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外伝【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】 婚約一年目の二人 離宮の皇室一家

結婚のなんたるかを改めて知識を知ったリライディナが動揺してしまい、ヴィルヘルムとの間に距離とギクシャクした雰囲気が漂う中、皇帝一家が離宮に揃った。

「なんだか最近のリライディナの僕を見る目が以前と違うような。

 …こうだとあ~だと表現するのは難しいが。

 僕を見て頬を真っ赤にしたり。

 目線が合ってもすぐにそっぽを向くし。

 話しかけても上の空だし。

 なんか僕彼女に変な事言ったのかな?」


ヴィルヘルムにリライディナの性教育の話は知るはずはない。

仮に知った所で気まずさがMAXになるだけだろう。


リライディナはヴィルヘルムを意識しすぎ、絶対に一緒にいないといけない食事と授業の時間以外の時間の共有を避けている。


ヴィルヘルムもその所を理解しているようで、無理に話しかけたり理由を聞いたりはしなかった。


そんな日々が過ぎた初夏の日差しが帝都を強く照りつける頃、皇室の夏のバカンスシーズンがやってきた。

つまりイスファハンに両親と兄一家がやってくるのだ。


離宮は急に慌ただしくなる。

北面の部屋の掃除に内装の確認、食材と消耗品の納品と整理、その他もろもろの雑用で使用人の動きが激しくなる。

それこそ盛大にお迎えする必要はないが、普段は使用していない離宮で今はヴィルヘルム達が使用しているが皇帝一家の滞在となるとそれなりに人手と物資がいるからだ。


入れ替わり立ち替わり帝都から荷が持ち運ばれ、猫の手も借りたいほどドタバタとし始めた。

遂にその日が訪れる。


初めての息子の婚約者との出会いだ。

 

現在の皇帝一家は皇帝夫妻、そして皇太子夫妻にその子供達長男と長女。

もっか皇太子妃は懐妊中だ。

皇帝夫妻の皇女達は三人が他国へ嫁入りし、一人がダルディアン大公家へ養女に出している。

ダルディアン大公家はクーデターの折皇帝に忠誠を誓った皇族であり、現当主にはアフェルキア公妃となった娘しかおらず、幼いうちに皇女を養女に出しアフェルキア公妃腹の公子と結婚させ、ダルディアン大公家を繋ぐ誓約を立てたためだ。


普段皇室一家は別宮殿に別れて住んでいるが、夏のバカンス時期には一家揃って寝室以外の部屋を共有して過ごすのが年中行事になっている。


今回はリライディナのお披露目もあり、離宮の北棟の家族用の居間に皇帝一家が揃った。


「初めて会うね。

 ルードヴィヒ三世だ」


リライディナは予めファナに教わった床に膝を折り曲げるオルファン式の挨拶で控えている。


「さあ。顔を見せてくれ」


静かな月光に照らされるさざ波の様な低く深い声にリライディナは安心感さえ抱いていた。


「はい」

リライディナは元々恥ずかしがりがりではなく、初対面とも打ち解けるたちだ。

長く宮廷とは言っていいかわからない生活をしていたから、変に緊張や戸惑いとは無縁だったせいかもしれない。


皇帝は初めて見る息子の婚約者の自分を見つめるその疑いのない、曇りのない地平線を思わせる澄んだ瞳に彼女の芯の強さと素直さと実直さを感じ取った。


「フェレ皇国皇女リライディナ・ディア・フェレ()()


皇帝には最後の()()の語尾に何故か言い慣れていない口調であるのではと思われた。


そうこの皇女には何故か丁寧なただ繕った言葉の紬は必要ないのでは?とすらと印象を持ち、オルファン帝国の夏の日差しの様な、一目見たら魅了される美点をすぐに見つけ出してはそれに満足した。


「これから君は僕達の家族だ。

 これから君の事を内輪ではリラと呼ぶね。

 素敵なお嫁さんにきてもらえて幸せだよ」


屈託のない笑顔は今年で五十になるとは思えない青年のような若々しい印象で、思わず見とれてしまうリライディナだが……。


ハッと我に返る。

咄嗟になんとかファナの言われた通りの挨拶を教わっていたことに気づく。


「ありがとうございます。

 ()()()


リライディナはファナの言われた通り出来た事で胸を撫でおろしてほっとした。

自分の父とは物心着く頃から記憶にない。

本当にその通りで皇王は娘が生まれたと聞いても、顔を一度も見にきた事も招く事もはなかった。


母は数カ月だけ皇王の寝所に召されたが、その後は忘れられた。

懐妊後は離宮へと追いやられた先の離宮では多くの側室と愛人のいた皇王には摘んでは捨てられる女が周りに沢山そこにいた。


しかも母は名産の軍馬がほしいという理由で内宮した妃だった。

最初は物珍しさもあり、度々召されたがそれはそんなに長く続かなかった。


これが()()()というのかしら?


