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第十章 皇后の献身と慈愛

修道院を去った後、急ぎ馬車で宮殿に戻る。

皇帝が目を覚ました時に自分がなくてはいけない。


一時間かかる道のりを四十分で急ぎ宮殿に入った。皇帝はまだ眠りから覚めておらず、エリザベートは安堵する。


寝台にすやすやと眠るルードヴィヒの寝顔はずっと見ていたいもののそろそろ目覚めてほしいとは願うのだった。


修道院での出来事があまりに衝撃的だったのか張り詰めた神経が切れたのか、そのまま顔をベットに預けて眠ってしまったエリザベートの顔を撫でる感触がする。

す~と目を覚ますと目の前には上半身を起こしエリザベートの頬を撫でるルードヴィヒの姿があった。

エリザベートは何も言わずにそのまま上半身に身体を預けてひどく泣きじゃくった。


「どうしたの?ただ寝ていたのに」


ルードヴィヒは驚いたようにエリザベートの柔らかい髪を触りながら撫でている。


「わあぁ~~~~」


子供が泣きじゃくる様に激しく泣いて泣いた。まるでルードヴィヒの代わりになって。


抱きついて離れないエリザベートはめったに見れないと少し嬉しそうにわらうルードヴィヒ。それだけ心を許したという事だと理解しているからだ。


エリザベートはそのままルードヴィヒの腕の中で雛が親に抱いているように安堵感で満たされている。


そうこれが愛だわ。と確信している。


エリザベートは子供が親にねだる様に言った。


「陛下。お疲れでしょう。 ねえ保養地にはいけないから。

 宮殿の森にあるオルファンの伝統屋で過ごしましょう。

 今は乾季です。雨はございませんわ。 喪中でございますし国政も一段落しておりますでしょ。

 静かに過ごしましょう。陛下には休息が必要ですわ」


「喪中だよ」


「陛下 喪中ではございますが陛下の体調も考慮しなくてはいけません。

 陛下の心身の管理も帝国の重要案件でございます」


申し合わせた宮廷医長がやんわりと促す。


傍で待機していた大臣も頷いた。


「では午前は静かに皇太后の喪に服し、午後以降はオルファン伝統屋で過ごそう

 どうだろう皇后」


「仰せのままに」


皇后は胸をなでおろす。


早速森の伝統屋の改修が行われ、静かに過ごす事の出来る準備がされた。

午前中は礼拝堂で皇太后の祈りを捧げて、国政の決済を行う。午後は皇后と過ごした。


伝統屋はまだ移動民族だったオルファン民族が定住せずに済んだ家だ。家といっても簡易な組み立て式の物で安易に組みたてられどこでも持ち運びが出来た。

木製でほとんど円柱だけあり壁はなく大変開放的な家だった。

森の中に伝統的な家を建て周りをテントで野で過ごせくつろげるように作られた遊び場だった。


元々は伝統的な民族意識を持つようにと建てられたものだ。


皇后は伝統衣装を着て皇帝をもてなす。


きらびやかな刺繍もなく平民が来ている伝統的な麻のドレスだ。

淡いクリームベージュ色の素朴な衣装もあでやかな外国人ではあるがエルザベートに似合っていた。

この伝統屋ではお互いただの平民の夫婦を演じていた。


「可愛いよ奥様」


柔らかい微笑みがルードヴィヒの顔を緩ませる。


「では旦那様 お茶のお時間ですよ。」


伝統的な薬草を飲みやすくした薬草茶が出される。


ゆっくりと喉元に花の香りと爽やかな草の香りが鼻をつく。


オルファン人の疲れをとるといわれている薬草茶だとすぐわかった。


皇后は無言で休息するようにせまっているのだ。そうルードヴィヒは理解した。


「私がいたらないばかりにあなたに気をつかわせているな」


吐き出す様にルードヴィヒが悲しそうに言った。


エリザベートは自分の膝にルードヴィヒの頭を乗せて寝かせつけて優しく髪を撫でる。


「私が陛下を独り占めしたいのですわ」


クスクスと笑う声は子供っぽかった。


優しい風がルードヴィヒに新鮮で心地よい経験した事のない安らぎで自分が満たされていくのがわかる。


「そういう事にしておきましょう」


「ねえ。 愛していますルードヴィヒ。 あなただけを」


不意打ちにエリザベートが耳元で囁く。

完全に不意打ちだったので、ルードヴィヒは思わずエリザベートのすぐ近くまで顔を近づけた。


ルードヴィヒは目を丸くしてとたんにドギマギし始める。今まで歴代の皇后にそういわれた事は一度もなかった。

感情をつたえるのははしたないといわれていたからだ。


エリザベートは両親から何時度となくいつもこういわれて育った。なので愛されていないなどという言葉は存在しなかったからだ。


エリザベートはまず自分が人に受け入れられていると知ってほしかった。

だから最初の一歩で感情をきちんと伝える事を始めた。


最初の一歩で重要な一歩


「あ!あぁ」


意外な告白に戸惑うルードヴィヒ。言われ慣れしていないのだと直感した。


エリザベートは事或る毎に愛を囁くので、ルードヴィヒはそのうち慣れ始めるのが人間一カ月も毎日言われると至極当然と思うのもあたりまえだった。


その日は伝統屋で過ごす最後の日


テントでランチを寝そべって二人軽食を食べている。


穏やかなリラックスしたような様子のルードヴィヒにほっとする。


「なんだか名残惜しいです。イスファハンでもそうでしたが、こちらは趣があり好きですわ。

 また過ごしましょう」


エリザベートの率直な気持ちだった。

ルードヴィヒも同じ気持ちだ。母の死から少し癒された様に思いでいる。


「あぁ。いいね」


エリザベートの頬にキスをして同意した。


宮殿に戻る前にエリザベートはルードヴィヒにいくつかのお願いをした。


「毎日夫婦は同じ寝台で寝る事」

「時々二人の時間を作る事」

「毎日抱きしめさせてほしい」


つまり普通の夫婦でいたいという物だった。


ルードヴィヒはクスリと笑い。


「いいね」


同意した。そして喪が空ける一年間この約束は守られた。この約束でルードヴィヒは精神的に安定し、発作を起こすことはなくなったが、完治したかどうかはわからない。予断は許さない。











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