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ショート ピロシキ

作者: 間の開く男

 町中を一台の自転車が走る。通行人をよけながら、裏道を駆使して指定の場所まで最短で届ける必要があった。

 環境の変化により店への客足がガクンと落ち、テイクアウトを開始するも「前に食ったよりも味が落ちた」と言われる始末。

 そう、環境に順応するべく俺は……出前を開始した。

 

 マンションの一階へとたどり着く。店から約5分……まだ背中は焼けるように熱い。

 エレベーターで昇るよりも速く、階段を駆け上る。

 

 熱い、背中でバウンドする風呂敷が燃えているのではないかと錯覚する。しかし、これは焼きたての熱い思いを伝える為に必要な熱なのだ。

 

 三階、息が切れ始める。自転車での移動は思ったよりも体力を消耗し、両太ももの筋肉が硬化し始める。しかし諦める訳には行かない。

 

 五階、このフロアの筈だ。502号室のドアを優しくノックする。

 

「はい、あ……どーも。わざわざ本人が届けてくれるとは」

「うちの揚げたてを届けたくてね、今日は出前初日だから張り切っちゃって」

 背中の風呂敷包みを広げ、小分け用の紙袋を手渡す。

 

「うわ、あっつ! これホントに揚げたてじゃないですか」

「そうなんだ、この湯気をそのまま伝えたくてね」

「そこまでさせるなんて……アンタのピロシキ愛……いや、プロ意識を受け取ったぜ」

「私の愛はこれくらいじゃ済みませんよ、ぜひ店の方にもいずれ」

 両手でキャッチボールをするように紙袋を左右させる男が大きく頷く。途中で諦めたのか近くの棚に置いたが。

「代金だ……受け取ってくれ」

 男が財布からこの国の最高額……一万円札を取り出して私に握らせた。

 

「じゃあお釣りを……」

「いや、良いんだ。この熱い思いを他のヤツにも……ロシアの味を求めている人たちに伝えてやってくれ。その為の投げ(エール)だと思って、納めてくれ」

「ま、毎度あり……!」



 自転車を漕ぐ。背中の熱さはもう気にならない。俺の思いが詰まったピロシキが、今日も街を駆け抜けてゆく。

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