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CASE2:その5

王都――東区。


 既に時刻は午前2時を過ぎており、辺りは静かだった。そこは、冒険者達が多く住んでいる集合住宅が立ち並ぶ区域にある、小さな公園だった。


「やっと……見付けましたよ――()()()()()


 ベンチに一人座っていた青年――タロスへと声が掛かる。公園の魔灯の淡い光の下から現れたのは赤い髪の男と、銀髪の女だった。


「お前らは――ギルドの」


 タロスがそう言って、魔導杖を抜いて立ち上がった。


「冒険者ギルドの保険調査員のレムレスとルーナです」

「……何の用だよ」

「いえ、アダムさんについて、数点聞きたい事がございまして」


 レムレスがそう言って嘘っぽい笑みを浮かべ、ルーナはその後ろで静かに佇んでいた。しかし彼女の右手は腰の剣の柄へと置かれている。


「……もううんざりなんだよ!! アダムアダムアダムと!! エヴァも!! お前らも!!」


 なぜか激昂するタロスを見て、レムレスが目を細めた。きっと彼は――なぜ自分達が現れたのかを察しているのだろう。


「だから……()()()()()()()、アダムさんを。エヴァさんの心を掴む為に……そうですよね?」

「っ!! 馬鹿なことを言うな! あれは誰が見ても自殺だ!!」

「そうではないと分かってしまったので、こうして我々が事情聴取しに来たのですよ。それに数点、分からないところがありますからね」


 タロスが杖をレムレスへと向けた。ルーナが動こうとするが、レムレスがそれを手を挙げて制止する。そして懐から煙草を取り出すと、ジッポウで火を付けた。


 紫煙が、ユラリと揺れた。


「落ち着いてください。我々は警察士ではない。貴方を断罪しに来たわけではありませんよ」

「だったら何を」

「いえ、お聞きしたいのは一つ、いや二つか。そう二つだけです。まず、タロスさん。貴方はどこで――()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 その言葉を聞いて、タロスがあからさまに動揺する。


「ご、ゴーレム!? 何の話だよ!」

「タロスさん、貴方はアダムさんと共に14時頃にラクレスに移動すると、アダムさんを殺害。おそらくは死因は頭部への一撃でしょうね。それ以外にその死因を隠せる部位はないですから。そうすれば落下死で頭が破壊されてしまえばバレない」


 レムレスの推論が続く。


「貴方はアダムさんを殺害すると、その頭に令珠を埋め込んだ。そしてアダムさんを悪名高い()()()()()()()()()()()()()()。あとは簡単だ。令珠に魔力によって命令を刻み込む。その命令はおそらくは単純な移動ポイントの指定でしょうね。貴方は、ゴーレムと化したアダムさんを、とある時刻になったらとある場所へと移動するように命令した。それは――塔の頂上から()()()()()()()()()()()()()


 それが、ルーナが思い付きそしてレムレスが補強した推論であり、結論だった。死霊術では不可能だった動きも――ゴーレムなら可能なのだ。


 ゴーレムならば、一度命令を刻みさえすれば、あとは放っておいても勝手に動いてくれる。更に死霊術と違い、命令に幅を持たせればとっさの自体にも対応出来る、例えば塔まで移動する間に多少のトラブルがあっても、死霊術よりもずっと成功する確率が高い。


 レムレスが言葉を続ける。


「そうしてアダムさんはその命令に従いその時刻になると塔を目指し、ひとりでに歩き始める。そして塔の裏口を破壊し中に入ると、階段を昇っていく。ここも、螺旋階段という構造を利用して、壁伝いに移動するようにとでも指定したのでしょうか。そういう跡が階段の壁に残っていましたからね。そして塔の頂上へと辿り着いたアダムさんは当然指定ポイントである場所へと足を踏みだした――そこが足場のない空とも知らずに」


