外伝【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】母后からの呼び出し
オルファン帝国のルードヴィヒ皇帝とエリザベート皇后は落ち着いた宮廷生活をおくっていた。
そんなある日エリーザベト皇后の皇后宮に末息子ヴィルヘルム大公が呼び出された。
帝国中の憧れの的である大公に大きな環境の変化が!
オルファン帝国の宮殿の最も奥に位置する皇后宮は、現皇后エリザベートの好みに改修されて数年が経つ。
元々二代前の皇后好みの宮殿の内装は、時代遅れ華美主義が流行していたために、部屋廊下やエントランスいたるまで、大理石や金銀の装飾と壁紙のスカーレットレッド色は目に痛いだけでなく置いてある舶来品の調度品の数々には螺鈿や宝石の数々が埋め込まれた成金趣味が丸出しの落ち着かない空間だった。今の宮廷人の評判もすこぶる悪かったという。
前皇后は精神を病み、宮の内装などまったく関心がなかったため、長らく博物館にでも展示出来そうな代物がゴロゴロと無造作に置かれていたためだ。
エリザベートが入宮してから皇帝は「自由に改修してよい」と言われていたが、いろんな事件や問題もがあり、改装などという気持ちのゆとりはなく後回しになっていた。
公爵派のクーデターを抑え皇子を出産するにあたり、ようやく改修する事が決まり過ごしやすい皇后宮に変貌した。
ここが皇后の裏の政治の中枢となる。
何故なら皇帝ルードヴィヒ三世は皇后に政治的な助言を求める事も多く、それを知る高位貴族の夫人や令嬢達が皇后の後ろ盾と夫の政策が支持されるように事ある毎に皇后宮を訪ねていた。
皇后も婦人達を通じて表の政治への影響力を持とうとしていた。
いわばWINWINの関係だ。
全体的に紺色で纏められた壁やカーテン、壁紙すくないオルファンの気候に合うようにシフォンの仕切り布が涼し気で、落ち着いた空間に変貌した。
金銀の装飾も少なめで可愛らしい小花の文様が軽やかな印象を与えるが、今日に限って重々しい雰囲気が違って見える。
この部屋に入ってソフィーに座った瞬間からヴィルヘルムは妙な違和感を感じずにはいられない。
何だか落ち着かず目線をキョロキョロと忙しなく動かしては、ピアノの鍵盤でも打つように指を何度も太腿で打ち付けている。
見るからに完全に動揺を隠しきれない。
一番末っ子に生まれついた性だろうか?
人や物やちょっとした仕草や行動を観察する機会が多く、行動や言動には人一倍気をつけ安全牌なそつない宮廷生活を送ってきた。
だからこの普段とは違う違和感の正体に訳もわからない恐怖に近い何かを感じてしまったのだった。
何せ普段この時間に呼び出されるなど今までなかった。
オルファン帝国の皇后エリザべートは一日中の大半を公務に費やしている。
それでも必ず食事は家族と取るし、午後の数時間は必ず子供や孫の為に触れ合う機会を作ってきた。
しかし今日はまだ朝には遅いが昼ではない時間、普段は高位貴族の婦人の波のように押し寄せる謁見の時間のはずだ。
しかし今日に限って、静まりきった皇后宮に自分が呼び出されて今この皇后の居間には侍女、召使いはいない。
母である皇后と唯一皇后付きの年配の女官長だけだ。
自分と向き合って座っている母は僅かに微笑みらしきものを浮かべている。
その母が思いもよらない事話を口にしたのだった。
「母上?
今なんとおっしゃいましたか?」
もしかしたら自分は突発性難聴ではないか?
と、耳を疑ったヴィルヘルムは夢でも見ているかの様にピンク色に染まった唇が開いたままぼんやりと母を見つめていた。
母后からの突然の呼び出し、その理由は予期もしない一言だった。
母の言葉は?
次回判明