迷路
迷路を書く仕事が舞い込んできた。
できるだけ大きな迷路を書かなければならない。
しかも納期は二日。
イラストを盛り込まないといけないので少々考えないといけないパターン。
よし、まずは絵を先に仕込んでおいて、つないでいこう。
まずマス目を塗り潰して、正解ルートを作って色を抜いて…。
通過点にイラストを置いて…うーん、おかしなマス目ができてしまった、消してやり直して…。
よし完成、スタートからゴールまで辿ってみるか。
スタートからゴールまでを・・・あれ。
…ヤバイ、迷路に入り込んでしまった。
ええと、この迷路は、一本道でゴールにいけるようになってるからー…。
よしよし、慌ててはならぬ、落ち着いてゴールまで行けば出られるはずだ。
…たまにこう、意識が入り込んでしまう癖、どうにかならんもんかいな。
ええと確か突き当たりを右にいったらゴールがあったはず。
…自分の書いた世界に入り込んじゃうんだよねえ。
ああ、ゴールの文字が見えてきた、よかったよかった。
…今日は迷路だったからまだましか、この前はごっちゃごちゃのトリックアートの中だったから大変なことになったんだった。
あれ、ゴールはここなのに、出られないぞ?
…ファンタジーイラストの時もモンスターに囲まれてえらい目に合ったんだよね。
ヤバイ!!!
そういえば、ゴールのところの枠線、閉じたまんまだ!!
まずい!!白い部分に到達して初めて、このおかしな空間から脱出できるはず!!
ということは…黒い枠線に囲まれているこの迷路から、私は出ることができなくなった?!
「ちょ!!!誰か!!たーすーけーてー!!!」
迷路の壁と、ゴールの文字が目の前に浮かんでいるおかしな空間に、私の叫び声が響き渡る。
「ちょ!!勘弁してよ!!クッソー!!消しゴムの一つでも持ってくれば良かった!!」
ドカンドカンと壁を蹴るものの、まるでびくともしない。
…詰んだ!!!
あたしゃこんな訳の分からん空間で人生を終えることになってしまうのかい!!!
クッソー!!こんなことならあんなことやこんなこと躊躇せずにうぎぎ!!!
ピ―――――――――――――――ン!!
あれ、なんかいきなり真っ暗になったぞ。
何コレ、なに、な……。
「にゃーん。」
「はっ!!!!」
気が付くと、私の目の前には電源の落ちたパソコン。
電源の落ちた、パソコン…?
猫が、パソコンの電源がつながっているタップのスイッチを切ってくれたのであった。
「さすが猫!!頼りになるな!!美味いささみ食わせてあげねば!!」
ぐーるぐーる!!
猫ののどが絶好調に鳴っている。うう、めっちゃご機嫌だね、ありがとね!!
でもね。
助けてくれてありがたかったんだけどね。
切ってくれた、くれたけれどもおおおおおお!!!!
「…今まで書いてた迷路!!」
助かったけど、助かってない!画像保存したの、いつだった??
恐る恐るパソコンを立ち上げてみる…。
だめだ、作業内容は復元できないみたい。
データ保存されている可能性にかける!!
画像ファイルフォルダを開いて…うはあ!!!
枠線書いたところしか保存されてない―――!!!
ぎゃあアアアア!!私の作業時間を返せええええ!!!
…返ってくるわけ、ないやんけ!!!
私は再度迷路を書き始めた。
今度はしっかり、ゴールとスタートを書いて、枠線の一部をしっかり消す。
よーし、コレでいつ迷路に入り込んでも平気だぞと意気込んで作業に取り掛かったけれど。
迷路に入り込むことはなく。
猫に再び電源タップのスイッチを切られるというハプニングを乗り越えて。
無事依頼を遂行することができたのであった…。
教訓:猫は助けてくれるが、ひどい場合もございます。
なお、電源タップは新しく買い替えた模様です((((;゜Д゜)))




