外伝【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】婚約一年目の二人 嫉妬?恋?
狩猟という共通の趣味。
実はリライディナ皇女にとって狩猟とは娯楽ではないとヴィルヘルムは知る。
「ヴィル?」
突然愛称で呼ばれたヴィルヘルムは面食らってしまって、心臓がドキドキと波打ってなんだか頬が熱くなる。
「貴方は私の夫になるのだろ。
愛称で呼んで何が可笑しい?」
ぽかんと不思議そうにキラキラ光る瞳で見つめられると、さらに動悸が激しくなって、それを知られたくなくてドギマギしてしまう。
ようやく出た言葉はありきたりすぎて恥ずかしくなった。
「ああっそうだね…」
そう確かの家族間でヴィルヘルムは「ヴィル」と呼ばれていた。
あくまで私的な内輪だけな空間でだったが。
突然愛称で呼ばれて驚きはしたものの嫌な感じはない。
それどころかが嬉しいという感情もふつふつと生まれていたのだ。
僕は彼女を最も知りたいそう思う。
そして彼女もそう思ってもくれたらとても嬉しいと勝手に思ってしまってる。
ヴィルヘルムはそんなの自分勝手さがあるのだと知って、なんだか身体中がもぞもぞしている。
そんな気持ちを知ってか知らずか、リライディナは自分が仕留めた獲物を前に、護衛のヴォルボルトとギャバンに得意げに自慢顔をしている。
ヴォルポルトは大きなゴツゴツした手で、リライディナの絹の様な栗毛色の頭を撫でている。
ヴォルポルトは年の頃は三十前だろうか?
筋肉質で戦いの跡だろうか?
そこかしこに傷がある。一番酷い傷は目元から頬にかけての裂けた傷跡だ。恐らく左目は見えていないだろう。
しかし今日の狩猟のテキパキとした様子ではそれを感じさせない。
浅黒い肌、彫りの深い顔立ち鼻は高く、紺色の瞳は大きく鋭い眼差しをしている。
しかしヴォルボルトのリライディナに対する態度はそれを全く意識していない。
へたをしたら、リライディナをまるで妹かと思うほどのフランクな態度だ。
リライディナもそれを当たり前のように受け入れている。
どんな仲?
ギャバンはリライディナのオルファン帝国入国から祖父がつけた護衛のようで、主従関係であるのが彼の態度でわかった。
何かにつけて丁重な所作であり言葉使いもだ。
気にはなる。
僕はそうだリライディナが言う様に夫になるんだから……勇気を出して聞けばいいんだ。
でも……。
嫉妬ではない違う気持ちで変換しながらも胸の奥のモヤモヤは残ったまま。
今日の獲物はヴィルヘルムが仕留めた鹿二頭、猪三頭、鴨五羽に彼リライディナが仕留めた大鹿一頭、狐三頭、猪が二頭だった。
ヴォルボルト、ギャバンが手際よく荷台に乗せて日暮れ前には離宮に帰った。
調理人に寄って解体処理を終えた鴨料理がメイン・ディッシュに出てきた。
狐以外の獲物の肉は後は近くの住人に振る舞われたそうだ。
「柔らかな上質な鴨の肉だな。
脂身が甘くて美味しい」
リライディナは鴨肉が好きなようだ。
この辺は鴨が異常に多くて、どちらかというと庶民の食べ物だ。
だから王侯貴族の狩猟では獲物の対象にはならない。
でもリライディナが美味しいというから、久しぶりに口にしてみた。
確かに……。
「本当だ。ジューシーだね」
口いっぱいに鴨の旨味と弾力、そして濃厚な鴨の脂が舌で弾け飛んだ。
「鴨なんて食べるの下品って思ってるか?」
唐突に聞いてきたリライディナの顔は悲しげた。
「いや。
普段は確かに食卓にあがらないけど。
思わないよ。
それに旨いよ。
これ!」
リライディナの顔つきがぱっと華やいだ。
ヴィルヘルムは自分に笑顔を見せてくれた事に少し嬉しくなった。
「庶民の食べ物を口にする事で、彼らの生活を少しでも体験したいんだ。
彼らを最も知りたい。
そして……」
そうリライディナは言いかけたけれど、すぐに口を詰むんで俯いた。
僕は彼女のその意味を知らないが、今無理やり聞こうとは思わなかった。
きっと彼女から僕に言ってくれる日を待とうと心から思った。
「さすがフェレ皇国の皇女殿下。
僕の婚約者は素晴らしいひとでよかった」
小恥ずかしいが恐らくこの言葉が一番今相応しいと思ったから、精一杯背伸びして正直な気持ちを伝えた。
リライディナは何度も頷いて、僕に初めて弾けるような夏の太陽な満面の笑顔を見せてくれた。
これで十分、いやこれ以上はお腹がいっぱい。
楽しい夕食はあっという間に過ぎていった。
静かで充実した離宮の生活に突然の??
次回リライディナ皇女の違う一面を知る事に。




