僕の彼女は石原さとみ
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ほおずきれいこの骨髄ブログ(骨髄ドナー体験談他雑記ブログ)
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門限まであと2時間。
17時で真っ暗なこの時期だからできること。今日は温かい。
絶好の初体験日和。
これが、12月に入るといきなり寒くなり外ではできなくなる。
かといって、温かい夏の日に暗くなるまで待っていたら、彼女の門限である19時を過ぎてしまう。
中学生の僕にホテル代を払うほどのお金はないし、第一、そんな勇気はない。はたして、中学生どうしでホテルに行っちゃうやつなんているのか。
いないだろうな。じゃあ、どこでしたらいい?自宅?無理無理。自宅には母と小学生の妹が常にいる。
中学に入って人生初の彼女ができた。夏休みの後、告白したんだ。彼女は同じクラスの中学一年生。学校ではみんなマスクをしているから顔がなかなか覚えられなかったが、彼女はよくみたら石原さとみに似ていることに気づいたんだ。
それからというもの、石原さとみが好きな僕は、彼女が気になってしかたなかった。マスクの下の顔はまだ見たことないから、どれぐらい似ているのかはわからない。でも、僕の脳はもう石原さとみとして認識してしまっている。
そういう僕も、佐藤健に似ているといわれ、ほかのクラスからも見に来る女の子がいるぐらいだ。でもマスクをとると全然違うのは自分がよく知っている。だから、学校では絶対マスクを取りたくない。てか、彼女の前でもまだ顔の下半分を見せていないんだ。
だから、初めては暗闇でしたいと思っていて、秋まで待っていた。夏休み明けのまだ暑い季節から、この公園のベンチで彼女と語り合いながら、姿や色を変えてゆく木々を見てきた。
木枯らしが吹く。枯れ葉が舞い落ちる。
「暗くなるの、早くなったね」完全に日が没してから僕は言った。
「あっちへ行こう」そう言って彼女の手を取ると、ベンチから立ち上がり、暗闇の中に連れていく。
立ち入り禁止の札が立っている芝生に入っていく。今は、赤や黄色の天然のクッションがしきつめられているが、夏には青々とした芝生があった場所。足を運ぶたびに、サクッサクッと小気味よい音が静かな公園に吸い込まれる。
「ここに座ろう」
街灯の光が届きにくい場所に彼女を誘導し、握った手をそのままに、片方の手で彼女を抱きしめ、枯れ葉の布団の上に二人座った。
「目、つぶって」
「ん……」素直に目をつぶる彼女。
僕は、彼女のマスクを外し、自分のマスクを外し、彼女の唇に自分の唇を重ねた。
僕は、今日、初体験をした。キス初体験。
石原さとみ似だと思っていた彼女は、マスクをとると、石原さとみとは似ても似つかなかった。でも、そんなことで、嫌いになったりしてはいけない、と自分自身に言い聞かせる。
「かわいいね」と何度も彼女に言ってきたが、取り消したい気持ちだった。
だがしかし、容姿で人を判断することがナンセンスなことはわかっている。わかっているつもりだが……。
今日もいつもの公園のベンチにふたり、座る。あれから僕の態度はよそよそしくないだろうか。なるべく変わらない態度で接してきたつもりだ。
ぼくは彼女が好きだったんじゃない、石原さとみが好きだったんだ。同様に、彼女も僕のことが好きなんじゃなくて佐藤健が好きなのかもしれない。
そう思うと怖くて、彼女にまだ素顔を見せられない。
人間とは勝手なものだ。