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もう会えない

ヴァレリアは愛用の杖を手にしたまま、ぼんやりとしていた。


弟子にさっさとサーバントを作れと急かされたのだが、やる気が起きない。

素材となる石材や鉱石は勇者に運んでもらったので、準備はすっかりできている。

全然やる気は起きないが、何もしていないと弟子がうるさそうだと思って、ヴァレリアは嫌々ながら杖を掲げた。


術をかけるために石材を見ていると、「これを全部運ぶのですか?」と言って顔を引きつらせていた勇者のことが思い出された。

「そうか。お前では無理か。すまんな」と謝って、弟子が帰ってきたらやらせると言ったのに、なんだかんだで全部運んでくれたのだ。

「(怪我が治っていなかったくせに馬鹿だよなぁ)」

無理をしたせいで傷口が開いて血が滲んでいたから気がついた。


「(あんな怪我をした奴に、こんな仕事をやらせたなんてバレたら、何を言われるかわかったもんじゃない)」

あのときは慌てて回復魔法をかけて直してやったが、たまたま見つけた傷以外にもあちこち悪いところを隠していたから大変だった。

一度全身を診察するから脱げと言ったら、猛烈に抵抗されたのだ。いい歳をした男が、小娘じゃあるまいしと脅して、むりやり健康診断をして全部治してやったが、些細なことでいちいち恥じらわれるせいで、こちらまで妙な気分になって、どうにもやりにくかった。

「(血液検査や尿検査の概念がないのに、検査試料を提出しろと言われたら、そりゃぁ目を剥きたくなる気持ちはわからんでもないが、内臓を診るから管を突っ込むといっただけで、あんなこの世の終わりみたいな顔をされても困るよな)」


そういえば、触診するとき、押し殺した妙に色気のある声を出されるのにも閉口した。こちらは医者としてやっているのに、あれではまるで押し倒して襲ったみたいではないか。

むず痒いような気恥ずかしい思いを思い出しながら、サーバント作成の術をかけ終わったヴァレリアは、出来上がったサーバントのボディを見て呻いた。


「ヴァレさん。なんですか?このサーバント……以前と比べて、随分、人間の造形に寄せて造りましたね」

「人間用の道具を使って作業させるなら、人間の身体に似せたほうがいいと、この前のプロジェクトでわかったからな」

ヴァレリアは弟子と視線を合わさないようにそっぽを向いたまま、素っ気なく答えた。


「というか、コレ……勇者さんに似せました?」

デリカシーの足りない弟子は、言ってほしくないことをズバリとヴァレリアに尋ねた。

ヴァレリアのうなじがみるみる赤くなった。

「仕方ないだろう!このところ間近で見ていた人間が奴だったから、造形イメージが引っ張られたんだよ」

「えらく生々しいイメージですが、どうして胸板だの腹筋だのこんなにリアルなんです?そんなにしげしげと見たんですか」

サーバントのボディをぺちぺち叩きながら、都合の悪いことを容赦なく突っ込む弟子を、ヴァレリアは恨めしげに見上げた。

「鎧の次世代強化パーツ開発の試作機の被験体になってもらったときにデータを取ったから細部まで完全に頭に入ってる……」

「うわぁ」

彼は遠い目をした。


「師匠の身体計測(データ採取)は人間の尊厳をゴリゴリ削るから、普通の人相手にやっちゃダメですよ。あなた、羞恥心が浮世離れしてるからわからないでしょうが、あれは結構キツイですよ」

俺は賢者の健診でひどい目にあってなれてたから、諦めがついてましたけど、とこぼした弟子は、勇者が帰った方角に手を合わせた。

「なんか色々と手遅れだったみたいですが、ここでの忌まわしい体験はさっさと忘れて幸せになってください。エドワードさん」

「忌まわしい体験と言うな」

ヴァレリアは眉を寄せて口をへの字にした。

「少なくとも、ろくでもない罰ゲームでしょうが。まぁ、自業自得だし、こっちも迷惑を被ったんでおあいこですけど、若干、罰が過剰って感じですね。これに懲りてもう魔女だ魔王だというネタに振り回されずに、どこか田舎にでもこもって、好きな人と幸せに暮らせることをお祈りしましょう」


ヴァレリアは振り返って弟子の顔を見た。

「あいつ、好きな女がいるのか?」

「みたいですよ。言葉を濁してごまかしていましたけど、しがらみがなければ、どこか静かなところで二人で暮らしたい人はいるみたいなことを言っていました。どこかの貴族の娘さんかなんかでしょう。今のあの人の状況では正式にプロポーズはできないし、身分のある相手なら駆け落ちして平民暮らしを強要するのは、あの人は是としなさそうだ」

「だろうな……」

ヴァレリアは椅子に深く腰掛けて足を組んだ。

「どちらにせよ。二度と会うこともない男だ」


「いやぁ、このサーバント使うなら、毎日、顔を合わせるのも同然じゃありませんか?」

「造り直す!!」

ヴァレリアは無神経な弟子を部屋から追い出した。

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