外伝【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】婚約一年目の二人 狩猟をする
婚約者として、そして出会った事もないタイプの女性に面喰ったヴィルヘルム皇子だったが、同時に会ったことのない女性に興味を湧いてきて。
イスハファンの離宮は湖の近く、離宮の後ろには広大な森が広がり夏の間は狩猟や乗馬が楽しめる。
家族で過ごす夏は湖で泳いだり、舟に乗ったり、野外で音楽会や劇なども開催し、時に家族で楽器を演奏したり、歌ったり、演劇をしたり毎日楽しく過ごしてきた。
思いで深い場所で寂しかった少年時代のほろ苦い感情が同居する場所だった。
小高い丘に建てられた宮殿は中央部分がレセプション会場に使用され、北側は皇帝一家の過ごす部屋や続き、左翼は賓客用、右翼は他の皇族用に設えてある。
二人はまだ婚約中という事で、左翼をリライディナ皇女が。
右翼をヴィルヘルム大公が使用する事になった。
最初の二人のスケジュールはそれぞれ今までの生活を変更する事なく、食事時と十五時のティータイムに限り二人で過ごした。
ディア教の祝日に当たる休息日には二人午前に神殿で祈り、その日の後は共に一日を過ごすのを日課にしている。
最初の頃は何をどう過ごしたらいいかとドギマギしたものの、リライティナの男言葉に慣れなかったヴィルヘルムも接する回数が増える毎に慣れていった。
そして二人の間には多くの共通する趣味がわかり、どんどん距離を短めていくと、共に過ごす時間はぐっと増えていった。
初めて出会った三カ月後イスファハンの狩猟の季節がやってきた。
その趣味の一つが狩猟だ。
ほとんど共通して王侯貴族の趣味だが、エルディア大陸では夏至の日に狩猟大会を行う行事があり、趣味というよりも必須科目だ。
しかもリライティナは恐ろしく上手かった。
ヴィルヘルムに獲物はまったく見えないのに、リライティナは矢を弓をかけ、靭って頬に一直線に矢が当たる。
ほのかに色づく頬。
しかしその瞳は鋭い眼差しを茂みと木々しか見えない。
暗い森の奥の一点さだまっている。
しばしの沈黙のあとその指先を離した。
シューー!!
矢は弧を描き確実に狙った一点にむけて吸い込まれるように森の奥へと入っていった。
キュッ~ヒュン !!!ヒュン!!
動物の甲高い泣き声が聞こえた後。
ドン!バサッ!
地面に落ちる音が聞こえた。
リライディナは得意げにすましながら手綱を引き、馬の腹を踵で叩き走り始めた。
ヴィルヘルムはあわててリライディナの後ろをついて馬を走らせる。
その音の正体は鹿だ。しかもかなり大きい。
茂みの中で大きな鹿が地面に倒れたおりすでに息をしていなかった。
矢は心臓を的確に貫いたからだ。
リライティナは馬から飛び降り鹿の傍に射抜いた矢を鹿から抜き取った。
ヴィルヘルムは見事な仕留め方に関心すらしている。オルファン帝国の狩猟大会でもこれほどの腕の持ち主はなかなかいなかったからだった。
「すごいな……大鹿だ。
リライティナすごいよ!
どうしてそんなに上手いんだ?」
「えっ!
そんなの食べる為にきまってるだろ。
他に何の目的あるの?」
「……。」
その言葉にヴィルヘルムは衝撃を受ける。
狩猟とは害獣を除外し、農耕民への奉仕であり、狩りの獲物は孤児院や養護院に与える物にすぎない。
主従や貴族感の信頼関係やコミュニケーション手段
としての手段だからだ。
「そんなに食べ物に困っていたの?」
リライディナは驚いたように大きく見開いた。
「キャハッハッハッハ…
そんな訳ないさ。
お爺様が毎月私の化粧料を贈ってくれていたから。
離宮の下女や下男、召使の食糧さ。
離宮には私以外の皇女達の使用人がいた。
さすがにお爺様の化粧代だけではみんなの食糧は
調達出来なかったからな…。
離宮は森の中にあって野生の動物が沢山いたから
な」
「そう……優しいんだね」
リライディナは息を一つ吐いて珍しく、後悔した様な怒りの様な交じり合った表情を見逃さなかった。
「あはっ……そんな事言われたのは初めてだヴィル!」
ヴィルヘルムは彼女の普段は見せない表情と彼女の違う一面を知りリライディナに強い興味を覚えたのだった。
少しずつ二人の距離が縮み始める。




