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I am Aegis / Origin 最終章  作者: アジフライ
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最終話【受け継がれ、 始まる物語】

前回の続き……

「いずれまた『影』は姿を現す……」

「……え……? 」

それは残酷な宣告だった。

どうして……

「でもシュラスさんは……あの『影』を消したって……もういないって……」

そう言うとシュラスはエルの目を見る。

「……あぁ……『俺の中』にはいない……今は散り散りとなり、 『闇の因子』としてこの世に存在する様々な世界線を脅かす概念として溶け込んでしまった……今回の件で『この世』における俺という『存在』にあまりに負担が掛かり過ぎた……もう……俺の手で奴を消すことはできない……『闇の因子』の根源はいずれこの世で散り散りになった欠片を集め、 また『全て』を消そうと現れる……そうなれば……この剣を扱える者がいなければ……もう手段はない……」

「……そんな……シュラスさんの力で何とか……」

シュラスは首を横に振る。

「これは『運命』……『時間』……『この世』に存在する『全て』を超える存在の話だ……もはやどう操作しようと避けられん……」

シュラスが言うに、 この世には無数の世界線が存在しており、 サイコロ一つを振るだけでも無限にその先の運命が枝分かれする程だそう。

シュラスはその枝分かれした運命を意図的に選別したり改変する事も出来るが、 それは影も同じ事。

彼が都合のいい運命を選んだとしても、 影はそれを自身にとって都合のいい運命へと改変して妨害する。

結果的にそれが原因で今回のような事態にまで発展してしまったそう。

その影を止める要となる存在があの剣なのだ。

シュラスとフィーラの両方の力を持つその剣は影の力による存在消滅の力に耐性があり、 加えて文字通り『全て』を断ち切る可能性を有している。

故にあとはその力を引き出せる者さえ現れれば影を止めることが可能だという。


その話を聞いたエルはジーラに言われた事を思い出した。




『……自分には無理だとか出来ないだとか……そんな事言っている暇があるなら……自分の心に従え』




そうですよね……親友を止めるために自らを犠牲にした貴方が言うんです……私も見習います……ジーラさん……

そしてエルは何か決意した様子でシュラスに言った。

「シュラスさん、 私……その『闇の因子』の根源となる影を……何とかしたいです……」

するとシュラスは驚いた様子を見せる。

「自ら修羅の『運命』を歩むと言うのか……それは俺と戦う事と同じなんだぞ……? 」

そう、 シュラスの中にいた影と対峙するという事は『完全なる存在の消滅』の危険がある領域に踏み入れるという事。

ただの人間であり、 ましてやシュラスの剣に選ばれた者ではないエルがその道へ進むのは無謀の他ならない……

しかし、 エルはそんな危険に対する恐怖心よりも、 ある想いがあった……

「……分かってます……でも……私は自身の存在が消えてしまうよりも……」




「シュラスさんが愛した『この世』が消えてしまう方が……もっと嫌ですから……」




今まで助けられっぱなしだった私でも……少しでもシュラスさんに恩返しをしたい……

エルはシュラスを愛していた……決して釣り合わない恋だというのは彼女自身がよく分かっていた……しかし、 エルはそれでも自分の心に従った……

エルの覚悟を理解した時、 シュラスは少し悲しげな表情を浮かべる……

「意志は……変わらないんだな……」

「……はい、 どうか……私に貴方の助けをさせて下さい……」

「……分かった……」

そしてシュラスは意を決した様子でエルの頭に触れた。

「……運命は選ばれた……お前の魂は……この剣に選ばれる人間を見つけ、 守る生涯を繰り返すようにした……同時に剣が影の力からお前の道を守ってくれるだろう……」

「……ありがとうございます……」

「……不思議だ……お前と過ごした時間は……俺にとっては一瞬にも満たない筈なのに……とても長く……幸せな時間に感じられた……」

……シュラスさん……

シュラスもいつの間にかエル達と過ごした日々に幸福を感じていた……それが彼にとっては一瞬にも満たない時でも……

途方も無い旅の中でも変わる事の無かった運命……それをエルという人間が変えてくれた……

『この世』の絶対たる存在がたった一人の人間に感謝していた……

そしてシュラスは段々黒い霧のようなものに包まれていく……

「……時間が無い……最後にこの剣を……」

そう言いながらシュラスは剣を手に取ろうとする……しかし、 シュラスは一瞬動きを止めた……

「……エル……本当にいいのか……? 」

シュラスは今までに無くエルを心配している様子だった……

