と高揚感はこれ以上ないほどに達する中ヴィルヘルムは踊り場の両親の前に出て、二人で軽く会釈した後、兄夫婦と抱擁し祝福を受けた。
リライディナも満面の笑顔で、我が子を愛おしそうに見つめた皇后から額に百合の花粉をつけて祝福を受けた。
オルファン帝国では百合は皇后の象徴であり、花粉を額につける行為は皇后から祝福を受けた証とされた。
リライディナは外国人だったので、この行為は非常に重要だった。
皇后に公式に認められた証になるのだ。
次に皇太子妃に歩み寄り、リライディナがやや背を下げて抱擁を交わした後、一家はゆっくり階段を降りる。
皇子殿下と婚約者。
皇太子夫妻。
そして最後に皇帝夫妻。
ホールの床に降り、皇帝が熱気が立ちこめる会場に放った。
「オルファン帝国に幸あれ」
その言葉を合図にいっせいに楽器が演奏され、会場中に伝統的なオルファンの民族音楽が鳴り響くと、男女は我先にパートナーと腕を取り合いステップを踏み始めた。
音符がまるで目に見えるかのように、その音符を身体を預けて、空を舞うように軽やかな舞踊。
「素敵!」
リライディナには神聖な神の捧げる舞のような荘厳さえ感じ心臓の鼓動が激しく波打って叫ぶ。
皇帝夫妻が、踊りの中心に入りゆっくりと舞い始め、次に皇太子夫妻がその左に入りステップを刻み始めた。
踊る姿は優雅そのもので二組のカップルは輝きを放ってまるで戯れる神々のようだとリライディナは思った。
「次は私達なのか?
私は踊りは得意じゃないんだ」
唇を尖らせてながらぷっくり怒ったような仕草も少女らしい。
ヴィルヘルムは瞳を丸くしてリライディナが苦手なものがあるのだと知って少しほっとした。
「大丈夫だよ。
僕がリードするから。
音符に乗って!」
「わかった。
いやだけど仕方ない。
ヴィルがいうなら言う通りにする」
その口調が拗ねた子供のそれのようてま愛らしいとヴィルヘルムは益々リライディナが好きだと自覚する。
夜の帷にいろとりどりの淑女の絹のドレスの裾が翻り、なんともいえない官能的な踊りを披露していく。皆この祝福を身体全体で表現している。
ヴィルヘルムはリライディナの腰を右手で優しく支え、左手はリライディナの細い褐色の右手に添えた。リライディナは左手でドレスの裾を抓んだ。
「さぁ楽しもう」
ヴィルヘルムは少し悪戯っぽく笑い、リライディナは少し不服そうだったが仕方ないと諦めて、ステップを刻み始めた。
ヴィルヘルムはリライディナを上手くリードしながら、咲き始めの淡い薔薇の花が開くような新鮮さを若々しい命の息吹を会場中に振りまいていた。
皆息を呑んで二人の幸せを願わずにはいられなかった。
会場中に響き渡る音楽の音色は最高潮の山場に差し掛かる。
クルクル!クルクル~~
女性達はパートナーに手を支えられながらも軽やかに回転しながらフィニュッシュを迎えた。
回る女性の腰を男性が抱きしめ、そのままゆっくりと女性をぐっと上半身を後ろへ反らせて音楽とともに消え去り、残されたのは息があがりながらも満足そうに微笑み合う男女の姿が残された。
「素晴らしいリードでしたわ。
ヴェルヘルム皇子殿下」
まだ息のあがったままのヴィルヘルムだったが、その声の主の方向へと振り向いた。
舞踏を披露したヴィルヘルムとリライディナ。
ヴィルヘルムに話かけたのは誰だったのか?
舞踏会の後は晩餐会そこで新たな出会いが。




