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入学

 入学式を終えた。その夜ベッドに入った時に、

「あ、そうだ。そろそろ母さんに電話しないとな。寂しがってるだろうから。」

俺が言うと、

「お前はそういうとこ、偉いよな。感心するぜ。」

と、海斗が言った。

「そりゃあ、お前と違って俺は、育ててもらったのが当たり前じゃないからな。」

と言いながらスマホを操作していると、海斗が黙って背中にくっついてきた。

「もしもし、母さん?元気?」

「岳斗?うん、元気よ。入学式はどうだった?」

母さんと、少し話をした。海斗にハグされたまま。そして、

「じゃあ、海斗に代わるね。」

と言ってスマホを海斗に渡す。海斗は驚いた顔をしたが、渋々受け取って、母さんと少し言葉を交わしていた。そして、すぐに俺にスマホを返した。もっと話してあげればいいのに。母さんにとって、海斗はどれほど可愛いことか。

「もしもし?じゃあ、またちょくちょく電話するからね。お休み。」

そう言って、電話を切った。

「岳斗、いい息子だな。母さんは幸せだよ。」

と、海斗がしみじみと言った。これくらい孝行しないと。学費や生活費を出してもらっているわけだし。

「海斗はもっと、親孝行しなよ。」

と俺が言うと、急にキスされた。びっくりしていると、

「うるさい。」

と、海斗が言った。なんだか、二人きりでずっといられるのって、嬉しいけど、照れくさい。いい雰囲気になってしまったら、この後どうしたらいいのか分からなくなる。

「あ・・・今日も疲れたな。明日から早起きだし、もう寝よう!」

俺はやたらと元気にそう言って、布団をかぶって海斗に背中を向けた。

「そうだな。お休み、岳斗。」

海斗はそう言って、俺の頭をちょっと撫で、電気を消した。一方的に切り上げすぎたかな、二人きりの甘い時間を・・・。


 翌朝から、授業が始まった。なるほど、工学部というのは女子が少ない。あまり数字を気にしていなかったので、実際に教室に座ってみて初めて分かった。十人に一人と言ったところだろうか。キャンパスは広く、学生が混み合う事もない。ここなら、海斗が現れて悲鳴が沸き起こる事もなかろう。

 何となく近くに座った人たちと話をした。

「へえ、兄貴と二人で住んでるんだ、いいなー。」

と言われた。地元から通っていて、実家暮らしの学生が多いようだ。独り暮らしをしている学生もいるが、ほとんどが道内か東北地方の出身だと聞いた。東京には付属校があるけれど、そこから上がってきた学生は見かけなかった。学年全体でも何人もいないのだ。

 「岳斗!」

数人で校舎から出たところで、海斗が俺を呼び留めた。

「もしかして、あれが兄貴?」

友達に聞かれて、そうだと答えると、

「すっげえ、イケメンだな。さすが東京出身だな。城崎もイケメンだもんなー。」

と、少し東北訛りで言われた。

「そんな事ないよ。」

と言っている間に、海斗が俺の前に現れた。

「今から帰るのか?一緒に帰ろうぜ。」

と言って、俺の肩に腕を回した。友達から俺を奪うようにして連れ去る。そんな事しなくたって、俺がこの男子たちに狙われるわけもないのに。少し笑ってしまう。俺は、新しい友達たちに手を振って別れた。みんな呆然とこちらを見ていたが、手を振り返してくれた。


 翌日、昼休みに学食で食事をしていると、葵さんと慎二さんに会った。

「おー、岳斗くん。」

「こんにちは。」

俺は挨拶をした。すると、

「ねえ、海斗の彼女って誰なの?岳斗くん知ってる?」

と、また葵さんに聞かれた。

「この大学の一年生なんでしょ?」

「そうなのか?!」

慎二さんが驚いて聞いた。

「この間、海斗が言ってたのよ。バイトを減らしたのは、彼女がこっちに来たからだって。」

葵さんが慎二さんに言う。

「なるほど、もう毎月の飛行機代は稼がなくて良くなったってわけか。」

慎二さんは何度か頷いた。

「で、どの子?知ってるんだろ?」

と、慎二さんが俺に言う。

「えーと、知りません。すみません、じゃあ。」

俺はそう言って、逃げるようにトレイを持って立ち上がった。海斗、このまま隠し通せるとも思えないぞ。彼女とは別れた事にしておいた方が良かったんじゃないのか?


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