外伝【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】婚約者リライディナ皇女殿下
あった事も見た事もない婚約者フェレ皇国の皇女と会う為にイスファハンに到着したヴィルヘルム皇子を待ち受けていた皇女は?
「初めて会うな。
リライディナ・ディア・フェレだ。
ヴィルヘルム大公殿下」
艶のある浅黒い肌に絹糸の様な栗毛色の脹脛まで伸びた長い髪が揺れている。
健康的で小柄な体格ながら、十四歳とは思えないほどのしなやか身体つきに均等に筋肉がついている。
離宮とはいえ宮廷生活を送っていた高貴な姫君とは見えないが、さすがにまだ幼い顔立ちはしている。
ヴィルヘルムの顔を視線を外す事なくじっと射抜くような瞳が見ている。
切れ長の人をやや斜め使いで見ているゴールドイエローの瞳は鋭い刃かと思わせる。
ヴィルヘルムは心の奥底まで鏡に映されているような、なんだか恥ずかしい気持ちになったが、同時に吸い込まれそうで逃れられないどころか命さえ差し出してしまいそうな悪魔的な魅力があると思った。
鼻はやや小さく、口元は紅をさしていないが、
ほのかにピンク色の薔薇の花弁の様に形の良くぷっくりとしている。
その口元は僅かに皮肉を含んだ微笑みを讃えている。
ぱっと見には利発そうでエキゾチックな美少女だ。
しかし放った言葉はとても生意気だった。
「お祖父様から聞いたが。
私は君の妻になるんだよな。
私はまだ幼いから大公妃の務めはよくわからな
い。
ただ義務・義務・忍耐・忍耐は大嫌いだ。
そんなのしないから。
結婚前に言っておく」
ヴィルヘルムは妻になろう婚約者から、まさかの上から発言を聞くなど思ってもいなかった。
第二皇子とはいえ、皇族にそんな暴言吐く人物など帝國でいるはずはない。
リライディナの発言は心に突き刺さり、懐いた事のない動揺の波が打ち寄せて、ヴィルヘルムは今にも窒息しそうだった。
え〜どう返して言ったらいいんだ??
頭の中の思考をフル回転させて、正しい答えを見つけだそうと眉間に皺を寄せたまま、岩のように固まってしまった。
昨日母に言われ、帝都を出発した。
側近や侍従、ヴィルヘルム付の下は下男、下女に至るまではすでに承知していたのかすでに移動の準備が終わっていた。
馬車は何度も馬を替えながら避暑地のイスファハンの離宮に到着したのだ。
そしてゆっくりする暇もなく、離宮の家族用の居間に二人ソファーで初顔合わせとなったのだ。
しばしの無音が支配する部屋話すのも躊躇われそうだが、ヴィルヘルムは勇気を絞り出し言った。
「僕は第二皇子だし。
兄上ほどの重責はないから大丈夫だよ」
ヴィルヘルムの頬はピクピクしながら、無理やり作り笑いを浮かべてリライディナを安心させるように言うのが精一杯の背伸びだった。
「へぇ〜。
後で駄目だと言ってもしないからね」
ヴィルヘルムの作り笑いは二倍になった。
「はあぁあああぁ……言わないよ。
大丈夫だよ」
「ふ~~~~~~ん」
こうして二人の初顔合わせは終了した。
この出会いにヴィルヘルムは疲れ切り、緊張が解けたのか?
それともこれからの生活に不安を覚えたのか?
深夜に高熱を出して一週間ベットと友達になってしまったのだった。
僕はまだまだあまちゃんなんだ。
強烈な印象の婚約者に度肝を抜かれ寝込んだヴィルヘルム皇子は?