リュミエール
コトコト、カチャカチャ、コトン
「…出来た!」そう言った少年の目に映っているのは、小さな、小さな白い鳥でした。少年は“天使”という仕事に就いて初めて、小さな命を生み出したのです。「おお、リュミエール!やっと出来たのか!…良かったな!」その声の持ち主はリュミエールとは違う雰囲気を放っているも、やはり少年でした。そして、この少年は“神様”という天使より忙しい仕事をしていました。名前は…ありませんでした。「その鳥は、下の世界におとしてしまうのか?」「いえ、私の相棒にできたら良いなと、考えています!」神様に聞かれたリュミエールは、元気いっぱいに答えました。
次の日、リュミエールは白い鳥の名前を考えることにしました。(この子にはどんなときでも生き生きと、明るい人生をおくって欲しいから…ヴィヴォン)「ヴィヴォンだ!君の名前は…ヴィヴォンだよ!」そう伝えた瞬間、ヴィヴォンは、白い色から、暖かい陽の色に変わりました。そして、嬉しそうに飛び回りました。
「ヴィヴォン、この手紙を神様へ届けておくれ」ヴィヴォンを作ったときから一年がたった頃、すでにヴィヴォンは大人といっていいほど大きくなっていました。ヴィヴォンはその大きい体をうまく使って手紙を咥え、飛んでいきました。(ヴィヴォンは成長するのが極度に早い。神様に聞いて、もっと長生き出来るようにしてもらおう。)そう考えておくった手紙は、二時間後に返事が届きました。
ーリュミエールへ
こんにちは、君から手紙が届くのは久しぶりだね。嬉しいよ。それで、ヴィヴォンの成長速度が速いと言うのは、もしかしたら…君がヴィヴォンを作ったとき、作る過程を間違えたがらなのかもしれない。先に中身を組み立ててから毛で包んだりとか…しなかったかい?初心者はよくやってしまうんだが…もしやってしまったなら、ヴィヴォンの寿命はあと長くて一年だよ。その、言いづらいんだが…寿命を長めることはできない。それを覚えていてくれ。ー
たしかに、それには身に覚えがありました。(そ、そんな…それじゃあヴィヴォンは…本当にあと一年しか…!)咄嗟にヴィヴォンの方を向くと、そこには元気としか形容できないほどの暖かい塊がありました。
(もうそろそろ一年がたつのか…)その頃、ヴィヴォンにはすっかり元気が無く、空へ飛ぶことも困難になっていました。ヴィヴォンの方を見てみると、やはり元気が無いようでした。
次の日、ヴィヴォンの気配がしないので、探すことにしました。想像していたより速く見つかりました。…白い死体で。(…!)「…ヴィヴォン…?…ヴィヴォン!ヴィヴォン!しっかりしろ!ヴィヴォン!俺には、お前がいないと…!頼む!ヴィヴォン!」リュミエールはそう叫び続けました。しかし、ヴィヴォンはやはりぴくりとも動きません。苦しくなって、熱いものが、目から溢れ出てきました。と、その時。涙が陽のあの色に染まりました。そして、ヴィヴォンの体に、ぽつりと落ちました。(…え、?)ふわぁっと、暖かい光があたりを包み込み、ヴィヴォンを浮かしました。次の瞬間、ヴィヴォンの目がパチリと開き、じわぁっとあの陽の色で染まりました。そして、“飛び回りました”リュミエールは、すっかり涙が枯れて赤くなっている目を見開きました。目を擦ってみても、やはり目の前にいるヴィヴォンの姿は消えません。(嘘…だろ…?)「リュミエール、大丈夫、これは現実だ。ヴィヴォンは生きているよ。」「神…様?」リュミエールののどからは、そんなかすれ声しか出ませんでした。「ああ、あえて嬉しいよ。リュミエール」神様の顔には、まるで全てが思い通りだとでも言うような、優しい顔がありました。「安心してくれ。今、“ヴィヴォンはリュミエールの命が絶えるまで元気でいる。”というまじないをかけたから。」そんな神様の言葉を充分に理解するには時間がかかりましたが、それでもヴィヴォンが元気なことを見て、(ああ、なるほど)と、理解できました。もっとも、半分夢の中にいるような感覚でしたが。
そんなことがあってから五年後、リュミエールは神様ともっとも近いところで働ける“陽天使”という仕事に就きました。そして、今でもヴィヴォンと一緒に、ガラス細工のように綺麗な鳥を、この世界に生み出しているそうです。