「……はい……これでいいんです……それでこの世が救われるなら……」

……もう、 未来への希望はこれしか無いから……

するとシュラスはエルの顔に手を添える……

……シュラスさんの手……温かい……

これがエルが最後に憶えるシュラスとの記憶だった……

そしてシュラスは剣を手に取り……




その剣をエルに渡した……




「……お前の運命に対するその覚悟……俺は忘れない……この剣を……頼んだぞ……」

こうして……絶対と呼ばれし者の手から人の手に……名も無き『(きぼう)』が受け継がれた……

「……任せて下さい……例えこの身が滅びても……私はあなたとの約束を守ります……」

「……お前のような強い人間はそういない……お前と会えて……本当に良かったと思える……」

最後にシュラスはそう言うと黒い霧のようなものになり、 エルの前から姿を消した……

シュラスが姿を消した後、 エルは空を見上げた……

見上げた拍子にエルのローブの頭部分が取れる。

エルの髪は風に靡く……

それはまるで静かに燃える赤い炎のようだった……

眼からは涙が溢れ、 瞳は見上げる青空をよりはっきりと映していた……

エルはいつの間にか泣いていた……

しばらく泣いた後、 エルは涙を拭い

「……この剣は私が守ります……そして受け継ぐべき者へ……」

そう言うとエルは剣をぎゅっと握りしめ、 空に向けて青い火の粉を飛ばした……

それは彼女の寂しい想いを込めた、 愛する者へ送る花のようだった……

十年後……

エルとルーミはすっかり大人になっていた。

「オラァ野郎共! ! のろのろしてっと嵐が来るぞ! ! しっかり働けぇ! ! 」

『アイアイサー! ! 』

フェミルが船員達に指示を出す。

そんな中、 ルーミは甲板にある荷物の上で昼寝をしていた。

すると……

「おいバカ姉貴! 寝てる暇あるんなら私を手伝いやがれ! 私とお前意外優秀な航海士がいねぇんだから! 」

フェミルが怒鳴りながらルーミの耳を引っ張り、 船内へ引きずっていく。

「あぁぁぁ~!耳がぁぁぁ! 耳がもげるからやめてぇぇぇ! ! 」

ルーミは悶絶する。

「船長の姉御も大変っすね……」

船員一同はそんな二人を見てそんな事を呟いた。

…………

ルーミは十年前から変わらず、 フェミルと共に海を渡り、 最強の海賊団として名を馳せるまでになっていた。

また、 時には様々な街を巡っては悪人を取り締まる仕事もしているそう……

そしてエルは『氷炎の英雄』という二つ名で世界を魔神から救った英雄として人々から崇められ、 今では一人の弟子を持つ師匠をしながら冒険者活動をしている。

二人はあの時から会う事は無くなってしまったものの、 たまに手紙でやり取りをしている。

…………

「……フフッ……相変わらずだなぁ……ルーミちゃん……」

グラスの喫茶店にて、 エルはルーミからの手紙を読んでいた。

グラスは相変わらず仕事に専念しており、 エルとはたまに夜の喫茶店で話をする仲になっていた……

考えてみれば……私達、 もうすっかり大人になっちゃったなぁ……ルーミちゃんなんかもう好きな人と結婚して子供まで出来ちゃったみたいだし……私も早く見つかるといいなぁ、 運命の人……

そんな事を考えているとエルの元に一人の少年が駆け寄ってきた。

「師匠、 早く冒険に行きましょう! 」

その少年はエルの弟子だった。

そして少年の名は……

「そうだね……ちょっと行きたい場所があるからそこに寄ってから行こうか……」




『アルゲル……』




そしてエルは少年を連れてシュラスから教わった転移の魔法である場所へ移動した……

…………

とある場所……

そこは遠くにカルスターラの街が見える高い崖の上だった。

「アルゲルはここで待ってて……」

「早くお願いしますね! もう待ちきれませんよ! 」

「フフッ、 相変わらず元気だね……」

そう言うとエルはアルゲルを置いて崖際まで歩いて行く。

その場所はあの頃、 シュラスから剣を受け継ぎ、 別れた場所だった。

……あの頃から……思い出すのが怖くて行ってなかったけど……いつまでも逃げてられないからね……

そしてエルは遠目に街が見える場所まで来るとおもむろにポシェットを開き、 何かを取り出した。

それはあの時託された剣だった。

エルはその剣をじっと眺めながら呟き始めた……

「……シュラスさん……あれからもう十年が経ちました……私達はすっかり大人になって、 今じゃルーミちゃんは世界最強の海賊……私は世界を救った英雄で……もうすっかり変わってしまいました……」

エルは遠くを眺める……

「……ただ、 例え全てが変わったとしても……あなたとの約束は絶対に守ります……まだこの剣を受け継ぐ人は見つかっていませんが……この先きっと見つかると、 私は信じています……私の魂が果たすべき運命を果たしたその時には……その時には……」