 アダムが飛び降りる際に全く躊躇しなかった理由はこれだった。


 するわけがない。なぜならアダムはもうその時には既に、タロスの操り人形だったのだから。


「くくく……ははは!! 何を言い出すかと思えば。妄想も大概にしろ! 俺は知っているぞ? もし仮にそうだったら死亡推定時刻がおかしい事になるだろうが! それに、その令珠とやらは何処にいった!?」


 タロスの言う事はもっともだった。もし仮にレムレスが言った通りであれば、死亡推定時刻がズレ、さらに死体から令珠が見付かるはずなのだ。


「いえいえ……だから言ったではないですか。アダムさんを――フレッシュゴーレムにしたと。フレッシュゴーレムは令珠を埋め込まれた時点で腐敗は止まるんですよ。当たり前ですよね。腐ってしまってはフレッシュゴーレム本来の用途からすると少々……使()()()()()()()

「じゃあその令珠は何処にいったの!?」

「アダムさんが飛び降りた際……真っ先に駆け寄ったのが貴方とエヴァさんだったそうですね」

「……それは」

「あの高さから硬い地面に落ちたら当然人間の頭部などいとも簡単に破裂するでしょう。そして貴方達は錯乱して、飛び散ったアダムさんの頭部や四肢を集めたとか。タロスさん、貴方、実は錯乱しているフリをして……この時にひっそりと()()()()()()()()()のではないですか? 頭部に埋め込まれた令珠が壊れない事はおそらく前もって知っていたのでしょう。だから真っ先に駆け寄って密かに回収した」

「全部推測だ……憶測だ!」 


 タロスが吼えた。それに対し、レムレスは白い煙を口から吐くだけだ。


「犯行に使用した令珠。まだ持っているんじゃないんですか? 往々にして殺人事件を起こした素人は証拠品を中々捨てられないんですよ。もしくは捨ててもまた自らで回収してしまう。タロスさん、今頃貴方の部屋に、警察士とギルドの情報部が押し入っているでしょうね」

「……馬鹿が。仮にそうだったとしてもそんな所にあるわけないだろ!!」


 タロスが顔を歪ませた。その表情を見て、レムレスは悲しくなった。もしかしたら、と思っていたことが全て当たってしまう……そんな悲しさだ。


「そうですか。つまり……今、()()()()()()()()()()()()という事ですね」

「さあな! 話はそれだけか!?」

「先ほども言いましたが……我々は警察士ではありません。よって証拠品を押収しようとも思いません。ただ一点、伝えないといけないことが」

「なんだよ」


 レムレスはそれを言ってしまうと取り返しがつかなることは重々承知だった。


 だが、言わなかったところで……結果は同じだ。


「この件については、当然再調査の結果として全てエヴァさんにお話します。勿論、確たる証拠はありません。なので彼女がこれを信じるか信じないかは分かりません。ですが……」


 レムレスがそこまで言った瞬間――タロスが地面を蹴った。その顔には怒りや嫉妬、その他諸々の感情が渦巻いている。


 ルーナがレムレスを守ろうと飛びだそうとするが、レムレスはなぜか肌が粟立つような感覚に襲われた。


 それは、久々に感じる――濃厚な死の予感だった。


「っ!!」


 その動きをした理由はなかった。ただ、その場に立っていたくなかった、それだけだ。だからその勘だけを信じて、レムレスは飛び出そうとするルーナを抱き抱えて、横へと飛んだ。


