最終章 皇位奪還 外伝 【愛と革命に生きるヴィルヘルム大公物語】 マリアンネの愛
上皇王は革命連合軍が皇宮に侵入した頃後宮の一室に隠れていた。
彼女の過去と何故非情で傲慢な主君になったのか?
過去があきらかになる。
戸惑いもせずに平然と当然のように愛の言葉を紡ぎ出すクロフォード公爵は真っ直ぐな熱い瞳を上皇王に向ける。
上皇王の真っ赤な口元は僅かに上がる。
愛している?
愛?愛?
笑えるな公爵。
愛が何を与えてくれるのか?
この世で最も愚かで不要な言葉の一つに過ぎない。
くだらない。
しかしそのくだらなさにつきやってやろう。
今はまだ利用出来る愛とやらを見てやるよ。
クロフォード公爵。
上皇王はレオポルトの身を挺して献身させようと、更に身体を強く引き寄せてぴったりと重ねる。
これみよがしに身体を絡ませながらレオポルトを刺激する。
「ええ。ありがとう。
愛しているわ。
私の本当の夫。
愛しい貴方。
永遠に」
にっこりと不敵な笑顔を作るもレオポルトには見えないが、その言葉に酔っているのは明らかで、その瞳の奥に邪悪さが静かに潜んでいたのも知らず愛に溺れている。
あぁ愛だって?
便利でつまらない言葉だ。
愛が何をしてくれるのだ。
フェレの皇族で正妃腹の私の人生にそんなものは必要なかった。
物心つく頃から必要どころかやっかいで軽蔑すべき言葉だとすぐに気がついていた。
私は一人だ。
傍には侍女や乳母はいたが誰もがあくまで支給される給与の為に仕えていると言わんばかりに愛情を賭けられたことがなかった。
皆事務的に接していたのだ。
安易に感情をむき出しにしいらない情をかけないほうが厄介事と関わらなくてもいいと言わんばかりに。
けれど求めてはいなかった。
一番愛情を求めたかった母は精神的にも肉体的にも病弱で、ほとんど公務は行えず常に病床にあった。
病弱だけが愛情を得られない原因ではなかった。
何故なら私が視界に入るとまるで錯乱したかのようにそこら中の調度品を投げ倒し、暴れ始めては決まって最後には失神してしまうのだ。
どう母と接したらいいのだ。
もうどうでもいいとすぐに思った。
母は新婚当時健康だったようだが私が生まれたのを境に健康を害し、そのせいで精神的にも変調をきたしたという。
病は私のせいだといわんばかりだったのか?
私の即位前に死去しているので聞くすべがない。
その母は体調の良い時は皇宮を出て神殿に祈祷をしたり、救護院や児童院で慈善活動に傾倒して私には見向きもしなかった。まるでそこにいないかのように。
なのでほとんどすれ違いの生活だった。
名前だけの母后だ。
父である皇王は私は勿論の事子供達にはまったくの無関心で、常に愛妾と愛人を作り離宮を建ててはそこに多くの愛人達を集団で住まわせた。
当然妾達の争いは多く、嫉妬や嫌がらせが日常にあったと噂話をしていた侍女達から聞いていた。
但し正妃腹である私にはさすがに出来なかった。
その父は皇太子を指名しなかった。
その事で各家の政務の干渉を防げ、自分の権威を保ったからだ。
それがまた妾達の争いを誘発していた。
腹違いとはいえ兄弟なのに不仲で年齢が上がる毎に身分の高い母を持つ妾妃達の目に見えて異母兄弟達の皇位への競い合いが激しくなった。
皇王の子供達のうち表向きは病死する者がいたがその中には暗殺された者もいたのだ。
ただそれでも子供の数は歴代一となっていた。
私が成人に達する頃皇族の手当てが国庫を揺るがす事態になり、忠臣達に進言されて父は出来た子供達の仲で身分の低い生母の子供達から順に養子や幼いにも関わらず降嫁したり子減らしをしていった。
そんな時に母方の祖父が私にそっくりな同年齢の少女を連れてきた。
オルファン帝国の貴族の娘のファビエンヌだ。
皇族が暗殺されていく中で私の命の危機を危惧してだった。
しかしその実は自分の牽制の為でもあった。
唯一の正妃腹の皇女。
それを失うという事は今後皇国の介入を断念しなくてはいけなくなるのだ。
しかも生母の母はいない。
そうこうしているうちに私も年頃になり、祖父の推薦と父皇王の許可が出て皇族の一人と婚姻する事になった。
見た目は確かの傍流の血筋であったが高貴な皇族の気品があり温厚そうだった。
良く言えばだ。
男としては面白みはなさそうだ。いや私はそんなもの求めていないが。
初めてあった彼に特に愛情を感じる事もなく、ただ私の血筋を得る為の夫に過ぎないと思い表向きには従順な妻を演じた。
二人だけの時は大きな距離を取る事を心がけたものだ。
この夫は人畜無害ではあったが、温厚で素直周りの貴族達からの評価も高くそこそこ美男で宮廷生活も順調のようだった。
私にとってはどうでもいいことで、ただ私の血を受け継ぐ後継を得るための存在だ。
普通の夫婦の夜の営みは最小限、私の排卵日を特定して寝室を共にした。
彼にはいや私は誰にも愛情を感じたいとも与えたいとも思わなかった。
あるものは皇位への壮大な野心だ。
その野心の為に何でもやってみせると思っていた。
あの出来事が更にその思いが強くなる。
そう母が死去した臨終の時彼女は一瞬だけ正気も戻った。
いや本当に正気だったのか?