「また……あなたに会いたいです……」


その瞬間、 エルは思わず涙を溢した。

駄目だ……思い出すと……涙が……

「……シュラスさん……今すぐにでも……あなたに会いたいです……ッ! 」

エルは寂しさで胸を締め付けられる感覚に襲われた。

寂しい……やっぱり寂しいよ……駄目……こんなじゃ……シュラスさんとの約束を……

エルは泣き叫びたい気持ちをぐっと堪えていると……

「……! 」

突然エルの背後から風が吹いてきた。

その風からは何故だかあの頃、 エルの顔に触れたシュラスの手の感触を覚えた……

その瞬間、 エルは思わず微笑む。

「……そうでしたね……あなたはこの世そのもの……例え私がどこに行っても……あなたはずっと側で見守ってくれている……」

そう呟くとエルは涙を拭う。

するとエルは何を思ったのか、 剣を地面に突き立てる。

「……もし……この一生で後継者が見つからなかったら……どうか……待っていて下さい……」

……シュラスさんの剣は……選んだ者にしか持つ事は許されない……だから盗まれる心配は無いだろうし……自ずと後継者は見つかるかもしれない……私は最近、 危険な依頼ばかりを受け持っているし……もう……いつ死んでしまってもおかしくない……アルゲルも……私の知りうる知識を教えたら、 後はカルミスさんに……

エルの世界を救った英雄と言う評判は必ずしもいい事ばかりを生む訳ではなかった、 近頃は新たな魔王の誕生による魔物達の活性化により、 エルは命の危険のある戦地へ駆り出されることが増えてきていた。

そのせいもあって最近、 エルは大けがしてしまい、 かつての神の力も衰えてきている。

そして今日、 エルは自分では剣を守るのに限界が近づいていると悟り、 彼の地に剣を置いて行くことにしたのだ。

「……どうか、 ここへ置いて行ってしまう事を……許して下さい……私は、 必ずまた貴方の前に現れると誓います……例え、 全てを忘れてしまったとしても……」

『師匠ーー! ! まだですかーー! 』

エルが突き立てられた剣の前で誓いを立てていると遠くから少年の声がする。

「……フフ……では……またいつか……」

そう言うとエルは立ち上がり、 少年のいる方へ歩いて行った。

それから……幾千もの時を越え……

「……」

彼の地に……一人の女性が歩いてきた。

その髪は白刃の如く煌めいており、 顔には何も飾られていない真っ白な仮面を着けていた。

そしてその女性が立ち止まった場所には……

「……これが……かつて覇神が使っていたという……名無しの剣……」

エルが突き立てた剣がそのままの状態で残されていた……

「……不思議だ……初めて見るはずなのに……妙に懐かしく感じる……」

そう言うと謎の女性は剣に触れる。

すると彼女は動きを止める。


「……そうか……私が生まれた意味は……」


しばらく固まった彼女はふと呟く。

そして彼女は後ろを振り向き、 仮面を取った。

その瞳は炎のように赤く、 力強い眼差しは誰もが勇気を貰う程だった。

彼女の視線の先にいたのは一人の男だ。

「……何か見つけたのか……? 」

男は彼女に聞く。

「あぁ……やっと解った……私のすべき事が……」




そう言うと彼女は地面から剣を引き抜いた。




この先……闇に呑まれた存在に挑み……敗れ去る運命にある剣の守り人……『ダイア』……


そしていずれ、 剣に選ばれる運命にある英雄に剣を託し……この世の全てを救う英雄伝を紡ぐ者の一人となる……


……例え影が世界を覆い隠そうとも……そこには必ず光はある……


しかし忘れないで欲しい……全ての影は悪に在らず……光があるからこそ影が在り……影があるからこそ光が在ると……


……この世の誰かが言った……


『英雄』とは光に在る者の事ではない……力を持つ者でも……勝つ者の事でもない……誰かを守りたい……誰かを救いたい……そう思える『心』が……その者を『英雄』にすると……


……英雄よ……希望となれ……




……そして……紡ぐ者へ…………




……紡く(つづく)……

ここまで読んで頂きありがとうございました。

I am Aegis Origin はこれにて完結となります。

正直、I am Aegis に残されていた伏線を全て回収するのはとても難しかったです(汗

まだまだI am Aegis シリーズの中で明かされていない物語も残されています。

なので、後にそれらを外伝として投稿しようかとも考えております。

もしよろしければそちらの方も読んで頂けたら幸いです。

それでは改めまして、ここまで読んでくれた読者の皆様

本当にありがとうございました。

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