外伝 最終章 皇位奪還【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】龍の目覚め
ヴィルヘルム達との交戦から逃げ出して向かった先は上皇王の寝室だった。
クロフォード公爵と上皇王そしてファビエンヌ。革命連合軍が乱入する中どう逃げ出すのか?
「レオポルト!
私を救えるのは貴方だけ!
貴方の存在。
貴方の血。
私を救えるのは……貴方の存在がだけが…。
私を救える!」
上皇王は燭台を右手にしっかりと握りしめ、細い螺旋階段を下しながら、レオポルトに呪いをかけるように闇から聞こえてくる悪魔の囁きの如く繰り返し繰り返し口にする。
その呪文の言葉がレオポルトの脳内を染めていく。
ブツブツと何かを呟くその姿はまるで狂信的に悪魔にでもとりつかれた地獄に向かう巡礼者のようだ。
私が…私だけがマリアンネを助ける事が出来る。
いつも見ているだけだった。
彼女と夫の幸せな夫妻を。
眩しいまでに私には決して注がれなかった笑顔を彼に向けるのを。
血の涙を流すのではないだろうかと思うほどその光景を何度も何度も思い出すとドロドロとしたどうしようもない嫉妬心で深い泥の中に沈んでいくような気持になった。
どんなにか願っていた事か。
私を頼りしがみつく貴女の姿を。
私だけに。
私だけをと。
レオポルドのどこか操られたかのように狂信的な恍惚とした瞳を冷めた目で見るファビエンヌがいた。
劇場の中で繰り広げられる芝居でも見ているようだわ。
滑稽なお芝居を。
そう言えば私が上皇王のふりをして接した時もなんの疑いもせずに信じていたわね。
それほど盲目的になる愛もそう……。
悲しい……愚かしいけれども。
そう思いながらもファビエンヌは口にはしない代わりに息を吐くような呼吸を一つつくのだった。
所処にしか小さな蝋燭に照らされた灯りと上皇王の燭台の明かりだけがたよりの狭く細い階段は延々と続くようにさえ思え三人は目が廻りそうになり吐き気さえも襲ってくる。
何度も下った先にその歩みはようやく終わりを向かえる。
そこは真っ暗闇の中で静けさと湿気がただ漂っ空間だ。
以上な湿気は冷気と共に寒気を誘い、固い壁が行く手を遮っているようだった。
肌を刺すほどの冷気と暗闇にファビエンヌは言い知れぬ恐怖感身体中を駆け巡り身震いさえする。
しかし我が子を救う為に必死に耐え抜く。
全ては娘の為に。
その時を静かに待つしかないと。
上皇王は燭台の灯をレオポルトの顔に近づけ、更に耳元で甘く酔いしれる様な言葉で囁く。
「さあ私の為に。
貴女だけが私を救える。
私の全て。
私の夫レオポルト。
貴方だけが私を救えるのよ。
貴方が……わたしを」
妖しく光る上皇王の瞳には魅惑と妖艶さの全てが放たれ、クロフォード公爵はまったく抵抗出来ない。
ファビエンヌは思った。
自分の目の前で行われている二人の行動は怪しい新興宗教的な儀式の一つのようだ。
上皇王はクロフォード公爵の背を両手で包み込んでは、その腕を廻し鉄の壁に手をつけぴったりと身体を密着させる。
冷たい金属の板がみるみるうちに二人の手の熱を奪っていく。
ガチャガチャンガチャ!
突然の何かがこじ開けられたような音。
壁に一線の青白い光の筋
縦に現れそれはドンドンと広がっていった。
「さあこの中にレオポルト。
この光の中に身を投じて龍を目覚めさせ
て。
貴方の血が眠った龍を蘇らせる。
フェレを…私を救える!」
興奮気味に頬を染めて、上皇王は熱っぽくレオポルトに語りかける。
「はいマリアンネ。
私の身を捧げます」
その口元には笑みさえ湛えて瞳の奥は輝かしい誇らしげに満足そうな笑顔にフェビエンヌはぞっと寒気が走る。
龍を目覚めさせてどうするのか?
そもそも龍って?
ファビエンヌは目に前の二人の行動と言動が理解出来ずに立ち尽くす。
そうあくまで龍は伝説の生き物なのだ。
しかもいわくつきの話に登場する。
皇家の歴史書の創世記伝によると龍はフェレの地下の揺り籠で眠り、フェレ皇室の始祖はその地に城を築いたという。
そして龍が目覚める時皇国のみならずエルディア大陸すら壊滅出来る龍が降臨し全てを焼き尽くすという。
いるの?
龍が?
もし目覚めたらどうなるの?
上皇王は何を考えているの?
何をしようとしているの?
目覚めさせたらフェレ皇国以外にこの世界が滅亡するの?
その時吸い込まれる様に。
光の中へとクロフォード公爵の姿が溶けていった。
あまりの光の強さで二人は瞼を強く閉じる。
青白い光の中に落ちていったクロフォード公爵は?
龍が目覚めエルディア大陸は滅亡するのか?
上皇王は何をしようとしているのか?
次回をお楽しみに!




