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I am Aegis / Origin 最終章  作者: アジフライ
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第39話【氷と炎の願い】

「……う……ん……」

あれ……私は……

エルはベッドの上で目を覚ました。

そこは宿の部屋だった。

私……確かベヒーモスと戦って……まさか……!

エルは慌てて起き上がる。

するとそこに

「目を覚ましたか……エル……」

シュラスが部屋に入ってきた。

「シュラスさん……私……まさか私……! 」

エルは再び自分が暴走したのではないかとシュラスに聞こうとする。

「案ずるな……ただ疲れ果てて気絶していただけだ」

シュラスは冷静に事の顛末を話し出す。

エルがベヒーモスを倒し、 ギルディレイアが死んだあと、 その騒ぎを目撃していたティタルの兵士が駆け付け、 二人を街まで送ったのだ。

エルは疲労で気絶してしまい、 シュラスが負ぶってここまで来たという。

そうだったんだ……良かった……また暴走しなくて……

エルは一先ず安心する。

そして気付く

「……あれ……という事はここは……」

「無論……ここはティタルだ……」

そう言われるとエルはベッドから飛び起き、 窓を開ける。

「わぁぁ……! ここがティタル……! 」

そこに広がっていたのはオアシスの湖を中心に囲う街の風景だった。

家は全て砂岩で出来ており、 街を歩く人々は普段見る服とは異なる見た目の服を身に着けており、 どんな街よりも活気に満ち溢れている。

凄い……本当にオアシスを中心に街が出来てる! 街から漂う匂いも他の街とは全然違う!

