第二話:出会い
屋敷を出て十日。私達兄妹は、順調に旅を続けている。
「あと一息で、大カロン山を越えられるね。お昼は山越えの後にしようか」
「そうだね。だいぶん降りて来たから、もう竜の心配はないだろうけど。それが良いだろうね」
「竜……。遠くから、一目だけでも見てみたいなあ……」
「馬鹿な事を言うものじゃないよ」
「そうだよ。女性転移者は竜を騎獣にしていたそうだが、竜は普通、人に懐かないんだからね」
「見るだけだってば!」
魔物が出たので、何度か戦闘を熟した。習うだけだった魔法を使い、地にいる魔物と戦うのでさえ危険だと、身を持って知った。
だから、竜を間近で見たいとは思わない。遠くから、その姿が見られれば満足だわ。
「あ! 兄様! 兄様! タコアシハナハナネズミよ!」
鼻が蛸の足みたいになっている、大カロン山周辺にしか生息していないネズミ! 滅多に見られない生き物の一つに、つい大きな声が出てしまう。
「残念。見逃した……」
「私も、見逃した……」
「兄様達って、グランドツアーに出てから運が無いわね」
兄様達は、動かない系の植物なら、流石に見れている。逆に動き回る、珍しい生き物はさっぱり見れていないのよね。
こういうのを『日頃の行い』って言うのだったかしら?
シュシェーナ王国側の国境の砦に着き、入国手続きを済ませる。
「さあ! お昼ご飯にしましょ! 刺シ身が食べられる町って、多分あれでしょ? お昼は刺シ身にしましょ!」
シュシェーナ王国では、刺シ身という生魚料理が名物の一つ。これは食べなければね!
「ええー……。食べるのかい?」
「生魚だよ? ちょっとね……」
「兄様達は、焼いたのとか煮たのとか食べれば良いじゃない。私は刺シ身を食べるけど」
「やれやれ……。レーテは『花より団子』だね」
「まあ、まだレーテは十六なんだから。それは別に、まだ良いじゃないか」
それは仕方ないじゃない。我が国では、貴族の婦女子は学校へは通えない。屋敷で、家庭教師から勉強を教わる。身近にいる若い男性となると、執事見習いや若い見習い領兵。家臣や家来に、恋心なんて芽生えないもの。だから、知らない恋より、未知なる美味しい物に心がひかれるのよ。
◇
「着いたわーっ! お刺シ身ーっ」
「分かっているよ。食事をしたら、ギルドで護衛依頼を出さないと」
「護衛が見付かるまでこの町にいるから。刺シ身は食べられるよ」
……くすっ。
ん? 何? 誰か笑ったのかしら? 確かに、ちょっとはしゃぎ過ぎていたものね。
私達は、笑った人の気配のした方へ首を回らす。そこには、私達と同年代か少し年上と思われる、精悍な顔立ちの男性がいた。
馬上にあっても、高身長だろう事が分かる。体付きも程よくがっしりしているのは、腰に帯びた剣の練習でかしら?
顔立ちは、我が国の人っぽいかしら。明るい金の髪に、澄んだ若葉色の瞳。上品な笑顔が、とても似合う方だわ。
「すまない。聞く心算はなかったんだが、声が大きくて会話が聞こえて来てしまって」
「こちらこそ、道の真ん中ですまない」
「気にしないで。あれだけ大きな声を出していれば、会話が聞こえて当たり前だから」
「す、すみません……っ」
年頃の娘が大きな声で話していて、それも食べ物の話をしていたのが流石に恥しく、真っ赤になってしまった。
「いや。こちらこそ、失礼をした。私も今からお昼を摂るんだ。さっきのお詫びに、美味しいと評判の海鮮料理の店に案内しよう。どうかな?」
「それは有難い」
「今、この町に着いたばかりだから、案内してもらえるなら嬉しいな」
「お願いします」
「ああ、喜んで。少し先だ」
これが私と、未来の旦那さまとの出会いだった。
お読み下さって有難うございます。
お楽しみ頂けましたら幸いです。
面白かった、良かったなど、お気楽に下の
☆☆☆☆☆
にて、★1から★5で評価して下さいね。
いいね!も、宜しくお願いします。
続きが気になった方は、ブックマークして下さるとすっごく嬉しいです!
感想や応援メッセージもお待ちしています。