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第九章 侍従長の告白と皇后の覚悟

皇帝の眠りは傍で看護をして二日間が経過していた。

エリザベートは事ここに至って執行猶予はないと考え再び侍従長を居間に呼び出した。

呼ばれた侍従長は襟を正し緊張した面持ちで扉を開き、皇后の居間に入った。


皇后は毅然とした態度でいつもよりも固い表情で待っていた。


侍従長は皇后の前にお辞儀をしその後微動だにしない。


エリザベートは低い声で静かに言った。


「おかけになって私にお話しください」


何の話かは聞かなくても承知していた皇帝の秘密についてだ。

侍従長は一つ喉を鳴らし深呼吸を深く吐くと静かに語り始めた。


「皇帝陛下におかれましては出生に大きな秘密がございます。

 まずは皇太后陛下は元大公殿下の妃でいらっしゃいました。前皇帝陛下の横恋慕から大公は謀反を起こしたとして逮捕され獄死、生まれたばかりの兄上は獄中で餓死、皇后陛下は無理やり皇后に迎えすえられお生まれになったのが皇帝陛下でございます。ただその出生時期から前皇帝陛下か大公のお子様かわからないのでございます」


エリザベートはルードヴィヒの秘密が皇室を揺るがす大事件であった事に驚愕する。

衝撃で頭を鈍器で殴られた様な気分で吐き気さえしている。


「なんですって!!!」


声を揚げて怒った。そう怒りしかない。

女性にそんな事をするなんであんまりです。


「何せ皇太后陛下と瓜二つでいらっしゃり、前皇帝陛下とも大公殿下とも共通する所は見いだせません。ただし皇后陛下は前皇帝陛下の子と信じて疑われず、幼い頃から人殺しの子、いらない子、望まない子、悪魔の子となじられ……」


話ながら侍従長は嗚咽していいた。


「我が子にですか?」


エリザベートは侍従長の話が信じられなかった。

我が子が憎い男の子だとしても我が子にかわりはないのだ。


侍従長は頭を上下に振って答える。


「ありえない。信じられない。そんなことが許されてはならない!!!!」

 激しく大声を出した。


「はい私達もどうすることもできませんでした。

前皇帝陛下は陛下を無視し皇太后陛下は暴力は振るわれませんでしたが事或る毎に言葉で陛下を精神的に追い詰めておられました」


エリザベートは話を聞くだけでもう涙が流れて止められない。

誰も助けてもらえない絶望感はいかほどだっただろう。

考えるだけで胸が押しつぶされそうだった。


「皇帝陛下は自分が悪いのだ。母后を地獄に落としたのは自分だとご自身を責められて。

 そのうち陛下の中でもう一人の兄上を作りあげられたのです」


あっ!


「だからあの時会話の様に聞こえたのね。本当は陛下一人だったんだわ。

 そういえば入宮した時に聞いたのは陛下だったのね。」


「おそらく」


「陛下にはご自身の中にもう一人の兄上がいるのですね」


「ご自身のおかれている逃げ場がなく兄を作る事で自分が攻撃されているわけでないと思われたかったのです」


エリザベートは聞かされた内容が大きく想像を超えていたので頭が重く激痛が襲ってくるようだ気分でいる。


侍従長は長年の隠しておいた過去を吐く事が出来ある意味安堵感が沸いている。おそらく皇帝陛下をお助け出来るのは皇后陛下だけだと思っていた。ただ公室の重要な秘密を伝えてよいのかという思いが躊躇していたのだ。