それすら不明だが、真実でも嘘でもどちらでもこの行動になんの変更もなかった。
時期を早めないといけないとは思ったが。
そうしなければ私が殺されるのだ。
そう心に決めてその時に備えて第一皇女派の派閥の数を隠れて増やしていった。
逆に父には従順でそこそこ聡明、決して父に反感を持たれずに生きていかないといけない。
その時まで父に忠誠を誓うふりを続けていた。
そんな中で第三妾妃の侍従が私に接近してきた。
丁度デビュタント用の舞踏会ででだ。
当時私は結婚後すぐの頃だ。
舞踏に疲れた身体を休める為庭園の森にいた時だ。
第三妾妃の侍従が現れて私にある言葉を発した。
第三妾妃は母方の家とはライバル関係の家門で古くから因縁の間柄で母にもよく嫌がらせを隠れて行っていた。
両家は始祖の皇王に仕えた双璧をなす右翼であった武人の家であった第三妾妃は日頃から自分こそが正妃に相応しいと言動していおり、私達に敬意を表す事はなくそれどころか弱みはないかと虎視眈々と身辺調査を行っていたのだ。
その時侍従は以前から私に個人的に興味があったという。
そして機会を見計らってその日接近してきたのだ。
「皇女様私を傍に置いてくだされば皇妃様も大変感謝させるでしょうし。
私は皇女様のお役に立つはずです。
まだ第三妾妃もご存じではありません。
私を寵臣に加えていただければ。
第一皇女殿下の第一の寵愛を頂ければ生涯共に」
得意げにそう言ってのけたのだ。
シュ!!
空気が切り裂かれた。
私は迷うことなく即座に彼を剣で切りつけた。
隣に立たせるなど、弱みを持たれるなど極めて心外だ。
私を脅そうとしているのは目に見えてわかったからだ。
しかしこの殺害の現場に予期せぬ者がいたのだ。
迂闊だった。
そうレオポルト・ディア・クロフォード公子だ。
私は彼を殺害する事も出来たがこの公子に興味を覚えたのか。
それともなんだかの運命に導かれたのか。
この男を身辺に置く事にした。
彼は冷静沈着、どんな案件でも助言が的確だった。
しかも忠誠心はずば抜けていて、特に私には主従を越えた感情が芽生えているのを知っていた。
これを利用しなくてはと思った。
そして時が満ちて私は父皇王から皇位を強奪して、父は廃位投獄し貴族や皇族達を続々投獄、流刑や処刑を行った。
ようやく即位したのだ。
初めての女皇王の誕生だという。
その年の終わり一つの事件が起る。
そんな時にとうとう両親や家門そして子供達を殺害された前皇王の第三妾妃が忘れられていた傍系の皇族の一人を巻き込んで私の暗殺計画を立てているがわかった。
私はわざとその計画を放置し、当日替え玉のファビエンヌをその被害者に立てた。
案の定ファビエンヌは毒で倒れ計画は漏洩して関係者を全員逮捕処刑に成功した。
しかしある誤算があった。夫が私達の秘密を知ったのだ。
二人は秘密の関係を続け、ファビエンヌが妊娠した時夫は彼女を皇宮から逃がした。
彼は逃した後、おめおめと私の前に現れて言った。
「我が妻にして皇王陛下。
私は心から貴方の隣で生涯を終えるつもりでこのフェレ宮廷に入りました。
本当に貴女と良き夫婦として過ごしたかった。
私の生はここで終え私の守るべきものはこ
の身を挺して守り抜きます。
陛下は本当の愛を知らない可哀想な方で
す。
真実を避けようとされ。
誰にも近寄らず近づかない。
孤独の闇に呑まれて彷徨われる。
可哀想な方だ。
私達は出会っては婚姻してはいけなかったのに。
さようなら永遠に」
そう言って手にした短剣で喉を引っ掻いた。
プッシュ!!
血吹雪が最後の花が散るように謁見室の壁を床を鮮血し染めた。
目に映る光景になんの感情も懐かない。
彼はその場に倒れ込んで血の海を床で染めた。
「面倒な」
私はぼそりと呟いた。
夫の死は私の心に何も生まなかった。
生まれたのはある裏切りの憎悪だけだった。
ただそんな中でその数か月後私に新しい命が誕生した。
世継ぎたる皇子だ。
表向きは亡き王配殿下の子。
実はクロフォード公爵の子だ。
皮肉なものだあんなに良い日に同衾したのに子は出来ず、夫の不義を知った時に寝た一夜だけで公爵の子を妊娠したのだ。
けれど……。
ああ〜まだまだ私の孤高の魂は消滅するにはまだ早い。
何もなし得ていない。
何も。
レオポルトの身体の熱を肌で感じその温もりさえ奪い尽くさんばかりに野望は尚激しい炎を煮えたぎらせている。
上皇王はどのようにこの危機を脱しようとするのか?
龍の揺り篭とは?
ヴィルヘルム達はフェレを救う事が出来るのか?
次回考察の為来月更新予定です。
しばらく休載いたします。更新決定次第活動報告でお知らせいたします。
宜しくお願い致します。