エルは街の風景に見惚れていると

「さぁ……行くぞ、 これから行かねばならない場所がある」

「え、 あ、 はい! 」

シュラスは早々にエルを部屋から連れ出し、 どこかへ向かった。

街を歩いている間、 エルは街の風景を堪能した。

……ここがティタルかぁ……普通なら行く事は困難な街……屋台に売ってる品物も見たことが無いものばかり……

「エル……はぐれるなよ」

「あ、 はい! 」

そういえばシュラスさん……どこに向かってるんだろう。

シュラスの目的地が気になったエルはシュラスに聞いた。

「シュラスさん、 これからどこへ? 」

「……お前にとって大事な事を教えてもらう場所だ……昔から太陽の大精霊と強い繋がりを持つ者がいる……」

太陽の大精霊様と強い繋がりを持つ人……誰だろう……

全く見当が付かないエルはただシュラスに付いて行く事しか出来なかった。

そして……

「……ここって……教会ですか? 」

着いた先にあったのは小さな教会だった。

「そうだ……ここに俺の知人がいる……さっさと行くぞ……」

そう言ってシュラスはエルを連れて協会へ入っていった。

…………

教会の中は至ってシンプルな作りだった。

前方に見えるステンドグラスには太陽の大精霊らしき絵が描かれていた。

綺麗……あの絵は太陽の大精霊様かな……

エルは興味津々に辺りを見渡していると

「あぁ……来たのですね……何とも神々しい……」

一人のシスターが声を掛けてきた。

黄金の髪に琥珀色の瞳をしている。

その顔立ちはとても穏やかで、 優しくエルを見つめていた。

するとシスターはエルの前に跪く。

「この時をずっと待っていました……氷炎の魔導士様……大賢者の双子の魂をその身に宿せしお方……」

「え……え……何……? 」

エルが困惑するとシュラスはため息をつく。

「おい、 説明しないと混乱するだろう……シェラ」

そう言われるとシスターは我に返り、 エルに謝罪する。

「これは失礼致しました……私はこの教会の管理者のシェラ・ルディナと申します……この街、 ティタルの領主でもあります……」

「初めまして……私はエルと言います……えっと……」

「ここでの立ち話は何ですから……どうぞこちらへ……」

エルが何か聞こうとする前にシェラは教会の奥へと案内した。

そこはシェラの書斎だった。

そしてシェラは二人を椅子に座らせ、 準備していたお茶を出す。

「……願い通りエルを連れてきたぞ……早めに済ませろ」

シュラスはそう言うとお茶を飲む。

するとシェラはエルの前に座り、 話を始めた。

「さて……お疲れなところを急な呼び出しをしてしまい申し訳ありません……どうしても貴女に伝えなくてはならない伝言を預かっておりまして……」

「伝……言……? 」

「はい……太陽の大精霊様からです……」

何と、 シェラは伝説の太陽の大精霊から伝言を預かっていると言い出したのだ。

大精霊様が……私に伝言……? ……にわかには信じ難いけど……何だろう……不思議と信じちゃう……

エルは不思議にも疑うことも無く、 シェラの話を聞く。

その内容とは

「『炎と氷の神の力……目覚めの兆し在り……魔神を討てるは……氷炎の英雄のみ……』太陽の大精霊様は私にそう告げました……」

「魔神を討てるのは……氷炎の英雄……? それってまるで……! 」

そう、 それはまるで魔神が復活するのが必然的のような言い方だったのだ。

エルは混乱する。

そんな……それじゃ私達……結局間に合わないってこと……?

シェラは話を続ける。

「太陽の大精霊様はこの世界の未来を見据えるお方でもあります……姿は現しませんが……時にこうして……予言を伝えて下さるのです……この世界の運命に関わる予言を……」

「予言……という事は……魔神は復活してしまうということなんですか? 」

「……残念ながら……そういうことになりますね……ですが大精霊様は……同時にこうおっしゃっておりました……『できれば……その英雄に伝えて欲しい……この世界の過去を……その者の過去を……』と……」

そう言いながらシェラは席を立ち、 後ろにあった本棚に手を掛ける。

そこから取り出したのは一冊の古い本……そこに題名は書いておらず、 ただひたすらに汚れているだけの本だ。

シェラはその本を開くと語り出した。

その本に記された……世界の過去を……

「かつて……世界は黒い炎に包まれていました……人々は逃げ場所を失い……世界の淵にまで追いやられ……人類の殆どが絶滅したとされています……しかし、 そこに『希望』が地上へ降り立ったのです……初代勇者、 ロウディア……後に魔神戦争を始め、 世界に絶望をもたらした魔の使徒、 『闇の一族』を滅ぼすべく戦い続けました……」

ここまでは……私が知ってる魔神戦争の伝説だ……まだ先があるのかな……

エルはその話に聞き入った。

「そして彼には三人の戦友がいました……その内の一人は『紅月の夜』……シュラス様……」

やっぱり……シュラスさんは魔神戦争の時代に勇者様と一緒に戦っていたんだ……

エルはシュラスの過去を知る。

シェラは話を続ける。

「そしてもう二人は……双子の魔法使いでした……その二人が使う魔法は……『悪魔を焼く聖なる炎』……『全ての魔を封ずる封印の氷』……それは神の力にも匹敵するものだったそうです……」

「その力が……私の中に……? 」

「そうです……そして……その双子の魔導士様は魔神との戦いでお亡くなりになられたと伝えられています……しかし……その際、 二人はある願いを語っていたそうです……」

その願いとは……

「『どうか……心優しき魂に……我らの力を……そして……世界に真なる『希望』を……』と……」

心優しき魂……真なる『希望』……その魂が……私だったってこと……?

エルはその言葉にあらゆる疑問が浮かぶ……

「何故それが私だったんですか? ……それに真なる『希望』って……私に……そんな大きな事……」

エルの様子にシェラは言う。

「あなたにその双子の力が宿ったのは間違いありません……何故あなたを選んだのか……それは私にも知り得ません……ですが恐らく……その双子の魔導士様は……あなたの『心』に希望を見出したのだと思います……再びこの世界に魔神が現れた時、 世界に『平和』をもたらす希望を……だって……」