「所で皇帝陛下の噂ですが、私には陛下があの噂の様な方だとは考えられません。

 もしかして陛下の悪しき噂も皇太后陛下となんだかの関りがあるのでしょうか?」


侍従長は観念したかのように、またエリザベートの聡明さに打たれてある提案を行った。


「郊外の修道院にある修道女がおられます。

 その方が詳しくご存じです。その方から聞くのが望ましいでしょう。

 私から連絡しておきます

 これが全てでございます」


エルザベートは涙交じりの侍従長にハンカチを渡し肩を抱いた。


「これほどの秘密を外国人の元敵国の皇女の私に教えてくれて。

 ありがとう。これで皇室の一員になれた気がいたします」


そう言って労った。


ルードヴィヒの意識回復はまだ見込めず先に翌日修道院に向かう事にした。


翌日馬車で郊外の修道院に向かう。


一時間ほどで森の入り口に建つ大神殿の聖女達が暮らす修道院は小さいながら清潔で、調度品も質素でつつましやかな暮らしが垣間見れる。


礼拝堂の中に入りその人を待つ。

奥は聖ディアの女神像が飾られている。


手前に参拝用の椅子が並んでいる。エリザベートはその椅子に掛けて待つ。

静かな冷たい空気の空間は神秘的な佇まいが心地よいもののこれから聞く話はかなり酷いものだとは覚悟していた。


足音が聞こえてくる。

それは近づく。


女神像の横の木の扉から開く。女性が現れた。


背の高い、細身のエリザベートよりも少し年上だろうか。頭からかぶった白いヴェールが修道女の証だ。

大人しそうな印象で立ち居振る舞いはその身分が非常に高い人物だという事がわかった。


「皇后 エリザベートです」

修道女はその手をとり、甲に口付ける。


「シャルロッテ・ディア・クレメンツでございます」


エルザベートははっとする。

その名は六人目の皇后のそれだった。

クレメンツ家は王侯の中でも古く名家の一つだ。


「六人目の皇后?」


シャルロッテは静かに頷いた。


参拝者用の椅子に二人座る。


「皇后陛下がいらっしゃる事は侍従長から伺っております。

 何をお知りになりたいのかも。

 皇帝陛下には墓場まで持っていくとお伝えしましたが。

 陛下のお心が穏やかに、日常が素晴らしいものに変わるのでしたら、お力添えをしたいと思います。

 私の話は真実です これだけは女神にかけて誓います」


エリザベートはゆっくりと頷いた。


修道女は告白する。墓場まで持っていくといった過去を。


「皇帝陛下は私達歴代の皇后をぞんざいに扱われた事はただの一度もございません。それどころかお優しく、穏やかで、常に私達の事だけを考え、私達と出来るだけ時間を持とうと考えてくださいました

まず一人目と二人目の皇后はそのまま病死で間違いございませんでした。

 三人目は皇太后后陛下がご自身の女官を唆し、皇后が死去した後はその者に皇后につけるとおっしゃって皇后を刺殺してしまわれたのです。四人目は皇太后陛下の看護をされておりましたが、精神的に追い詰められて自殺され。ここまでは皇帝陛下はまさか皇太后陛下がそのような事をしたと考えておられませんでした。 五人目は妊娠が分かった皇太后陛下がお腹を何度も蹴り上げてそのせいで流産され身体を壊され亡くならました。その時皇帝陛下は目撃されてしまったのです。その時の陛下の地獄は計り知れません。

その後は出来るだけ皇后と皇太后が二人にならないように誰か警護させておられました。

六人目は私です。私は皇太后陛下の看護をしていた際、皇帝陛下の目のいかない深夜に鞭で何度も叩かれ叫び声で侍女達に助けられたのです。

皇帝陛下にお話しして私から修道女になりたいと懇願してこちらを紹介されました。

その後も私の侍女がまだ宮廷に残っていたのでいろいろ情報が入りました。

七人目は皇太后陛下が諜報員を使い誘拐させたのです。八番目は皇太后陛下が自らお責めになり生家へ逃げ出しました。九人目は皇太后陛下が皇后は愛されていないと精神的に追い詰め、皇帝から孤立させて下級貴族の男に引き合わせ関係を持たせ皇太后が暴露されたので処刑されるしかなかったのです」


聞くにおぞましい話ばかりだった。エリザベートは怒りで顔が真っ赤になって手は小刻みに震えている。

あり得ない現実を聞かされて、憎悪で心が濁っていきそうになる気がしていた。

充血していく瞳が炎で燃え滾っていくようだった。


「修道女シャルロッテ お約束します。

 陛下をお助けすると。私の全てをかけて」


エリザベートは修道女の両手のしっかり握り自分にも言い聞かせる様に伝えた。


シャルロッテはルードヴィヒの約束を果たせなかったけれど後悔はしていなかった。

そしてエリザベートはルードヴィヒを救える女神ディアだと思った心の底から。



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