 銀閃がレムレス達とタロスの間できらめく。


「……あれ?」


 タロスがそう言ったと同時に、彼の足首が切断され地面へと倒れた。そしてその状況がなんなのか理解する暇もなく――首が飛んだ。


 銀閃に朱が加わり、ヒュンヒュンという、風を斬るような音だけが公園に響いた。


「先輩!」

「大丈夫だ……」


 ルーナを抱えたまま飛んだレムレスが立ち上がった。ルーナが剣を抜き、周囲を警戒する。


「今のは……なんですか。なんでタロスさんが死んだんですか!」


 ルーナの言葉にレムレスは答えない。


 だがそれに対する返答が、形を伴って暗い闇の中から現れた。


「今の避けるとは……いやいや流石は〝赤き死霊術士〟と言ったところか。Sランクの勘は鈍っていないようだ」


 それは青髪の青年だった。だが古典演劇でしか見ないような、黒い貴族服を身に纏っており、一見すると執事か何かのように見える。


 この青年は見て、レムレスとルーナが驚愕した。なぜなら――その顔が死んだはずの()()()()()()()()()()()からだ。


「お前は――何者だ。なぜ、タロスを殺害した」


 レムレスが慎重にそれぞれの立ち位置を確認しながらそう問うた。先ほどの攻撃。あれが魔術か武器による一撃かは不明だが、あまりに危険すぎる。だが、その裾からは血が滴る細い糸のような何かが吸い込まれていったのをレムレスは見ていた。


 あれが、おそらく凶器だ。


「僕の名は()()()()。なぜ殺したかというと、奴が約束を破ったからだ。いや、厳密に言えば破りそう……だったからか。訂正しよう」

「約束?」

「くくく……名探偵気取りの死霊術士の答え合わせに僕が付き合ってやろう。君の先ほどの推論には大きな穴がある。タロスは馬鹿だからそこに気付いていないけどね」


 そう言って、それこそまるで喜劇役者のようにその青年――アドネイが大仰な身振りで語り出す。


「まず、そもそもの話として――ゴーレムの令珠をどうやって奴は手に入れた?」

「それは……ブクレシュが発見されたから、ありえなくはない」

()()()()()()()()()()に、糞みたいな人間共が土足で踏み込んでいるのは本当に腹が立つがね。だが、その解答は0点だ。令珠は繊細な物だからね、造られてから何百年も経っている物を拾ってすぐ使えるわけがない」


 その言葉にレムレスが目を細めた。我が愛しきブクレシュ? なぜそのような言葉が出る。


「じゃあ、仮に令珠は手に入ったとしよう。それで奴はどうやってそれに命令を刻んだんだ? 魔力を使って~なんてさっきはそれらしく説明していたけど……人形師の秘技がそう簡単に使えるわけがないだろ」


 それは……アドネイの言う通りだった。


 そこがもっともレムレスを悩ませた問題だった。方法も動機も分かった。だが……それをタロスがやれるとは正直思えなかった。はっきり言ってしまえば、タロスが実は凄腕死霊術士だった、よりも荒唐無稽なのだ。


 だが、レムレスはタロスが証拠品である令珠をいまだに所持している方に賭けたのだ。それを調べれば、何か分かるかもしれないと。


「だが、まあ正解だよ。花丸を付けてあげよう。そう。タロスは女欲しさに、親友を殺害した。そしてその女の目の前で自殺させたのさ!! 人間の悪意はいつの時代になっても変わらないね」

「そうか……やっと分かった。()()()()()()()()()

「ご名答!」


 アドネイがパチパチと手を叩いた。その顔には嘲りの表情が浮かんでいた。


「悩むタロス君に、色々と教えてあげただけだよ。令珠とそれに込める命令の魔術もセットでね。目の前でフレッシュゴーレムを造ってやったら簡単に僕の言う事を信用したよ! ああ、そういえば自殺に見せかけて、女の前に墜とそうと提案したのは僕だったな。いやはやタロス君はとんだ濡れ衣だ。ごめんね?」


 アドネイが笑いながら、足下にあったタロスの頭部を踏み付けた。


「でさ、回収した令珠は絶対に誰にも渡すなって言っていたのに……君らに奪われそうだったでしょ? だから約束を破ったと判断して殺した。それだけだよ。事件解決、調査終了。お疲れ様でした、と。あ、今から飲みに行く?」


 その言葉に、嘘や冗談が一切含まれていない事に、レムレスは戦慄する。


 こいつは……ヤバい。


 今すぐ逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。


「お前は……なんなんだよ。なぜ、失われた技術であるゴーレムの令珠を持っている。なぜ、それを使いこなせる! そしてなぜお前はアダムと同じ顔をしている!!」

「おいおい、〝なぜ?〟を解くのが君の仕事だろ?」


 嘲笑うアドネイをレムレスが睨んだ。


「まあいい。君にはとても親近感があるんだ。ふふふ……いやあ、なんせ、僕以外にいるとは驚きだったからね。()()()()()()()()()()()()()()なんて考えるだけで絶頂しそうなことをする奴が他にいるなんて」