するとシェラはエルの顔に手を添える。




「あなたは本当に……優しい目をしておられますから……」




……私が……希望……

「でも……まだ私……力を操れる程の強さは……」

するとシェラ優しく微笑みながらエルに言った。

「英雄に強さも弱さも関係ありません……誰かを守りたいと思える『心』があるかです……」

誰かを守りたい……

そこでエルは初めて気付く。

そうか……私は……誰かを守れる『英雄』になりたかったんだ……

その時、 エルの中で完全に何かが断ち切られた感覚がした。

「……そうですね……ありがとうございます……私、 ようやく自分がしたい事を見つけた気がします」

その言葉を聞いたシェラは微笑む。

「私がしてあげられるのは伝えるだけ……あとはあなた次第です……」

「……話は終わったか? 」

横で二人のやり取りを聞いていたシュラスは話し掛けた。

「はい、 私ようやく大事なモノに気付けた気がします……」

エルがそう言うとシュラスは

「……そうか……」

ただそう言い、 席を立った。

「これで失礼する……お前の役目も終わったな……シェラ……」

「ありがとうございました……シェラさん……」

「はい……シュラス様も……エル様も……どうかご武運を……」

そしてエルとシュラスは教会を出て行った。

宿にて

二人は、 しばらくぶりの食事を取った。

ティタルの料理は独特で、 パンのような柔らかい生地を焼いた物に器に盛られたドロドロのスープのような料理だ。

……えっと……これ……どうやって食べるんだろう……

見たことも無い料理にエルは戸惑いながらシュラスの方を見る。

シュラスはパンのようなものをちぎり、 スープのようなものを付けながら食べている。

エルはそれを真似して食べる。

「……ッ! 」

美味しい……ちょっと辛いけど、 ふわふわのパンみたいな食感に加えてスパイシーな香りが口いっぱいに広がる……味わったことが無い味……!

エルは一口食べると目を輝かせながらパクパク食べ始める。

「気に入ったようだな……」

「ッ……はい……///」

するとシュラスはある話を始める。

「……エル……こうしてゆっくり話をする機会がこの先無いと思うから……この際、 お前に聞きたい事がある……」

「え……どうしたんですか? 」

シュラスは何時になく真剣な顔つきで話す。

「エル……お前はどうして旅を始めた……」

それは以前、 エルと出会ったばかりの頃にされた質問……『何故冒険者を志したのか』と同じ意味が込められていた……

当時の彼女の答えは『魔物に苦しむ人々を助けたい』だった……だが……

それは彼女の本心ではなかった……それをシュラスは分かっていたのだ……

こうして共に旅を重ねた今、 シュラスはもう一度エルにその質問をしたのだ。

するとエルは目の前の料理を完食し、 答えた。

「魔物に苦しむ人々を助けたい……前はそんな事言ってましたっけ……確かにそれも本音の一つでした……でも……それ以上に私……ずっとあの人の元で過ごすのが……恐かったんです……誰にも恐れられることも無く……ただ平穏に一生を終える……そんな人生を送るのが……恐かったんです……この力を持った意味を知らずに死にたくない……そう思った時には、 私はあの人に旅に出たいと言っていました……」

エルはもう何も隠すことは無かった。

自身の力を知っても尚、 見捨てることが無かったシュラスを信頼していたから……

「……お前は勇気がある……自分の力に恐怖を抱きながらも……決して目を背けようとはしなかった……」

「……そうでしょうか……」

「だからこそ神霊達はお前にその力を与えたのかもしれない……心優しい一面を持ちながらも、 恐怖から逃げずに向き合う強さを持つお前だったから……」

「……」

エルはシュラスにそう言ってもらえて嬉しかった。

その言葉を聞くだけでも、 この旅を始めた事に意味があったと感じれた。

エルは自然と笑みがこぼれる。

「……さて、 話はここまでにしよう……明日はいよいよティルディールの隠れ家へ向かう……今の内に思う存分休め……」

そしてシュラスは先に席を立ち、 宿を後にした。

……遂に……か……もう魔神復活の未来は決まってしまっている……でも……それでもやれる事をやるしかない……

続く……


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