外伝【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】婚約一年目 婚約者のお披露目会 舞踏の前に
宮廷で初めてのヴェルヘルム皇子の婚約者のお披露目舞踏会に登場する二人、ヴィルヘルムはリライディナを心配するあまりド緊張して。
今宵は婚約者を皇族、宮廷に出仕している高位貴族
達に初めて紹介する大切な祝賀舞踏会が開催される。
「ヴィル?」
リライディナの霧がかかったような、朝濡れの黄色の薔薇のような瞳がヴィルヘルムを見ている。
リライディナが知るヴィルヘルムは、いつも優しくどちらかというとおおらかで、包み込むような包容力があり、隣にいると理由もなく穏やかな気持ちになれた。
こんなヴィルを初めて見るなぁ。
瞳はあちらこちら空を泳いで焦点が会っていないし、指は空を叩くように忙しなく小刻みに動いている。
どうも当の本人もこんなに緊張と落ち着かない気分は初めてだとかなり焦っているようで、うっすら額に汗が滲んでいる。
それをリライディナはちらりと横目で見てはどうしようと頭を抱え、今にも雨が降りそうな表情で見ていた。
なんとかしないと……。
リライディナの前でヴィルヘルムは舞踏会会場の扉の前で背を丸めながら、小走りに前後に行ったり来たり行ったり来たりを繰り返している。
ヴィルヘルムの頭の中は真っ白で何も思いつかなかった。
初めての舞踏会で緊張しているのはリライディアのはずなのに…。
なんだ!!
さっきから足が動くのを止められないのだ。
指も止まらないし。
どうしてこんなに僕が緊張しているか……?。
いや理由はわかっている。
そう理由は………。
今日の午後の事だった。
母からダルディアン大公が里帰りしているアフェルキア公国アマーリエ公妃と親族のアンリエット公女が参加すると聞いた時からだ。
以前アマーリエ公妃は出来れば娘を僕の元へ嫁がせたいと考えていたようで、定期的に送られる母上への手紙ではフェレ皇国皇女と婚約を公にしたと知った途端、超特急で母上の元に文が届いた。
「もっと早くに娘の縁談を皇子殿下に打診するのでした」
「何故エルミエ皇后陛下はフェレ皇国の蛮族出身の
姫などと……」
数々の恨み節が書き並べられていたと聞いたからだ。
ちなみにこれらの話は母からではなく母付の侍女からの情報だ。
絶対標的になる。
リライディナは純粋だし、あの公妃は策士だし、絶対なんかしてくる。
絶対に!!
「ヴィル?」
その時やっとヴィルヘルムは気がついた。
自分の柔らかな頰にリライディナのふっくらとした温かな両手に包まれている事を。
そして我に返ったのだ。
僕がリラを守るしかないって。
「ごめんね。リラ……。
何があっても僕が守るから」
リライディアの顔がほころぶ。
それは朝の陽ざしを浴びてふぁっとその花弁を開く薔薇そのものだった。
ヴィルヘルムはその笑顔を見て満足そうに優しい瞳でリライディアの顔を覗き込んで言った。
「さあ。まいりましょうリラ」
右手を腰に曲げてリライディアは自然に左手をその空間に差し入れた。
二人の腕が絡み合い。
熱気に満ちたその扉の向こう側へと向かった。
宮殿の会場は多くの招待客でごった返していた。
宮殿に出入りを許された高位貴族達、特別に招待された地方の新興貴族達、同盟国の大使達、王侯達が所狭しと押し寄せていた。
その熱気とそれぞれが胸に抱えた欲望と野心、そして嫉妬と策略を包み隠す様に不敵に笑う者、逆に顔に出て不機嫌な者、さも良い人物の様に品よく振舞う者。
ここは宮殿であったが、まるで劇場のようでもあった。
今まで会話の邪魔にならないように静かに聞こえていたリュートの音楽がその音色を消した後。
ゥワワ~~~~
銅鑼の一撃が全ての会話を止め、あっという間に人々の吐息と呼吸音だけが聞こえるほどだった。
「皇帝陛下並びに皇后陛下」
舞踏会の奥にはやや低い左右に円形状に広がる階段は中央に巨大な扉が、そして左右にも扉が付けられて中央部分で重なる様になっていた。
ギ~~~~ィィ~~~!
重い木製の扉。
薄黄色のまるで太陽の日差しの様な明かりを受けてオルファン帝国の象徴が今姿を現した。
「わあぁ~~~~」
「わ~~~」
「オルファンに栄光」
「両陛下に祝福を」
「オルファン帝国に栄光あれ」
「ルードヴィヒ三世皇帝万歳」
「エリーザベト皇后万歳」
人々はまさに歓喜の渦に呑み込まれていた。
それは彼らだけが持つ帝国の権威と気品と威厳を人格化した者そのものだったのだ。
二人は静かに中央の踊り場で立ち止まり、左右に余すことなく満面の微笑みをまき散らす。
「皇太子殿下並びに皇太子妃殿下」
ギ~~~~ィィ~~~!
左にある扉が開かれた。
ハインリッヒ皇太子とフロレンティーヌ皇太子妃が登場した。
いまや国民の最大の憧れの的である皇太子夫妻に招待客はため息をつく。
まだ皇太子妃が輿入れして時が経たない頃、国中に疫病が蔓延しパニックに陥った。
その時に特効薬を探しあてたのがこの皇太子妃だった。
そして次のオルファン帝国も繁栄するであろう。まさに帝国の希望だ。
そしてこの舞踏会の主役がやっと人々の元に現れる。
ギ~~~~~~ィ!!
右の木製の扉が開かれた。
二人の前には皇帝夫妻が、そしてその先には皇太子夫妻が、2人を愛おしそうに見守りながら見つめている。
それだけで二人の緊張は緩んだ。
「さあ行こうリラ!」
「あぁ。ヴィル!」
次回リライディナのオルファン宮廷で受けいれられるのか?
舞踏会から晩餐会へ。新たな出会いが!