「っ!! お前は!! 何を知っている!!」


 その言葉にレムレスが激昂し、アドネイへと掴みかかろうとする。

 しかしルーナが素早くレムレスの腕を掴み、それを止めた。


「先輩ダメです!」


 目の前の男が誰で、何者かは分からない。だけど、ルーナは剣士としての勘で気付いていた。この男は絶対にまともに相手してはならないと。


「離せルーナ!! そいつを殺す!!」

「ダメですってば!」

「あはは~。良いコンビだねえ。次はその子を殺して人形にするのかい?」

「黙れ!!」

「おー、怖いねえ」


 全く怖くなさそうな態度で、アドネイが後ずさる。


「さて帰る前に、少しだけ教えといてあげよう。なぜ僕に人形師の魔術が使えるのか。何も不思議ではないさ。なぜならば――()()()()()()()()()。失われた技術? 馬鹿馬鹿しい。何も失われてはいない。お前達はただただ知らないだけだ。身近にいる事に……気付いていないだけさ。あとそのアダム? という奴は知らない。他人のそら似じゃない? まあ長く生きていれば似ている奴も出てくるだろうさ。あはは、案外僕の子孫だったりして」

「馬鹿な……お前はまさか……」


 レムレスが、自分の推測に絶句する。いや、そんな馬鹿な事があるはずがない。


「君は僕と似ていて全く違う。まるで鏡合わせのような存在だ。死を操る死霊術士と生者を弄ぶ人形師。くくく……いよいよ因果めいてきたね。ああ、そういえばきっかけは……()()()()()()()()()。ま、死んじゃったけどね」

「サラ……? まさか……召喚士(サモナー)のサラか!?」


 レムレスとルーナが、同時にあのスライムの召喚士を思い出した。


「最後に……」「これから長い付き合いになりそうだし」「教えてあげよう」「我らは」「〝貌無し(フェイスレス)〟」「――神なき人形劇に」「幕を下ろす者」


 気付けば――レムレス達は、ぞろぞろとどこからともなく現れた群衆に囲まれていた。子供も居れば老人もいた。冒険者もいれば、どこかの店の店員のような格好の女性がいる。全員が怖いぐらいに無表情で……まるで操られた人形のようだった。


「どこから……」


 ルーナは目の前の光景が恐ろしかった。サンドゴーレムなんかよりも……よっぽど異形だった。


 二人が呆然としているうちに、群衆が無言で去っていく。その中に、アドネイの姿があった気がするが、レムレスはそれを追う事が出来なかった。


「先輩……」

「……警察士を呼ぼう」

「はい。あの……先輩……大丈夫ですか……? 顔が真っ青ですよ」

「大丈夫だ。大丈夫のはず……だ」


 レムレスはいつの間にか消えた煙草の火を付け直そうとジッポウを手に持った。


 笑えるぐらいに手が震えていた。


 公園に、何度も何度もジッポウが開く金属音が響いた。

更新はよ、続き読みたい!と思ったそこの方、是非ともブクマと評価をしていただければ幸いです。めっちゃ頑張ります!

ブクマはページから上部もしくは↓ 評価は広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★をするだけです!

よろしくお願いします! 面白くなかったら★一個にしましょう!

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ハイファン新作です! 冒険者のパーティに潜入してランクを決める潜入調査官のお話です!たっぷりざまあがあるので、お楽しみください!

冒険者嫌いのS級潜入調査官 ~冴えないおっさんなんて要らねえんだよ、と追放されたので査定は終了だ。ん? 元Sランク冒険者でギルド側の人間だって知らなかった? 今さら遅え、Eランクからやり直しな~



興味ある方は是非読んでみてください
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