そしてその傍らには寄り添うようにただ背に太陽でも背負っている様な輝かさを放っている皇后がいた。


「初めまして母のエリザベートです」


年のころは三十?

いや二十代中半にも見ようと思えば見える。

しとやかな物腰とフェレの離宮で咲いていた朝露に濡れた薔薇の様な艶やかさと、熟れた果実の様な甘い雰囲気が漂ってくる。

女性のリライディナでもドキッとする美しさだった。

耳にその白い指先で金色の絹糸の髪をかける姿は

自分も女だけれどドキッとするほどの妖艶さを感じずにはいられなかった。


「うぁ~~女神ディア様…」


思わず称賛のため息が声に漏れ、呆気にとられるリライディアを見て皇后はクスクス笑ってみている。

その姿が本当に女神ディアのようだと思わず口に出てしまったのだ。


「なんて可愛らしい事を言うお姫様でしょう。

 こんな姫がヴィルのお嫁様だなんて。

 お母様は本当に見る目がおありだわ」


エリーザベト皇后がキラキラした瞳で初めて見るリライディナに満足し、嬉しそうにそう言ってくれてた後、リライディナをその豊かな胸に抱きしめた。


リライディナはその行為に少し驚いだ素振りを見せるものの、身体に感じる温かさと皇后の柔らかで花の香りがするその温もりに居心地の良い親鳥に守られたひな鳥の様に安堵感を感じてじっとしている


ヴィルヘルムは素直に笑顔が弾けている。


「可愛らしいだけでなくて剣も大変強いんです」


ヴィルヘルムが興奮して頰を赤く染め、母に婚約者の違う部分を両親に伝える熱気は「恋をしている」と母が想像出来うるに十分だった。


「ほお~剣か。

 では是非この休暇を利用して手合わせしたいな」


皇帝は興味深く楽しそうに口元を静かに緩ませる。


「まあ~かっこいいわね」


エリザベート皇后も女ながらとまったく否定しない言葉にリライディナはほっとした。

どの王侯貴族は貴族女性の剣の鍛錬など言語道断不道徳とみなしているからだ。


ようやく皇帝夫妻が話し終えたのを見計らい、皇后の隣にいる青年がリライディナに微笑みかけた。


「初めまして兄のハインリッヒです。

 家族だけの時はハインと呼んでくれ」


皇太子も人懐っこいリライディナに好印象なのかキラキラした瞳で見ている。


「私はハインの妻でフロレンティーヌです。

 どうぞフロンヌと呼んでくださいね。

 膝の子はアイシャ、隣にいる男の子はロイと呼んであげて」


義姉はすっと咲く夏の白百合の花のようけれど親しみ安さも持ち、皇后とは違った真珠の様で愛らしい方だとリライディナの心を捕らえた。


まだ乳飲み子の男の子は一歳になるかならないくらいで乳母が抱き上げている。

優しそうな義姉の腕の中には小さな女の子は五歳くらいだろうか?

異邦人のリライディナの顔をじっと見つめては微動だにしない。


何を思っているのか?

私の事をどう思ってんだ?


リライディナは初めての張り詰めた緊張感の波に襲われ、何とも言えない胸の奥でグルグルと黒い渦を感じている。



「わぁ~~~綺麗な瞳~~黄色の黄色の!

 太陽の光!」


リライディナの瞳に憧れとときめきを向けるアイシャを映し出す。

リライディナはほっとしておそらくは初めてのオルファンの夏の太陽の光の様な笑顔で答えた。


一家はアフェルキア茶を飲みながら家族団欒の昼下がりのティータイムを楽しんむ。


ただこの時皇后はリライディナのヴィルヘルムを横目でチラチラとは見るが、決して真っすぐは見ないのをすぐに気づいて怪訝そうに見ていた。

リライディアがヴィルヘルムに対して見せるぎこちなさと、何気に見せるヴィルヘルムの言葉に戸惑う仕草を逃さなかった。


これはただ事ではないわ。

それは女の直感といってよかった。




次回は楽しいバカンスも終わり帝都へと帰還するリライディナ達を待ち受ける?

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